フェノールの酸化的カップリングで可能になるArylomycinのグラムスケール合成とケミカルバイオロジー

最新論文紹介

C-Hを単にくっつけるだけで終わらない。

Scalable Access to Arylomycins via C−H Functionalization Logic

JACS 2018, ASAP, DOI: 10.1021/jacs.8b00087
David S. Peters, Floyd E. Romesberg, and Phil S. Baran

有機化学の怪物prof. Phil Baran

は驚異の全合成力で知られていて、有機化学しているなら誰もが論文を読んで驚愕した事があるはずだ。

最近は全合成よりなんとなく反応開発に力入れているね。電解反応、ニッケル、ラジカルなど多様な反応開発にチャレンジしている。
開発している反応は画期的でいい反応に思えたり、何が新しいかイマイチわからん反応だったりするけれど、どの論文もプロポーズする力は異常だ。

「俺はこれがしたいんや!!!」みたいな熱い願いが伝わってくる。

この辺が大事よなぁー見習わないと(*´ー`*)

さて、今回紹介する論文はバラン先生の願いが詰まった論文の1つ。

ここをくっつけたいんやーぁー!!


図1. フェノールの酸化的カップリングによるarylomycinの合成

って論文。また今回は同じScripps研究所のFloyd E. Romesberg先生とコラボして生化学にも踏み込んでいる。

合成の鍵反応

過去に報告されていたArylomycinの合成法は鈴木-宮浦カップリングで二つのフェノールをくっつけていた。それはそれで自然に思える合成ルートだが、原料にホウ素やヨウ素を導入しておくのが多少面倒だ。


図2. 過去の鈴木・宮浦カップリングを用いた合成法

今回はそれをフェノールの酸化的カップリングでくっつけたらいいでしょう、という論文。

殺人的な量の反応条件を検討することで、原料のトリペプチドが環化し、目的のArylomycin骨格の生成物が得られる事を見出した。
結果としては、銅塩を酸素存在下反応させると分子内酸化カップリングが進行する。


図3. 銅酸化剤を用いたarylomycinの合成

2つのC-Hでくっつき、事前にハロゲン化やホウ素化が必要ないので、短工程で大環状化合物を合成できる。
また工程が短く高収率なので数グラムスケールで合成可能。

おぉ〜すごいぃ~(^○^)

 

アピールのすごさ

注目すべきはアピールの貪欲さ。

鍵となるフェノールの分子内カップリングがいかに難しかったかを示すため、上手くいかなかった反応条件を以下のように綺麗に図にまとめて説明している。


図4. フェノールの分子内カップリングがいかに難しかったか(論文の図を一部改変)

ほとんどの酸化剤では反応がうまくいかず、また銅酸化剤を用いたとしても、銅塩に何を用いるか、配位子に何を用いるかで結果が大きく変わってくる。また酸化剤は酸素、溶媒もアセトニトリルが特異的に良いことを主張している。

ネガティブデータをここまできれいにまとめて論文本文に載せるのはめずらしい。

こういう苦労話をここまで赤裸々にできるのはBaran先生故よなぁ(^_^;)
すでに信用があるから、苦労を書くことによってよっぽど難しいことしたように思える。

そもそも有機化学やってるならそういう苦労している人は少なくないだろうけど(^_^;)。

 

C-Hでくっついた!で終わらない。

近年は単にC-Hでくっつく事に満足せず、それで何ができるようになるかを提案するのがトップ化学者のトレンドだ。

今回Baran先生はC-Hでくっつける意味を以下のように提案している。

・C-Hでくっつく方法を開発
→ 短工程かつ高収率でarylomycin骨格が合成可能
→ 大スケールでarylomycinが得られる。
→ arylomycinを原料にして各種誘導体を導いて生理活性を評価できる。

新しい反応が新しい合成を可能にし、新しい合成が新しい生化学を開くという理屈。

すごいね(^O^)!!

言うは易し行う難しで、素晴らしい成果だと思われます。

古典ともいえるフェノールの酸化カップリングを開発して、ここまで夢のあることを提案できる人はBaran先生以外にいないでしょう。

ん~毎度のことながらBaran先生の有機化学に対する熱と力を感じずにはいられんなぁ。(´-ω-`)

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