全合成に狂気を宿す
Synthesis of (+)-Pancratistatins via Catalytic Desymmetrization of Benzene
J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 15656.
Lucas W. Hernandez, Jola Pospech, Ulrich Klöckner, Tanner W. Bingham, and David Sarlah
全合成の驚異的進歩
昔は天然物を合成すること自体に意味があった。
Woodwardの時代から合成が爆発的に進歩し、様々な天然物が人間の手で合成されるようになった。
その過程で、全合成は有機合成を進化させ、進化した合成手法は全合成を効率化した。
その結果、毎週のように優れた合成研究が報告されるようになった。
人間の感覚は溢れてくると麻痺するもので、もはやどんな天然物を合成されても僕らはそれほど驚かなくなり、「おーすごいね」くらいの反応しかしないようになっている。
そんな合成乱世の世の中、これからの合成は狂気が必要なのかもしれない。
これまで偉大な化学者が培ってきたセオリーや定跡を、あえて逸脱し、その中で有機合成の可能性を広げる事が求められている。
今日紹介する論文がまさに狂気をまとった合成で、
なんとつるつるのベンゼンから天然物のpancratistatinsを作ったらしい。
図1. 狂気の逆合成解析
(^_^;)いやいや、その逆合成はおかしい。。。
え?しかもたった7行程?グラムスケール?不斉合成なの?
ありえん。。。
論文を見てみよう。
驚異の芳香環修飾
鍵反応は一段階目
著者らは以前ベンゼンとMTADが可視光照射で脱方向族化しつつ付加反応し、多置換六員環化合物を与える事を報告している(参考文献1)。
今回はその反応を応用し、発生する中間体ジエンにニッケル触媒を作用させ、グリニャール試薬を反応させている。
しかもなんと配位子を検討することで不斉反応も可能。
ベンゼンの脱芳香族不斉アミノアリール化、これだけでJACSに載ってそうだ!
図2. ベンゼンの脱芳香族不斉アミノアリール化
で、こうして一段階で得られたジエン化合物を立体選択的ジオール化×2
立体の制御されたテトラオールがこんな簡単に、、、(^_^;)
図3. 立体選択的テトラオール合成
最後はウラゾール基を脱保護してアミノ基に変換。
その後、環をまいて、deoxypancratistatinを合成。
おーなんか保護もせずに環化をあっさりやってますが金属触媒つかうのね??
ここから最後は内山先生らの銅を用いたCーHヒドロキシル化(参考文献2)。2016年に報告された最新反応でキメる!
図4. フィニッシュブロー
おっしゃれー!!
お、お、おしゃーー!
まさにセオリー無用、狂気の合成。
最新の反応が可能にする全く新しい合成戦略。
本当に卓越した研究成果だと思います。
こういうのが今後強く求められるようになると、全合成の研究者は以前にも増して大変ですね(^_^;)
●他のおすすめ記事はこちら
参考文献
(1) Emma H. Southgate, Jola Pospech, Junkai Fu, Daniel R. Holycross & David Sarlah, Nat. Chem. 2016, 8, 922.
(2) Noriyuki Tezuka, Kohei Shimojo, Keiichi Hirano, Shinsuke Komagawa, Kengo Yoshida, Chao Wang, Kazunori Miyamoto, Tatsuo Saito, Ryo Takita, and Masanobu Uchiyama, J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 9166.
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