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四級炭素中心をガイドにする新しい全合成戦略

 
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不斉四級炭素を積極的に利用しよう!

Quaternary-centre-guided synthesis of complex polycyclic terpenes

Nature 2019, doi.org/10.1038/s41586-019-1179-2
Pengfei Hu, Hyung Min Chi, Kenneth C. DeBacker, Xu Gong, Jonathan H. Keim, Ian Tingyung Hsu & Scott A. Snyder

四級不斉炭素”で”作る!?

炭素から異なる置換基が四つ手が生えると、キラルになって不斉四級炭素になる。一般的に不斉四級炭素は作るのが難しく、有機合成化学者はどうやって効率よく作るかに頭を悩ませている。

作り方ばかりが気になる四級炭素であるが、今回紹介するのは、まったく逆転の発想。

”四級炭素を積極的に利用して分子を作ろう”という新しい全合成戦略を提案している。

どういうことだろう?論文を見てみよう!(^O^)/

 

四級炭素で反応を制御する

この本合成は四級炭素の性質をうまく利用し、反応を制御している。例えば以下の反応を見てみよう。

一段階目の酸化は、ケトンのα位が二か所あるが、で示した四級炭素のかさ高さを利用して、位置選択的に酸化している。さらに続く分子内環化は同じ四級炭素のソープ・インゴールド効果により円滑に反応が進行することが期待される。

なるほど~四級炭素の立体的な大きさで反応阻害と反応促進を設計しているのね(^-^)

次も同様にで示した四級炭素の立体的かさ高さを利用し、アルキル化を位置選択的に行った。さらに続く溝呂木ヘック反応は、中間体のアルキルパラジウム種について、で示したβ位が四級炭素になるため、β水素脱離せず、酢酸が導入される。なんとこれは新規反応!四級炭素の性質を利用することで、特異的な反応が実現できることがわかる。

続いて、NHKカップリグでアルキル基を導入した後は、再びで示した四級炭素のソープ・インゴールド効果を生かした還元的溝呂木ヘック反応で、四つの環が縮環した化合物が得られた。

この化合物から、官能基変換することで以下の天然物を合成した。

おお~すっごくきれいな合成ね~~(゜o゜)

 

所感

まず、きれいな合成だよね~!

無駄がない、流れるような全合成。みるみる骨格ができていくスキームは圧巻。ぜひ論文見てほしい。

そして、ただこの化合物を今回のルートで合成するだけでなく、「四級炭素を積極的に利用するんだ!」という明確な合成コンセプトを提示している。

著者らも述べているが、もちろん、これまでの全合成でも四級炭素の性質を利用してきた合成例はいくらでもある。そんな中、本論文の価値は、「四級炭素を積極的に利用する合成戦略」をきちんと合成戦略として提唱したことにあるのだろう。このあたりがNatureの全合成ということか。

全合成の教科書に載りそうな、クラシックな香りがすでにする。

すばらしい論文ではないでしょうか??(@⌒ー⌒@)

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