芳香族化合物ホウ素化の新アプローチ
Isodesmic C−H Borylation: Perspectives and Proof of Concept of Transfer Borylation Catalysis
J. Am. Chem. Soc.2019, 141, 12305-12311
Étienne Rochette, Vincent Desrosiers, Yashar Soltani, and Frédéric-Georges Fontaine
新企画
なんと弊ブログが現代化学さんとコラボすることになりました!
その名も「有機化学論文研究所特別出張所」
弊ブログで紹介した記事について、より詳細な議論が現代化学さんの紙面で読めるよ、ということになります。ブログはさらっと読んで、紙面はじっくり読んでいただけたらなぁ、と思います。
といいつつも、現代化学さんはかなり一般向けな雑誌にも関らず、かなり重ための有機化学の論文を紹介していきます。我ながら大丈夫かなぁ・・・?この企画がすぐ打ち切りになった時は察してください。
現代化学さんでの記事は現代化学2019年10月号で読むことができます。あわせて読んでね!!ヽ(^o^)丿
反応概要
Rochette, Fontaineらはヘテロアリールボロン酸のホウ素がヘテロ環へ移動する反応を見出した。
N-メチルインドール(1)と2-フリルボロン酸誘導体2を2-メルカプトピリジン(3)触媒量存在下、110℃で24時間反応させると、ホウ素がインドール環へ移動した生成物4が得られた。ヒドロボランを用いた普通のホウ素化反応だと反応しちゃいそうな、オレフィンやアルキンが許容なのも特筆すべき点。
図1. 有機触媒によるホウ素移動反応
本当にホウ素が芳香環から芳香環へピョコっと移動している・・・!まじ?
気になる点として、見慣れない触媒を用いているね。
触媒の役割
実は今回の触媒の設計はRepoらの触媒系を参考にしている(1)。2-アミノピリジニウム5がカテコールボランと反応することでボレニウムイオン6が生成し、6がN-メチルインドール(1)と反応し、ホウ素が導入された生成物4が得られるとともに、触媒5が再生する(図2)。
図2. Reppoらの触媒
著者らはより単純な化合物で似た働きをする化合物として2-メルカプトピリジン3に注目した(図3)。B-S結合は弱いので発生するボレニウムカチオンに対する硫黄の相互作用が少なく、より高い触媒を実現する狙いだ。このシンプルな有機触媒を用いることで、ホウ素の芳香環から芳香環への移動反応が可能になった。非常にシンプルな市販の化合物で、このような興味深い触媒活性が見出された点は実に驚きだ
図3. 今回の触媒
所感
Repoらの触媒をヒントに、アリールホウ素化合物に作用するシンプルな有機触媒を見出した。その新たに見出した触媒の優れた活性を活かし、従来例を見ないisodesmicなヘテロアリールホウ素化合物とヘテロ芳香環のホウ素移動反応を見出した。炭素-ホウ素結合がここまで容易に組み変わるのはびっくりだよね。
有機化学にある程度慣れた人なら、「今回の反応の駆動力はなんだろう?」と考えるかもしれない。今回の反応は結合の数や種類が反応前後で変わらないので、逆反応が進行してもおかしくないはずだ。
図4. 逆反応が進行してもいいのでは??
著者らはこの点について計算化学によって考察し、「なぜ今回の反応が進行するのか?」「なぜ2-フリルボロン酸誘導体がよいホウ素源になるのか?」を明らかにしている。
本当に勉強になるし、卓越した成果だと思います。
このあたりの議論は、元論文はもちろん、現代化学さんの記事で少し詳し目に書いているので、ぜひそちらも読んでみてください!
参考文献
(1) Konstantin Chernichenko, Markus Lindqvist, Bianka Kótai, Martin Nieger, Kristina Sorochkina, Imre Pápai and Timo Repo, J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 4860-4868.
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