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【セルフプレスリリース】アミン触媒の新しい活性様式を発見

 
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自分でプレスリリース

Streptocyanine as an activation mode of amine catalysis for the conversion of pyridine rings to benzene rings

Morofuji, T.; Nagai, S.; Watanabe, A.; Inagawa, K.; Kano, N. Chem. Sci. 2023, asap. (https://doi.org/10.1039/D2SC06225A)

★アミン触媒の新しい活性様式を発見

発表のポイント

・2021年ノーベル賞にもなった有機触媒の代表例である”アミン触媒”の新しい活性様式を発見した。

・従来のアミン触媒はカルボニル化合物に対して作用するケースがほとんどだが、今回は芳香族化合物であるピリジン化合物をベンゼン類へ変換することができる。

・実用性・有用性うんぬんはさておき、他に類を見ない奇妙な触媒反応が実現した。たまにはこんな意味不明な反応もいいでしょ?

発表内容

研究背景

アミン触媒は最も一般的な有機触媒である。アミン触媒を利用した反応は星の数ほど報告されてきたが、アミン触媒の活性様式は数種類しか報告されていない。最もメジャーなものはカルボニルと二級アミンから発生する”イミニウム”と”エナミン”である。多くのアミン触媒の反応はこの二つのいずれかの活性種を利用している。ここに新しい風を吹かせたのが、ノーベル賞化学者のDavid MacMillan。2007年、MacMillanは”SOMO activation“という新しい活性様式を報告し、数多くの斬新なアミン触媒反応を開発した。この歴史的な事実からも明らかなように、アミン触媒の新しい活性様式を見出すことができれば、有機合成化学の可能性を広げることができる。

本研究の内容

本研究著者らは以前からN-arylpyridiniumに二級アミンを加えると開環して、共役メチン化合物(ストレプトシアニン)が生成するという反応に注目して研究を行っている(例えばこれとかこれ)。この反応自体は古くから知られているものの、触媒プロセスに応用されたことはなかった。

本研究ではこの知見を触媒反応へ展開し、ストレプトシアニンを鍵中間体として全く新しい有機触媒反応を開発した。すなわち”ストレプトシアニン”がアミン触媒の新しい活性様式であることを提案している。
反応の概要は下図に示す。
① 3位にアルケニル基を持つピリジンの窒素上をN-アリール化して、N-アリールピリジニウムに変換する。
② アミン触媒を反応させ、ピリジン環をベンゼン環に変換する(ここが新しい!)。

また下図に示すように、割と複雑な化合物の変換・合成も行うことができる。

従来の「アミン触媒といえばカルボニル化合物の活性化」という常識から外れた新しいアミン触媒反応となっている。
本研究成果はOpen Accessなのにコストがかからない神論文誌「Chemical Science」誌のオンライン速報版に2022年12月21日掲載された。オープンアクセスなので誰でもこちらから読むことができる。特に反応機構はご覧いただきたい部分となっている。

 

所感

あああぁぁああぁああ!!うれしいわ!!!!

学習院大にいた時のこれまでの研究は割と自信作も多かったのですが、トップジャーナルからはことごとくエディターキックくらいまくってましたからね。ついにChemical ScienceというRSCのフラグシップジャーナルに論文を通すことができました。まさに悲願。

やったぁぁあああ!

喜びの一方で「え、前のこれとか全然ダメで、今回の論文だけ通るの?前の方がどちらかというとレベル高いんやけど……」という思いも正直かなりあります。まぁ、今回の研究は前提知識をあまり求めないし、触媒反応というわかりやすさがよかったのかなぁ、と理解できますが……

ポジティブに考えるなら、今回ある程度評価された研究と同等以上の研究が前からちゃんとできていたことを自分の中で確認することができました。ああ~よかった。

今回の研究は、稲川君、永井君、渡辺さんが行いました。結構きっちりやろうとしていたので、実験は大変だったと思います。

お疲れ様!

 

今回の論文
Streptocyanine as an activation mode of amine catalysis for the conversion of pyridine rings to benzene rings
Morofuji, T.; Nagai, S.; Watanabe, A.; Inagawa, K.; Kano, N. Chem. Sci. 2023, asap. (https://doi.org/10.1039/D2SC06225A)

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