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アミドとオレフィンからケトン合成!分子内水素移動を利用したヒドロアシル化

 
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メタルフリーヒドロアシル化!

A redox-neutral synthesis of ketones by coupling of alkenes and amides

Nature Communicationsvolume 10, Article number: 2327 (2019) doi.org/10.1038/s41467-019-10151-x
Jing Li, Rik Oost, Boris Maryasin, Leticia González & Nuno Maulide

ケトンを合成する

ケトンの合成法は有機合成において非常に重要だ。なんせケトンはそれ自体が目的物に成り得るし、他にもアルドール反応やアルコール合成の原料になるなど、合成中間体として幅広い使い道があるからだ。代表的なケトンの合成法は、下のような反応か。

・アルコールを合成してから、酸化
・ワインレブアミドを用いた合成
・遷移金属触媒によるカップリング反応

どれも教科書に載るレベルで重要な反応であるけれども、今回、紹介する論文は全く異なる反応だ。

早速見てみよう!

 

反応概要

アリルアミンから合成したアミドに対し、2-フルオロピリジン存在下、無水トリフルオロメタンスルホン酸を加えたのち、αメチルスチレンを反応させる。水でクエンチすると対応するケトンが86%で得られた。


図1. アミド活性化によるメタルフリーヒドロアシル化反応

おぉ~シンプルかつきれいにケトンが合成。(゜o゜)

ここで気になるのはアミドの窒素に置換したアリル基。著者らがアリル基を選択した理由は反応機構を考えるとわかる!

 

反応機構

アミドの無水トリフルオロメタンスルホン酸による活性化は、Maulideらを筆頭にかなり報告されており、よくみられるアミドの活性化手法(同著者のアミド活性化を利用した別の反応)。アミドから無理矢理酸素を奪うことによって、反応性の高いニトリニウムイオンが発生する。

このニトリニウムイオンに対してオレフィンが付加するとカルボカチオンが発生する(図2下段中央)。このカチオン種は当然反応性が高いので、すぐさまつぶさないとオリゴマー化など余計な副反応が起きてしまう。本反応では分子内水素移動で比較的安定なカチオンに変化させている。このカチオン種は反応後、加水分解することでケトンに変換される。


図2. ヒドロアシル化の反応機構

なるほど。水素移動させるためにアリル基を用いて、移動する水素と炭素の結合を弱くしていたんだろうね(^O^)!

 

所感

無水トリフルオロメタンスルホン酸によるアミド活性化の化学に、分子内水素移動の化学をハイブリットした巧妙な反応。言葉にするとややこしそうだが、非常にシンプルなケトン合成法を実現。

解決法は単純で、つい簡単そうに思えるが、ヒドロアシル化として考えたとき、今回の分子変換の難易度はかなり高いのではないだろうか。

後、反応機構について計算化学によりサポートしている。この辺のデータ積み上げる辺りはさすが。しかし、個人的になんとなく、水素移動は協奏的に進行している可能性もあるような気がしている。ありえないのかな?詳しい人いたら教えてください。

なんにせよ、ケトン合成の新しい方法。既存法に対しどれくらい優位性があるかは未知数であるが、シンプルなアイデアで困難を見事に解決するスマートな論文。こういう反応が好きです、私ヽ(^o^)丿!

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