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21世紀学術専門書不要論

 
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手が届かない専門”書”は必要なのか?

*この件はぜひみなさんのご意見を聞かせてほしいです。

みんなお世話になる専門書

本当に学問的な知見を集めた『専門書』といわれる本がある。そんなに売れる本ではないが、その分野を学ぼうとする人には大変ありがたい資料で、私も何冊もお世話になった。例えば、私はCSJカレントレビューの「不活性結合の・不活性分子の活性化」などは本当に何度も読んだし、最近は典型元素の専門書を何冊か読んだ。

で、こういった本は当然、その分野のエキスパートの先生が執筆してくれている。専門書は専門家にしか書けないのだ。

ここで勘違いしてはならないのが、専門家であってもスラスラ適当に書けるものではないということだ。「これで科学的に正しいか?漏れはないか?」と常に神経を尖らせて一行一行絞り出すように文章を書き連ねていく。

これは本当に無茶苦茶大変な作業なので、一般的には一冊の専門書を仕上げるために、沢山の先生が分担して執筆する。

まさに『専門書』は最高峰の専門家が力を合わせて生み出した知の結晶ともいえるだろう。

驚愕のシステム

そんな素晴らしい専門書が不要とは何事か!?と言いたくなるかもしれない。ちょっと落ち着いて僕の話を聞いてほしい。すべての専門書を否定するわけでなくて、こんなことがあったんだ。

専門書は読ませてもらうばかりの僕であったが、最近ご縁があって、とある出版社から専門書の分担執筆の依頼が来た。

「あぁ~ずいぶん時間がたったもんだ~」なんてノスタルジックな気分に浸ったのは束の間。原稿料を見て驚愕。

1ページ書いて、1000円!!

ちなみに東京都の最低賃金は時給1013円。文献調査とかすると絶対一時間に1ページもかけないので、実質的に最低賃金以下で専門書を書くことになるのだ。

このわずかなお金が欲しくて、専門書を執筆する人間はいないだろう。つまり専門書は先生方の半ボランティアってわけ。ちょっと考えればわかることかもしれないが、僕はこの事実を今になって初めて知った。

学生でも手が届くような数千円の本なら、僕はそれでも全然かまわないんだけど、この本は数万で売られるらしい。ここが超問題。

 

問題点

お前はそんなに金が欲しいんか?学術に貢献する気はないんか!?と怒る人がいるかもしれないね。

ちょっと落ち着いて僕の話を聞いてほしい。別にお金じゃない。お金だったらblogとかYouTubeやってまへんがな・・・

僕が問題視しているのは、日本最高レベルの研究者に半ボランティアを強いながら、数万という高値で本として売ることで科学的普及・啓蒙効果が失われていること。だって売値が数万の本なんて、学生は(社会人も)欲しくても買えないよね?一番読んでほしい未来を担う学生に全く届かない。あんなに沢山の先生が頑張って書いたのに。こんなアホらしいことある?

専門書は買う人間が決まっているので、販促がほぼ意味をなさない以上、本という売り物になって得しているのは出版社だけになる。大量の専門家を最低賃金以下で使い、メチャクチャ高く売って、ちゃっかり自分はお金を儲けるって、どういうビジネス??

原稿料をあげれば解決するのか?といわれると、たぶん違う。納得感のある原稿料は少なくとも今の10倍以上にしなければならない。しかし専門書がそれほど売れるわけないので、これは現実的でないだろう。

そもそも金目当てで専門書書くほど、暇な先生はいない。ただただ、後進のために、誰かの勉強の助けになってほしくて、死ぬほど忙しい時間をやりくりして書いてくださっているのだ。

だとすればだ。

小さな原稿料と引き換えに、ごく少数しか読めない高価な専門”書”を作るくらいなら、一層のこと、ボランティアで執筆して、PDFファイルを無料公開したほうが良くないか?

一般的な書籍は、本屋に並べたり、販促によって幅広い人に届けられる点において、本という形にすることに意味がある。一方で、現在数万以上で売られるような専門書は、必要な人は勝手に探してくるので、探せば見つかる場所に置いておけばよい。専門的な知見を集めて配布するには、昔は本という選択肢しかなかったが、この21世紀においてまだ本にするメリットある??

ボランティア&無料はさすがに・・・というなら、PDFを配布する団体(学会とか?)がダウンロード時にお金を集め、その分を執筆した先生に原稿料としてお渡しすればよい。出版社の中抜きが減る分、だいぶましになるだろう。

 

議論求む

ここまで、不満を爆発させて書いてきたが、この件に関してみんなの意見が気になる。

僕はこの原稿料見て怒りが湧いたんだけど、もしかしてこんなこと気にするの僕だけ・・・??

みんなが読めない高価な専門書を作ることは、先生たちの時間を奪い、日本の研究力を削いでいる気がしてならないんよ。。。

あ、あと僕はすべての専門書は否定しない。本で綺麗にまとめること自体に価値はあるし、見やすくなることは素敵だと思う。有能な編集者の力で、研究者が寄り集まって作るものよりクオリティが高いものができることも大いにあるはず。全部読んだわけではないが、CSJカレントレビューとかそんな感じだよね。でも、それも、手の届く金額で幅広い人に読んでもらえてこそ、だと個人的に思う。

以上、僕は、メチャクチャ高い値がついた企業様限定専門書について、その存在意義を問いたい。

そんな専門書いる?

説教でもなんでもいいので、ご意見頂戴できるとうれしいです。

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Comment

  1. てつ より:

    企業名が数社思い浮かびますが、不要に近いです。
    この「高い専門書」は電話で売りつけに来るのも迷惑です。

    一方で、このような会社が跋扈していると言うことは、
    彼らが売り出す主題で本を編集し、彼らと同じだけ売れる組織というものが足りていないと言うことだと思います。
    大学教員は科研費で出版ができるわけで、自分たちで編纂することを含めて考える必要がある(足りていない)のだと思います。

  2. CuO より:

    ブログ、Youtubeの更新楽しく拝見しています。
    専門書の原稿料を見て驚きました。
    私は学生の立場なのですが、私みたいな学生からすると専門書があるというのは大変ありがたいことです。そのため専門書が出版されることには賛成の立場です。
    ただ専門書の値段は、正直数千円でも高いなと感じてしまいます。ましてや数万円の本はなかなか買えないというのが感想です。
    ご存じかもしれませんが、「放射光ビームライン光学技術入門」という専門書が印刷版だと4000円ですが、電子版が破格の650円で販売されていまして、私も専門分野とは違いますが電子版を購入してある程度目を通しました。
    この例のように専門書の価格を数百円にしてほしいというのは、さすがにおこがましいかもしれませんが、学生の手が届く値段の専門書が充実してほしいと思います。

    • moroP より:

      まぁ、数千円も高いですよね。。。でもラインは主観になるのですが、その程度は仕方ないかもなんですよねぇ。。。
      電子版だけでも安いってのはいいかもしれませんね。

  3. イジリウム より:

    初めまして。
    日本の悪いところですよね,労働に対する対価の考えがひどいところは。
    記事の内容に限らず,中高の部活動の話も同じ原理かと思います。

    教科書執筆の件ですが,根本的に有機化学の教科書は海外の翻訳が多く,これらは日本の教育システムにはマッチしていない感があります。海外の学生は自分でしっかり勉強しないと卒業できませんので,分厚い教科書を必死に勉強しています。
    一方,日本の学生は勉強しないし,教科書は読まずに辞書代わり,,,(もちろん研究室配属の学生は別として)。

    ですので,日本のシステムにもあった良書を作成していくことが今後は大事かなと思っています。
    もちろん原稿料はしっかりもらってですが。
    紙媒体もいいですが,電子書籍に移行して経費を削減するのも大事ですかね。

    • moroP より:

      コメントありがとうございます。
      金で報いてもらうのは厳しそうですよねぇ。

      おっしゃるように学生に届くようにしたいところです。

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