黒川拓真#1
Trifluoromethylated thermally activated delayed fluorescence molecule as a versatile photocatalyst for electron-transfer- and energy-transfer-driven reactions
Morofuji, T.; Kurokawa, T.; Chitose, Y.; Adachi, C.; Kano, N. Org. Biomol. Chem. 2022, asap. (https://doi.org/10.1039/D2OB02055F)
いい光触媒を探そう
光触媒反応は大ざっぱに分けると、『電子移動型』と『エネルギー移動型』に分類することができる。それぞれの反応によって光触媒を使い分けることが重要となる。
良く用いられる汎用的な触媒は『Ir-F』で中程度の酸化力と高い三重項エネルギーを持ち、電子移動型、エネルギー移動型いずれの反応にもよく用いられる。しかし1gで数万円以上するかなり高価な触媒である。また福住先生らが開発した『Mes-Acr+』は有機触媒のため比較的安価でありながら極めて高い酸化力を持っており、電子移動型の反応によく用いられるが、エネルギー移動型の反応には不向きとされている。
僕らは、Ir-Fと同等の三重項エネルギー、Mes-Acr+と同等の酸化力、そして比較的安価な有機光触媒はないだろうかと考えた(おもに研究費の都合)。そんな触媒があればとりあえずのファーストチョイスとして色んな反応をより簡便に検討することができる。
しかし、現状有機合成に用いられている光触媒でその要件を満たすものはなかった。そこで光化学の分野からそうした分子を探すこととした。
そして、我々は九州大学・安達先生らが2018年に開発した深い青色を発する熱活性化遅延蛍光分子、4[Cz(CF3)2]IPNに注目した。4[Cz(CF3)2]IPNの三重項エネルギーが高いことは報告されており、さらに電子不足な構造から高い酸化力を持つことが予想できたからだ。4[Cz(CF3)2]IPNがこれまで有機合成に用いられた例はないものの、極めて高いポテンシャルを直感した。
実際に合成してみて、4[Cz(CF3)2]IPNを光触媒として用いてみると、本当に高い三重項エネルギーと酸化力を両立しており、電子移動型・エネルギー移動型いずれも含む幅広い光反応に適用することができた。『汎用性』という他の光触媒にない特徴を持った極め優れた光触媒であることが分かった。
安達先生の分子すげぇえ!!
しかもイリジウムの光触媒程は値段が高くない。未知の反応をスクリーニングする際に有用なんじゃないかなぁ、と思っている。
後は試薬会社の人が売ってくれるだけだ!
なお本研究は安達先生と千歳先生に共同研究していただき、触媒としての性質を調べていただきました。厚く御礼申し上げます
学生インタビュー
黒川拓真 (M1:2022年11月現在)
あなたが思うこの研究のポイントは何でしょ?
三重項エネルギーと酸化力が両方とも高い有機光触媒を見いだせた点です。シンプルな構造でそれが実現しているのですが、やっぱり安達先生の分子はすごいですね。
またいろいろな反応が一つの触媒で進行するので、実験が簡単というのも個人的に気に入っている点です。
この研究をするにあたって、一番苦労した点はなんでしょ?
安達先生と共同研究を始める前に自前で4[Cz(CF3)2]IPNを合成していた時です。原料の原料合成が文献通りにやってもうまくいかず、反応条件を改良することになりました。いろいろ検討した結果、塩基や溶媒を変えるとほぼ定量的に目的の反応が進行するようになりました。
(注:安達先生が報告された部分が再現とれなかったわけではなく、その前段階の海外の論文を参考にしているときに躓いた。)
この研究をする上で、個人的に一番うれしかった瞬間は?
4[Cz(CF3)2]IPNの合成はさっきも言った通り苦労したわけですが、光触媒として用いた時の検討は一発目で高収率をたたき出しました(*注:我々が以前開発した光環化付加を検討した)。
光触媒として本当に機能するかはやってみないとわからなかったため、この結果には驚きました。思わず、その反応を開発した先輩に「イリジウムじゃなくても反応しましたよ!」って報告しに行きました。
この研究を通して何か学んだことはありますか?
もともと実験は好きで、楽しいことをしていたら気が付くと成果が付いてきていました。改めて実験が好きなことを再認識することができました。
また研究を進めるうえで、ただやるだけでなく再現性などを担保するための質が大事なことを学べました。
これからどうしていきたい
今取り組んでいる研究も色々気になることがでてきたので、引き続き研究を進めたいと思っています。
そして尊敬する先輩がしてきたように、二報目、三報目を出すチャンスがあればチャレンジしていきたいです。論文出すために頑張ります!
インタビューの所感
「気が付くと論文がでていた」
これは黒川の言葉ですが、私もそんな感じなんですよね。かつてないほど実験を任せっぱなしにしてしまいました。だってそれで研究進むんだもん(笑)。
「この安達先生の分子ならいけると思うねん!」と私が言っただけで、当時四年生だった彼は苦労しながらも見事に触媒を合成し、そしてそれが出来上がるとあっという間にいろんな反応で有効に働く触媒であることを示していました。触媒の比較も行っているので見た目以上に実験が必要なのですが、手際よくかなりのスピード感で研究は進みました。
自分で考え、確かな試行錯誤をする。研究で一番大事なことが最初から高い水準でできていましたし、研究を通してより磨かれているように思います。
まだM1だし、彼が言うようにまだまだ論文出してほしいですね!(僕も卒業を見届けられたら良かったんだけどねぇ・・・)
コメント