縮環化合物をC-H官能基化で作り、C-H官能基化で修飾する
Total Synthesis of (±)-Cephanolides B and C via a Palladium-Catalyzed Cascade Cyclization and Late-Stage sp3 C−H Bond Oxidation
J. Am. Chem. Soc., Article ASAP, DOI: 10.1021/jacs.8b03015
Lun Xu, Chao Wang, Ziwei Gao, and Yu-Ming Zhao*
現代の全合成
化学系トップジャーナルのJACSで全合成の論文を見かけるが、主に2パターンある。
- 比較的小さい分子であるが、ある反応をうまく使い驚異的に効率がいい全合成。
- 実験者の血と汗が透けて見えるような巨大な天然物合成。
どちらも甲乙つけがたく、勉強になるし面白いのだけど、最近は前者の「反応をうまく使った全合成」が昔より重要視されているような印象を受ける。
今回紹介する論文はそんな現在の全合成を象徴するかのような報告。
C-H官能基化を駆使したルートで5つの環が縮環した天然物Cephanolides B およびその酸化体であるCephanolides Cを合成したことについて報告している。
鍵反応:パラジウム触媒によるカスケード環化
著者らはヨウ化アリールとオレフィンを分子内に持つ15に対し、一酸化炭素存在下パラジウム触媒を作用させることでC-H官能基化しつつ縮環化合物16が得られることを見出した。そして、この化合物のアセタールを酸化すると、Cephanolides B, Cの鍵中間体6が得られる。
図1. パラジウム触媒によるカスケード環化反応(論文より引用)
このカスケード環化は収率91%!!
結構難しそうな反応だけど、めちゃくちゃきれいに進行するね!!(^O^)
ちなみにこのカスケード反応はオレフィンが架橋構造を持っていることが必須であることが検討により明らかにされている。
よく、行けるとかんがえたなぁ。すごい。
Cephanolides Bのエンドゲーム
鍵中間体6を還元してカルボニルを除去し、メチル基をはずせば、Cephanolide Bが完成!!
図2. Cephanolide Bの全合成(論文より引用)
えっ、もうできたの?(^_^;)
Cephanolide Cのエンドゲーム
エンドゲームは二連続のC-H官能基化。
- 6を還元した26に、DDQを作用させ位置選択的に水酸基を導入。メトキシ基がいい感じに働いている。
- PCCでベンジル位を選択的に酸化。立体障害のためかメチル基のとなりのベンジル位は酸化されない。
- メトキシ基をトリフラートに代えて、水素化することでCephanolide Cの全合成が完了!
図3. Cephanolide Cの全合成(論文より引用)
おぉ~酸化反応によるC-H官能基化でちゃんと合成できるもんだねぇ~。
骨格を先に作って酸化は後からすればええやん、っていうbaran touchとでもいうべきか?
いずれにせよ、実に現代的なかっこいい合成ルートだ!!
雑感
普通に合成しようとするとかなり大変そうな縮環化合物も、C-H官能基化であっさり合成できてしまうんですねぇ~
反応の進歩と合成の進歩は車の両輪で、どちらも重要なので、本研究のような反応を開発しつつ全合成するという研究はいつの時代でも有機合成化学の中心トピックスになるんでしょうね。
本当に現代の全合成って感じ。
全合成門外漢の私には凄すぎてこの成果には跪くしかないのだが、全合成はこれからどこに向かうんだろう?。。。
私にはわかりかねますが、思わぬ価値提案がまたあるのかなぁ、なんて思ったりする今日この頃。
全合成はやっぱり有機化学の花形やなぁ。(^o^*)
やはり、一生全合成watchし続けるんだろうねぇ~
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