くるっと巻いて六員環を構築
Stereoselective Synthesis of Cyclohexanes via an Iridium Catalyzed (5 + 1) Annulation Strategy
J. Am. Chem. Soc. 2018, 140,11916–11920.
Wasim M. Akhtar, Roly J. Armstrong, James R. Frost, Neil G. Stevenson, and Timothy J. Donohoe
六員環どう作る??
六員環のシクロヘキサンは有機化合物の基本骨格の一つで、教科書でも立体を扱う章でよくお目にする構造だ。
シクロヘキサンの合成法は
1) [6+0] 六員環のベンゼンを還元
2) [4+2] ディールスアルダーで六員環を形成
3) [3+3] シクロプロパンの二量化
4) [5+1] 一炭素源と五炭素源の環化付加
図1. シクロヘキサンの合成アプローチ(論文より引用)
といったところが相場だ。
といっても、ほとんどの合成法は1か2で、3と4はかなり珍しい。
今回は4の形式、”[5+1]環化付加によるシクロヘキサン合成”をイリジウム触媒で達成したらしい!!
今回の反応
ペンタメチルアセトフェノンと1,5-ジオールをイリジウム触媒存在下、塩基性条件で温めると[5+1]環化が進行し、シクロヘキサンが得られる。
図2. ペンタメチルアセトフェノンとジオールによるシクロヘキサン合成(論文より引用)
ペンタメチルアセトフェノンは著者らお得意の構造で、今回の反応でも必須の構造であり、副反応が抑えられるそうな。(参考文献1)
実際に単なるアセトフェノンを用いると系が複雑になり、目的のシクロヘキサンが得られない。
また反応機構的なところは、イリジウム触媒が水素を出し入れすることがカギになっているが、詳しくは論文を読んでね。
ペンタメチルアセトフェノン、実は変換できる
ペンタメチルアセトフェノンみたいな特異的な基質でうまくいくっていわれても~、という声が聞こえそうだが、このペンタメチルフェニル基は変換できる。
なんと臭素であっさりはずれて、酸臭化物にした後はやりたい放題。
図4. ペンタメチルフェニル基の変換、臭素を反応させる。(論文より引用)
おぉ~そうなんだ!(゜o゜)
これを見せられると本反応の有用性がよくわかるね。
所感
著者らが本当にペンタメチルアセトフェノン愛していることがわかる素敵な論文。
前からペンタメチルアセトフェノン使っていろいろやってるけど、生成物の魅力度を考えると、本反応はこのケミストリーの一つの到達点かもしれない。
一つの分子を突き詰めるっていいよねぇ。漢気を感じる。憧れ憧れ。(*´ω`)
あと、今回は長くなるので生成物の立体に関する説明は特に省いたけど、かなりしっかり検討している。
実験者はかなり実験したでしょうねぇ。(^_^;)
愛・マンパワー・有用性、三拍子そろった本報告。
私がやってる化学と分野はめちゃくちゃ遠いが、学ぶべき点は多い論文だと思いました。
参考文献
1) (a) Frost, J. R.; Cheong, C. B.; Akhtar, W. M.; Caputo, D. F. J.; Stevenson, N. G.; Donohoe, T. J. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 15664−15667. (b) Akhtar, W. M.; Cheong, C. B.; Frost, J. R.; Christensen, K. E.; Stevenson, N. G.; Donohoe, T. J. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 2577−2580.
コメント
ペンタメチルにしてねじるとなんで良いんでしょうね。
ベンゼンとカルボニルの共役が切れることでなんか良いことがあるんでしょうか?
酸性度が下がったりする?
お返事遅れてすみません。
この件に関して悩んでいたら、お返事するのをすっかり忘れていました。
ほんと不思議ですよねー。
おっしゃるように、共役が切れることもポイントかもしれませんね。
案外カルボニルが芳香環の電子を引っ張ってないのかも。
あと、Br+のipso位への付加でアレニウム中間体ができる過程が、ひずみを解消するような感じになって、進行しやすいというのもあるんではないでしょうか??