イオンを用いた有機分子変換
どんな研究モチベーションで取り組んだのか?
小さな分子を組み立てることによって、医薬・香料・農薬・プラスチック・有機ELなど、我々の生活を支える分子を生み出すことができる。
分子を組み立てるためには、分子を変換する手法(有機分子変換法)を欠かすことはできない。そのため、過去の偉大な研究者によって、さまざまな有機分子変換法が開発され、有機合成は日々進歩してきた。その進歩の速度は驚異的だ。
ちょっと昔では考えられなかったような、高選択性かつ高収率の、完成度の高い有機分子変換が連日のように報告されている。その結果、有機化学の分野において、目に見えたわかりやすい問題は少なくなってきている。
この成熟した有機化学という分野において、私が目指すのは、定跡からはずれたような有機分子変換を見つけること。
そんな分子変換を通して新しい確かな工夫を提案したい。
そんな思いで以下のような研究に取り組んだ。
イオンを用いた分子変換
私は学生時代培った経験と、所属する狩野研究室の知見を活かし、イオンの特異な電子状態を利用した有機分子変換の開発を進めた。
Phenothiaziniums
新しい硫黄試薬『S-arylphenothiazinium』がアリールリチウムのアリール化というシンプルながら困難であった分子変換を可能にする。
・Chem. Commun. 2020, 56, 13995-13998. (解説記事はこちら)
・Org. Lett. 2021, 23, 9664-9668.(解説記事はこちら)
・J. Org. Chem. 2022, 87, 7565–7573.
Streptocyanines
ピリジンを二工程で開環して得られるストレプトシアニンを用いてベンゼン類を合成する。他の手法では難しいピリジン環からベンゼン環への変換が可能になる。
・Chem. Commun. 2019, 55, 8575-8578. (解説記事はこちら)
・Org. Lett. 2021, 23, 6126-6130. (解説記事はこちら)
Alkylsilicates bearing C,O-bidentate ligands as alkyl radical precursors
古いシリカートが新しいラジカル前駆体になる。従来のシリカートと異なり、酸性条件の反応にも使用可能かつメチルラジカルも発生可能。
・Chem. Commun. 2020, 56, 10006-10009. (解説記事はこちら)
・Chem. Eur. J. 2021, 27, 6713-6718. (解説記事はこちら)
New ideas for photocatalytic reactions
・Org. Lett. 2020, 22, 2822-2827. (解説記事はこちら)
・Org. Lett. 2021, 23, 6257-6261. (解説記事はこちら)
・Org. Biomol. Chem. 2022, asap. (解説記事はこちら)