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触媒的光延反応:脱水で立体反転を伴った求核置換反応!!

2019/09/09
 
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置換反応の革命になるか!?

Redox-neutral organocatalytic Mitsunobu reactions

Science 2019, 385, 910
Rhydian H. Beddoe, Keith G. Andrews, Valentin Magné, James D. Cuthbertson, Jan Saska, Andrew L. Shannon-Little, Stephen E. Shanahan, Helen F. Sneddon, Ross M. Denton

リンの芸術:光延反応

光延反応といえば、アルコールをさまざまな官能基に変換する便利な手法として知られている。酸素、窒素、炭素、硫黄など様々な官能基が導入できる。光延反応は一般的に、立体反転を伴って生成物が得られるため、特に全合成などの精密合成において威力を発揮する。


図1. 古典的光延反応

しかしながら、光延反応は大きな欠点が存在する。大量のゴミが副生してしまうのだ。トリフェニルホスフィンが酸化され、トリフェニルホスフィンオキシドに、DEADなどのアゾジアゾカルボン酸エステル類が還元され、対応する副生成物が生じる。ホスフィンの再還元や、酸化剤の再酸化による触媒的な光延反応も報告されているが、アトムエコノミーの観点から改善の余地を残す。1-4

酸化剤と還元剤を巧妙に扱うことが、反応の駆動力になる光延反応であるが、一方でそれ由来のゴミの副生が避けられない。このような理由で、全合成などでよく見る反応である光延反応であるが、工業的な応用はなかなか難しい。

 

反応概要

今回紹介する論文は、酸化剤も還元剤も用いない触媒的な光延反応について述べている。ちょっとびっくりだよね。

反応例は以下の通り。普通の二級アルコールが立体反転を伴った求核置換反応にって、カルボン酸が導入されている。


図2. 触媒的光延反応

副生成物はなんと水のみ!!立体情報もばっちり残ってる!

すげぇ!(^O^)

 

触媒の作用

気になるこの触媒1の作用を見てみよう。

このリン化合物は酸(本反応では求核剤になる)によって脱水反応が起こり、脱プロトン化された求核剤をカウンターとするホスホニウム塩2が生成する。このプロセスは当然逆反応も考えられるが、ディーンスタークによって水を反応系外へ追い出すことで、目的の方向へ反応を進めることができる。

続いて、2に対しアルコールがささって、アルコキシホスホニウム塩3が生成する。3に対して、脱プロトン化した求核剤がSN2反応を起こし、立体反転を伴って目的化合物が得られ、触媒1が再生する。


図3. 触媒の作用機構触媒の作用機構

応用

立体反転

光延反応といえば、水酸基の立体反転。下のようにステロイドの水酸基に本反応を適用して、続いて加水分解すると、水酸基だけが立体反転した化合物が得られた。カルボン酸や触媒は回収可能であり、さらに反応スケールもgスケールで検討していて、本反応がかなり実用的であることがうかがえる。しゅごい!(^O^)/


図4. 触媒的光延立体反転

エーテル合成

光延反応から、はずれるような気もするが、脱水的なエーテル合成法にも応用できる。直鎖アルコールに対してTfOHと1触媒量存在下、ディーンスタークで水を系外に追い出しながら加熱するとエーテルが得られる。これかなりすごいんじゃないかなぁ。


図5. 触媒的脱水エーテル合成

 

所感

いやぁ~すごい反応が出てきましたね。シンプルですが、かなり困難な分子変換をあっさり実現。医薬や農薬などの複雑な低分子の合成で、本気で実用化される可能性があるのでは。。。なんて思ってしまう。特にエーテル合成はかなりいいような。

実際、実用化はどの程度目途があるんだろうね?製薬プロセスの人とかの意見を聞いてみたい。

今後、脱水タイプの便利な触媒としてますます進歩していくのかもしれない。この報告が、置換反応の革命になるのだろうか?わくわくするね。\(^o^)

参考文献
(1) 空気酸化によって再生可能な光延試薬の開発と触媒的光延反応への応用 谷口 剛史 有機合成化学協会誌2019, 77, 584.
(2) J. A. Buonomo, C. C. Aldrich, Angew. Chem. Int. Ed. 54, 13041–13044 (2015)
(3) T. Y. S. But, P. H. Toy, J. Am. Chem. Soc. 128, 9636–9637 (2006).
(4) D. Hirose, T. Taniguchi, H. Ishibashi, Angew. Chem. Int. Ed. 52, 4613–4617 (2013).

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