Organocalcium-mediated nucleophilic alkylation of benzene
Science 2017, 358, 1168.
Andrew S. S. Wilson, Michael S. Hill,, Mary F. Mahon, Chiara Dinoi, Laurent Maron
有機カルシウム試薬を用いた脱離基のないベンゼンの求核置換反応がScience誌に報告された。
図1. 有機カルシウム試薬を用いたベンゼンのアルキル化:脱離基がないのに芳香族求核置換反応で反応する。
有機カルシウム、触媒になることもある
有機典型金属試薬ってどんなイメージ持ってるでしょうか?
個人的にはくっついたり離れたりして器用な遷移金属に対し、有機典型金属試薬は反応性はあるけど反応したらそれっきりという不器用なイメージがある。
グリニャール試薬とかはその典型例。
実際、典型金属はルイス酸として働く事は多くても、有機典型金属試薬を経由して働く触媒になる例は少ない。
ただ、「難しいならやったろうか」というのが化学者の性で、様々な工夫によって遷移金属っぽい反応性を示す典型金属触媒が最近いくつか報告されている。
例を挙げると、こちらは最近報告された別の反応で、カルシウムを触媒としたオレフィンの水添反応。(参考文献1)
図2. オレフィンの水素添加反応、カルシウムでこんな分子変換ができるとは。
本当に遷移金属っぽい反応で驚く(^_^;)
ヒドリドがうまく再生するのが触媒機構をまわす鍵だろう。
ベンゼンの芳香族求核置換反応!?
普通の芳香族求核置換反応は電子不足の芳香環に求核剤がささって、Meisenheimer中間体を経由しつつ、代わりに脱離基が抜ける。
図3. 普通の芳香族求核置換反応。電子求引基と脱離基が一般的に必要。
Meisenheimer中間体が発生しなければならないので、多くの場合基質の芳香環上に電子求引基を必要とする。
一方今回の論文は触媒反応ではないがヒドリド種再生の流れを汲みつつ、今まで見たことない反応が報告されている。
有機カルシウム試薬による芳香族求核置換反応なのだが、なんと脱離基も電子求引基も必要がない!
うそやん!( ゚Д゚)
電子求引基のない芳香環に刺さるあたり、有機カルシウムの驚異的な求核性がうかがえる。
しかもカルシウムはカルシウムヒドリドとして脱離することをNMRでも確認。
これはカルシウムヒドリドが再生することを意味し、本反応が触媒機構でまわる可能性を示唆する。
残念ながら本論文は溶媒量のベンゼンに対して量論量のアルキルカルシウムを反応させている例しか挙げられていない。
二点気になる
1. 触媒になるの?ならないの?
ヒドリドが再生するなら、末端オレフィンとベンゼンの入った系中に触媒量のカルシウム錯体だけで反応が起きるはず。
本論文でほほのめかしつつも、結果は述べられていない。
触媒量のカルシウム錯体でアルキル化できるけど成果を小出しにしているのか、なんらかの問題があって現状触媒にできていないのかわからない。
小出しにしてるとしたらScience 誌に対してすごい根性ですが。。。(^_^;)
2. 過剰量の芳香族化合物がいるの?
フリーデルクラフツはカチオン種の芳香環に対する求電子置換反応なので、アルキル化すると原料よりも反応性が高くなり、ポリアルキル化が起きてしまう。
一方、本反応は芳香環に対する求核置換反応なのでアルキル化すると原料よりも反応性が低くなり、一置換で反応を止められる可能性がある。
こうなるとマジですごい。
ただ本論文は溶媒量のベンゼンを用いているのでその判断がつかない。
モノアルキル化できたら合成的価値がすごくあがるけど、、、
どうなんだろ?
小出しか、問題があるのか、、、今はわからない。
しかしながらなんにせよ、驚きの分子変換!!
今後要注目だ!
参考文献
(1) Danny Schuhknecht, Carolin Lhotzky, Thomas P. Spaniol, Laurent Maron, Jun Okuda, Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 12367.
コメント