Synthetic nat- or ent-steroids in as few as five chemical steps from epichlorohydrin
Nat. Chem. 2017, ASAP. doi:10.1038/nchem.2865
Wan Shin Kim, Kang Du, Alan Eastman, Russell P. Hughes and Glenn C. Micalizio
ステロイド合成は有機合成化学において花形競技といえる。
分子がほどほどの大きさで、合成ができるかどうかよりも、どう美しく合成したか?が問われる。
また、高度に縮環しており、どのように合成するかについて自由度が高い。
合成化学者の腕の見せ所だ。
実際に、センスの良い化学者がステロイドの合成に取り組むと、信じられないくらい美しい合成を拝見することができる。
Coreyらの合成などはその最たる例だろう(参考文献1)。
このような合成を見ていると、私のような凡人はもうこれ以上の合成はないのでは?などと思ってしまう。
図1. コーリーのステロイド合成。美しすぎる。
そんななかで最近、ステロイド合成の論文がNature Chemistry誌に報告された。
合成化学が進歩した現代となって、ステロイドのような小さいサイズの分子を合成してトップジャーナルに掲載された理由はなんだろうか?
論文を見てみよう。
著者らはまず従来の合成法では、様々な置換基を導入した類似化合物や天然と異なる立体化学を持った誘導体を合成しにくいことに気が付いた。
そこで彼らは立体特異的かつ、様々な置換基を持たせることが容易なように合成ルートを設計。
具体的な合成スキームがこれだ。
1. クロロヒドリンに有機リチウム種と、グリニヤール試薬を反応させエンインを合成
2. TMSフェニルアセチレンと金属環化による環化反応
3. シクロプロパン化および酸によるB環(芳香環のとなり)の形成
美しすぎるでしょ~
四つの環がガシガシ構築されていく、有機合成ってこんな簡単だったけ??
カギとなるのは著者らが以前開発したチタンを用いた金属環化反応(参考文献2)で、ACDの三つの環を持った化合物が一気に形成する。
反応機構はなかなか一目で理解することが難しい。ぜひ論文をじっくり見てほしい。
最後にシクロプロパン化および分子内フリーデルクラフツ反応でB環を形成し、ステロイド骨格を合成している。
本合成ルートには以下の三つのメリットがある。
・ 非天然型の立体を持つステロイドを合成可能。
・ 置換基を導入した各種ステロイド誘導体の合成が可能。
・ 驚異的な短工程。
著者らはこの合成戦略のもと、10種類ものステロイドを合成し、さらに化学変換することで7種のステロイドを合成している。
実験した人は大変だったでしょうね。。。
また合成したステロイドの生理活性を調べ、合成した新規ステロイドのうちの一つがその中にヒト癌細胞株の成長を阻害することを明らかにしている。
様々な誘導体の発散的合成を志向した研究はこれまでも少なくない。
しかしながらステロイド類の合成で、ここまで短工程かつ幅広い誘導体を導ける合成ルートを確立したことは驚異的な成果と言える。
いや~にしてもすごいですね~
合成がきれいすぎるし、一つでも大変なのに何種類も合成しているんですから、、、
あと、短工程の合成ながら、使っている反応も古典的な反応と現代的な反応がいろいろでてきて、非常に勉強になりますね!!
参考文献
(1) Yeung, Y.-Y., Chein, R.-J., Corey, E. J. Conversion of Torgov’s synthesis of estrone into a highly enantioselective and efficient process. J. Am. Chem. Soc. 2007. 129, 10346.
(2) Valer Jeso, Claudio Aquino, Xiayun Cheng, Haruki Mizoguchi, Mika Nakashige, and Glenn C. Micalizio, Synthesis of Angularly Substituted Trans-Fused Hydroindanes by Convergent Coupling of Acyclic Precursors. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 8209.
コメント