パラジウム触媒でなく有機触媒
A Transition-Metal-Free Suzuki-Type Cross-Coupling Reaction of Benzyl Halides and Boronic Acids via 1,2-Metallate Shift
J. Am. Chem. Soc. 2018, Just Accepted DOI: 10.1021/jacs.8b00380
Zhiqi He, Feifei Song, Huan Sun, and Yong Huang
鈴木・宮浦カップリングを有機触媒で
鈴木・宮浦カップリングは言わずと知れた有機合成における最強反応の一つである。有機ハロゲン化物と普段は全然反応しない有機ホウ素化合物が塩基とパラジウム触媒でなぜかきれいにくっつくよ、というもの。
普通のカップリング反応はグリニャール試薬や有機亜鉛試薬といった空気や水に不安定な炭素求核剤を用いる。
一方鈴木・宮浦カップリングは安定な有機ホウ素化合物を用いることができるので操作が簡便かつ、官能基許容性が広い利点がある。
普通の鈴木・宮浦カップリングはパラジウム触媒を用いて、酸化的付加、トランスメタル化、還元的脱離といったお馴染みの反応機構で進行する。
今回はなんと有機触媒で鈴木・宮浦っぽいカップリングが報告された!!
なんと有機触媒ですよ!!(^○^)
反応概要
ベンジルクロライドとアリールボロン酸がフェノチアジン触媒存在下カップリングするよ、というもの。
図1. 有機触媒による鈴木宮浦カップリングっぽい反応
おぉ〜なんすかこの触媒(^_^;)?
フェノチアジンが光触媒になってる論文前に紹介したけど、今回は暗室でも反応が進行するから光触媒ではないらしい。
ボレートの1,2転位
脱離基を持つ炭素アニオン(カルベン等価体)をホウ素化合物と反応させると、ボレートを形成する。このボレートはある程度の温度で脱離基の脱離を駆動力に1,2転位する。
図2. ボレートの1,2転位
この辺りの化学はAggarwal先生がむちゃくちゃ研究していて、すごい発展を遂げている。
今回の反応はこの1,2転位反応を触媒で回したらええやんって反応。
図3. 有機触媒でボレートの1,2転位を回す(論文より引用)
言うは易し、行うは難し。
こんな反応が実際触媒で回るんだね(^_^;)。
というのも以下のバランスが奇跡的に成り立たねばならない
- 触媒はベンジルハライドへ付加する十分な求核性を持つ
- 発生したスルホニウムのベンジル位の弱塩基で引き抜けるほど酸性度が十分に高い
- 発生したイリドはボロン酸とボレートを組める程度の求核性がある。
- ボレート状態から転位反応を起こすため、触媒に十分な脱離能がある。
1と4もしくは2と3はトレードオフになりそうだ。しかもボロン酸から水が出てベンジルアルコールができる副反応が起こるのでベンジルクロライドが望ましい。ちなみにボロン酸エステルだと反応がうまく進行しない。
おぉ〜もはや成立する事が奇跡に思える(^_^;)
ベンジルハライドの活性化様式としてすごく面白い!!
色んな反応がまた報告されるかもね!!!
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