アルケンでカテラニ反応!パラジウム触媒の力で二重結合を一気に複雑化する
現代化学コラボ5回目です!現代化学2020年2月号にも載っているのでぜひ見てね☆
Modular and regioselective synthesis of all-carbon tetrasubstituted olefins enabled by an alkenyl Catellani reaction
Nat. Chem. 2019, 11, 1106–1112
Jianchun Wang, Zhe Dong, Cheng Yang & Guangbin Dong
カテラニ反応を反応機構は同じのままアルケンで!!
アルケンを制するものが有機化学を制す
複雑なアルケンを合成する手法は非常に重要である。
ウィッティヒ反応、オレフィンメタセシス、ヘック反応など、アルケンを効率よく合成できる手法がノーベル賞に輝いたことからもその重要性がうかがえる。これまでに様々なアルケンの合成手法が開発されてきたが、依然として四つの異なる炭素置換基を持つアルケンを精密に作ることは簡単ではない。
カテラニ反応と反応機構
ちょっと話題を変えて、芳香環の分子変換法であるカテラニ反応1の説明をしよう。
カテラニ反応はパラジウム/ノルボルネン共触媒条件下、アリールハライドにハロゲン化アルキルとアルケンを反応させる三成分カップリングである(図1)。アリールハライドのハロゲンが置換した位置とその隣を同時に置換基導入することができ、アリールハライドを一気に複雑化できる極めて優れた分子変換法だ。
図1. カテラニ反応
カテラニ反応の反応機構を図2に示した。アリールハライドにPd(0)が酸化的付加し、ノルボルネンが挿入する。ここでC-H活性化によりパラダサイクルAが形成する。Aはアルキルハライドと反応し、Pd(IV)種が生成する2。還元的脱離とノルボルネンの脱離を経て、発生したアリールパラジウム種Bは最後に、オレフィンとヘック反応により炭素—炭素結合を形成する。
図2. カテラニ反応の反応機構
アルケンでカテラニ反応
芳香環に二つの置換基を導入できるカテラニ反応であるが、これをアルケンに適用すれば、複雑なアルケンの良い合成法になるに違いない。が、残念ながらそれは無理なことが知られていた。
望みのカテラニ反応でなく、シクロプロパン化が進行してしまう(図3)3。π電子の反応性がアルケンと芳香族化合物で全然違うので、これは仕方ないことと思われてきた。最初のカテラニ反応が報告されて20年以上、一般的なアルケニルハライドにカテラニ反応が適用されることはなかった。
図3. 一般的なカテラニ反応の反応条件ではシクロプロパン化が進行し、目的化合物は得られない。
今回、Dongらの報告はまさに衝撃である。ここまでさんざんムリだと言ってきたアルケニル-カテラニ反応が、「できました!」というのである。
アルケニルトリフレート、ヨウ化ブチル、アクリル酸メチルを図4aのような条件で反応させると、三成分カップリングした化合物が得られた。図4bに基質適用例を示したが、幅広い化合物の合成へ応用できることがわかるだろう。
図4. ついに実現したアルケンでカテラニ反応
驚異の反応条件
結果だけ見るとなぜ今までなかったのか不思議な気持ちになってしまいそうだ。
しかしながら、この反応を実現するためにDongらが行った細かな工夫はすさまじく、反応に加えられた化合物はいずれも欠かすことができない(図5)。ノルボルネン・配位子・塩基・添加剤のいずれも「これ!」と特異的といっていい条件だ。
図5. 反応条件の特異性
いやぁ~よく見つけたねぇ~(^o^;)
所感
アイデア自体はシンプルで、カテラニ反応の適用範囲を芳香環からアルケンへ拡張しただけだ。だれでも思いつきそうなアイデアにも思える。
しかし、一般的なカテラニ反応条件では全く狙った反応が進行せず、“アルケニル-カテラニ反応は無理”と思われてきた。何よりもこの報告で驚くべきは、Dong先生らもそのことを知らずに検討していたわけではないだろうが、「ノルボルネンの構造・配位子・添加剤をチューニングすることでアルケニル-カテラニ反応が実現できる!」と信じたことである。そして針の穴を通すような反応条件を見出し、アルケニル-カテラニ反応を実現してしまった。
何事も為せば成るのかもしれませんね・・・(´-ω-`)!
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参考文献
(1) Catellani, M.; Frignani, F.; Rangoni, A. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1997, 36, 119.
(2) Catellani M. et al, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 8574.
(3) Catellani, M. & Chiusoli, G. P. Competitive processes in palladium-catalyzed C–C bond formation. J. Organomet. Chem. 233, C21–C24 (1982).