ビアリールをロジウム触媒で切断する!?
Catalytic activation of unstrained C(aryl)–C(aryl) bonds in 2,2′-biphenols
Nat. Chem. 2019, 11, 45.
Jun Zhu, Jianchun Wang and Guangbin Dong *
もっとも切れにくそうな炭素-炭素結合
炭素-炭素結合は一般的に非常に頑丈な結合で、普通特殊な場合でしか切れない。
ひずみがかかった結合であったり、炭素-シアノ結合や炭素-カルボニルなどのような分極した結合の切断がほとんどだ。
図1. 比較的切りやすい炭素-炭素結合
ひずみを活かした変わり種として、最近シクロパラフェニレンの炭素-炭素結合への白金の挿入が山子先生らにより報告された。(参考文献1)
図2. シクロパラフェニレンへのPt挿入(図は参考文献1より引用)
一方で、ひずみがかかってなく、分極していない炭素炭素結合はなかなか切れない。
数少ない例として、Milstein先生らが以前、以下のようなCsp2-Csp3結合の切断を報告している(参考文献2)。
図3. Milsteinの炭素炭素結合切断
有機金属化学随一のびっくり反応で、この報告から四半世紀経つが、このレベルで切れなそうな炭素-炭素結合の切断反応は報告されていなかった。
それがごく最近、最強の炭素-炭素結合といっても過言でない「ひずみのないビアリール化合物の炭素-炭素結合」を切断する反応が最近報告された。
反応概要
リン系の配向基を持つビフェノールに対し、水素雰囲気化ロジウム触媒と反応させると、Csp2-Csp2結合が切断され、フェノール類が得られた。
図4. ロジウム触媒によるビアリール炭素炭素結合の切断
ぎょえぇーー!!まじ!??(゜o゜)
最強の結合をあっさり切断。なかなか信じられないレベルの驚愕反応。
こんなのできるんだ・・・!!
驚異の価値提案
反応だけでもかなり面白くていいんだけど、それで終わらないのがDong先生。
並の化学者なら反応だけで終わるところを、しっかり価値提案まで持っていく。
配向基、水酸基、メチル基を持つ基質に対し、C-H官能基化でメチル基の隣に置換基を導入しようとしても、より立体的にすいている方(●)で反応が進行してしまう。
そこで基質をタイマー化し、先ほどの反応点(●)を立体的にブロックし、目的の位置(●)でC-H官能基化した。そしてその後、今回開発した炭素-炭素結合切断反応を行うことで2,3,4-置換フェノールを合成した。
図5. 炭素炭素結合切断の応用:2,3,4-置換フェノールを作る。
おお~?そんな応用があるのか!??(^_^;)
このアピールの仕方はすごいね・・・!!
他にもリグニンの部分構造を持ったモデル基質に適用し、リグニン分解への応用も提案している。
ん~アイデアの秀逸さだけでなく、有機化学筋力を感じる剛腕さ。見習わないとね(^O^)。
所感
Dong先生、半端ないって!
炭素-炭素結合めっちゃ切るもん。そんなんできひんやん、普通。
言っといてや、ビアリールも切れるんやったら。
またまたまたまたNature chemやし。
<<監督>>
あれは凄かった
俺は講演を直接聞いたぞ。
Dong先生の論文をこれからもチェックしよう、な!
関連記事
(1) ヨードホルム反応で合成する!アセチル基の選択的脱メチル化反応
(2) リグニンの有機合成的利用:メチル化剤になるし、エポキシと二酸化炭素の環化付加もできる!!
(3) アルケンでカテラニ反応!パラジウム触媒の力で二重結合を一気に複雑化する
参考文献
(1) Eiichi Kayahara, Toshiki Hayashi, Katsuhiko Takeuchi, Fumiyuki Ozawa, Keita Ashida, Sensuke Ogoshi, and Shigeru Yamago, ACIE, 2018, 57, 11418.
(2) (a) Gozin, M., Weisman, A., Ben-David, Y. & Milstein, D. Nature 364, 699–701 (1993). (b) Gozin, M. et al. Nature 370, 42–44 (1994).
コメント
最近のC(Ar)-C(Ar)の切断なら、京都大の山子先生も報告されていました。 (ACIE,2018,57,11418.)
発展先が合成反応にしろ物性・材料にしろ、続報をかなり楽しみにしています。
御情報ありがとうございます!!記事をアップデートしてみました。
続報楽しみですねぇ~