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世界最長の長さを持つ炭素-炭素結合を目指す話:かさ高くしたり、環で縛ったり、カルボラン使ったり

2019/01/13
 
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長いC-C結合を目指して

有機化学の最も重要な結合

有機化学は炭素の化学といわれている。

炭素は炭素とくっついてどこまでも伸びていくし、多重結合も極めて安定で、バリエーション豊かな構造を容易に生み出せるからだ。

炭素-炭素結合の性質を調べることは、実用的云々を抜きにして、有機化学の基礎研究として重要であることは間違いない。

結合にも電子状態や、軌道の相互作用だの、むずかしいことはいろいろあるけれど、最も単純な「長さ」に注目した分野が存在する。

今回は「究極に長ーーーーーい」炭素結合を新たに合成した論文について紹介する。

 

様々な条件下における長い結合

長い炭素-炭素結合を持つ化合物の合成は、極めてシンプルな競争で、いわば陸上競技のような体をなす。

当然、長い歴史のなかで、記録が塗り替えられていくわけだが、陸上競技の中でも100 m走や400m走があるように、長い炭素-炭素結合にも様々な部門があるようだ。

切れると二つのセグメントが離れてしまう炭素-炭素結合部門。

炭素炭素結合が切れると二つのセグメントが離れてしまう、要は環で縛っていない独立した結合の長さを競う部門。
この部門が一番ハードな条件かもしれない。

普通の炭素-炭素結合、例えばエタンの炭素間の長さは1.54 Åである。

この長さを伸ばしていくと当然結合が弱くなって、分子として不安定になることが予測される。

以下の分子の炭素-炭素結合は1.7 Åくらいの長さであることが知られている。(参考文献1)


図1. 切れたら離れる結合部門

なげぇ~!なぜ切れない??(゜o゜)

環で縛った部門

環で炭素-炭素結合を縛ると切れにくくなり、より長い結合が実現できる。

戸田先生が1.734Åの分子を2001年に報告した。(参考文献2)

また最近、北海道大の鈴木先生、石垣先生が以下の分子の炭素-炭素結合が1.806Åであることを見出し、「超結合」として報告された(参考文献3)

長いねぇ~(^O^)

カルボラン部門

これらの化合物とは別に、o-カルボランの炭素-炭素結合はかなり長いことが知られている。

元のカルボランの炭素炭素結合が1.624Åと相当長いが、アミノ基をとりつけHMPAを配位させるとさらに長くなり、1.852Åまで伸びることが2004年に報告された。(参考文献4)

で、最近o-ジアミノカルボランがもっと長い炭素ー炭素結合であることがわかった。(参考文献5)

その炭素-炭素結合の長さ実に1.931Å!!

ながぁぁー!(゜o゜)

負の超共役が効いているとのこと。へぇ~。

ただ、カルボランは非常に特殊な骨格で、炭素から形式的に手が六本でている。この炭素-炭素結合を”単結合”というかどうかはかなり微妙で、単結合としてしまうと、電子の数が合わなくなるような・・・(この辺詳しい人いたら教えてください。)

でも結合は結合にちがいない・・・う~~ん、難しい・・・

 

所感

私がこの分野好きなのは長い炭素ー炭素結合を目指すというシンプルな動機から、「結合とは何か?」という化学の本質に迫っていく点。

今回あげた例でも、カルボランの炭素-炭素結合は単結合なのか?単純にそれ以外の分子の炭素-炭素結合と比較していいのか?など様々な疑問がわいてくる。

そういった疑問も、現実にこういうとんでもない長さの炭素-炭素結合が存在しなければ考えもしないわけで、こういう基礎研究って大事だなぁ、としみじみ感じる今日この頃。

これからも、もっと長い炭素-炭素結合が報告されるに違いない。

私が死ぬまでに、何Åの炭素-炭素結合が拝めるのだろうなぁ。

 

謝辞
本記事を書くにあたって、北海道大学大学院理学研究院化学部門 石垣 侑祐先生に色々質問し、丁寧にご回答いただきました。
厚く御礼申し上げます。

参考文献
1) A. A. Fokin, L. V. Chernish, P. A. Gunchenko, E. Y. Tikhonchuk, H. Hausmann, M. Serafin, J. E. P. Dahl, R. M. K. Carlson,
P. R. Schreiner, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 13641. (2) P. R. Schreiner, L. V. Chernish, P. A. Gunchenko, E. Y. Tikhonchuk,
H. Hausmann, M. Serafin, S. Schlecht, J. E. P. Dahl, R. M. K. Carlson, A. A. Fokin, Nature 2011, 477, 308.
2)K. Tanaka, N. Takamoto, Y. Tezuka, M. Kato, F. Toda, Tetrahedron 2001, 57, 3761.
3) Y. Ishigaki, T. Shimajiri, T. Takeda, R. Katoono, T. Suzuki, Chem 2018, 4, 795.
4) L. A. Boyd, W. Clegg, R. C. B. Copley, M. G. Davidson, M. A. Fox, T. G. Hibbert, J. A. K. Howard, A. Mackinnon, R. J. Peace, K. Wade, Dalton Trans. 2004, 2786.
5) J. Li, R. Pang, Z. Li, G. Lai, X.-. Xiao, and T. Muller, Angew. Chem. Int. Ed. 2018, ASAP. DOI: 10.1002/anie.201812555

関連外部サイト
1) 有機化学美術館:Molecule of the Week (34)
2) 有機化学美術館・分館:長いC-C単結合

 

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