Renewable acrylonitrile production
Science 2017, 358, 1307.
Eric M. Karp, Todd R. Eaton, Violeta Sànchez i Nogué, Vassili Vorotnikov, Mary J. Biddy, Eric C. D. Tan, David G. Brandner, Robin M. Cywar, Rongming Liu, Lorenz P. Manker, William E. Michener, Michelle Gilhespy, Zinovia Skoufa, Michael J. Watson, O. Stanley Fruchey, Derek R. Vardon, Ryan T. Gill, Adam D. Bratis, Gregg T. Beckham
実用化の壁
企業で働きだして二年くらい。
企業で化学していると日々実感するのが、実用化の難しさだ。
・コストが高いからダメ
・安全性を担保できる設備がないからダメ
・副生成物が多いからダメ
この辺は当たり前で、これらが仮によくても
・原料の安定供給が難しいからダメ
・参入リスクがあるからダメ
・微力に混じってしまった副生成物の安全性が確認できないからダメ
などなど、、、
よくもまーそんな理由見つけてきたね(^_^;)的な要素で実用化に至らない。
よって企業はテーマを基本的に減点法で評価する。何か1つでも致命的要素があれば見向きもしなくなる。
これは何か1つでも面白い事があれば論文になるアカデミアと大きな違いだ。
逆に考えると、現在実用化している工業プロセスは信じられないほど研ぎ澄まされている。
触媒も多くの場合回収容易な不均一触媒で何度もリサイクルし、副生成物も抑え、コンマ以下まで議論して限界に近い収率で目的生成物を取ってくる。
まるでよくできた細密画を見ているみたい(^_^)
当然需要が大きくて動くお金が大きい物ほどその研ぎ澄まされっぷりは凄まじく、なかなか反応そのものを変える様なプロセスは出てこない。
例えばアンモニア製造法のハーバーボッシュ法は1913年に工業化されて以来今尚現役だ。
アクリロニトリルの工業的合成
アクリロニトリルはモノマーとしての市場で需要が大きく、年間140億ポンド生産されている。
当然アクリロニトリルの製造法は極限まで磨かれている。
工業的合成法はプロピレンとアンモニアを酸素存在下、触媒により酸化的に合成するアンモ酸化法が一般的だ。
反応のアウトラインは以下のように
1. アリル位が触媒により酸化され、アルデヒドが生成。
2. アルデヒドがアンモニアと反応し、イミンが生成。
3. イミンが酸化され、ニトリルが生成する。
図1. アンモ酸化法によるアクリロニトリルの合成。無駄がない
これ以上ないくらいシンプルな原料から合成されていて、この反応以上に安くアクリロニトリルを作る方法はなかなか思いつかない。(実際ないからこのプロセスで供給されている)
今回の論文
そんなアクリロニトリルの工業的合成法で全く異なるアプローチを報告したのが本論文。
原料は糖から微生物的に得られる3-hydroxypropionic acidをエチル化した ethyl 3-HP
図2. 糖由来の原料。
反応は二段階からなる。
1. 二酸化チタンを触媒にしたethyl 3-HPの脱水反応による、アクリル酸エチルの合成
2. アンモニアとアクリル酸エチルのチタン触媒によるアクリルアミドの生成、及び続く脱水。
図3. 本論文のアクリロニトリルの合成法。
全体ではethyl 3-HPとアンモニアからアクリロニトリルと水、エタノールが生成する。
エタノールはリサイクルするので排出するのは水のみ、まったく無駄がない。
図4. 反応のトータル。こちらも無駄がない。
収率98±2%で、何回かに一回触媒を再活性化すればずっと収率を維持できる。
図5. エチルアクリレートのアクリロニトリルへの時間ごとの変換効率。ずっと高収率を維持。
すげー(°_°)なんちゅー完成度のプロセス。
確かにこれなら現行法に匹敵するかも、、、と思える。
気になるお値段
工業的製造法ならば気になるのはお値段。
現行法が$0.4~$1.0/lb
本手法だとスクロースからだと$0.76/lb、リグノセルロース糖からは$0.89/lbと見積もられている。
完全優位とはいかないが、かなり接近している。
プロピレンの値段の変動次第では今後本論文で報告された手法でアクリロニトリルが供給されるようになる可能性を秘めている。
本手法は値段以外に重要な点がある。
・収率が高く、副生成が少ない。
・糖という再生可能な資源からアクリロニトリルを合成できるようにした。従来法と全く異なる原料を用いる事で価格や供給の安定化に寄与し得る。
・有毒ガスのシアン化水素が発生しない。
・反応系が吸熱反応で暴走のリスクが少ない。
お~グリーンケミストリーの頂点のような報告ですね。
精密な有機合成もいいですが、こういった「汎用化合物をいかに無駄なく作るか」も独特の芸術性があって面白いです。(^_^)
本手法がアクリロニトリルの将来的に供給方法として成立するかはわからないのですが、今後の原料の価格変動次第ではあり得るのかもしれません!
たのしみですね!!
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