Ligand-accelerated non-directed C-H functionalization of arenes
Nature 2017, 551, 489.
Peng Wang, Pritha Verma, Guoqin Xia, Jun Shi, Jennifer X. Qiao, Shiwei Tao, Peter T. W. Cheng, Michael A. Poss, Marcus E. Farmer, Kap-Sun Yeung and Jin-Quan Yu
進化し続けるC-H官能基化。
先日はDaviesらのsp3炭素水素結合の変換反応を紹介したが、今日は芳香環の炭素-水素結合変換反応について紹介する。
Nature誌に報告したのはトップジャーナルでおなじみ Jin Quan Yu。
弱い配向基や、強い配向基、メタ位にはたらく配向基、移動する配向基、などいろいろな配向基を巧みに使いこなしてきた彼らが、今回配向基を用いない芳香環の炭素-水素結合変換反応を報告した。
図1. 配向基を用いないオレフィン化
先祖帰り!?
最初このタイトルをパッと見た時、私はそう思った。
というのも、藤原・守谷オレフィン化という配向基を用いない炭素水素結合変換反応がかなり初期に報告されているからだ。(参考文献1)
もっともこの頃はC-H官能基化という概念がなかったが。
図2. 藤原・守谷オレフィン化
かなり未来を先取りした藤原守谷反応であったが、過剰量のベンゼンを要する問題があり、精密合成への応用は難しい。
ベンゼンが少ないと、生成物の炭素水素結合も反応しちゃうからしょうがない。また触媒活性がそこまでよくないのも問題だろう。
ブレイクスルー:村井オレフィン挿入
この問題をうまく解決したのが村井先生で、金属触媒が近づきやすい配向基を利用することで位置選択的な炭素-水素結合変換が可能になった。
その結果、芳香環を過剰に使う必要もなくなった。(参考文献2)
図3. 村井オレフィン挿入:ここからC-H活性化の躍進が加速する。
ほんと現代から見てもきれいな反応、すごい。(^O^)
配向基はかなりの成果を収めた。
たくさんの人がいろんな論文を報告している。
ただ逆に言うと配向基を持った基質にしか、これらの反応は使えないことを意味する。
歴史の流れを簡単にまとめると
非選択的だけどできた
→ 配向基を用いて選択的にできた!
→ いろいろできる!でも配向基ないとできないの?(イマココ)
という感じだ。
今回の反応は何がすごいのだろう??
今回の反応がすごいところは「配向基のない基質で、ある程度選択性」という点だ!
配向基のない基質で、過剰量の芳香環を用いずに位置もある程度決まる。
彼らの戦略はシンプル
原料と生成物の違いは置換基の数であることに注目。
極端に立体に敏感な反応なら、一番すいてそうなところへそこそこ位置選択的に反応し、二個目は立体障害でつきにくいだろう。
というもの。
彼らは配位子を気の遠くなる程スクリーニング。
その結果図1のようなピロリドン配位子L69を用いると活性が極めて高く、比較的よい選択性を示すことを見出した。
芳香環一当量できちんと反応、活性がめちゃくちゃ高いね(^-^;
反応の性質としては、 オルト位に置換基があると極端に反応しにくい。
電子豊富な位置で反応しやすい。
微妙なバランスで基質に依存して反応位置と選択性が決まる
いくつか例を挙げると以下の基質で選択的に修飾できる。
図4. 基質例
おーすごいね。(°_°)!電子不足も電子豊富もすいてそうなところで反応!
とまらないYu先生のパラジウムケミストリー
毎度の事だか、Yu先生の化学からは「パラジウム触媒と配位子で出来ることは全部やったろう!」ぐらいの強い意思を感じますよね。
あと、「絶対に出来る!」と信じてますよね。信じてないとあんなに配位子触れない(^-^;
この辺が本当にすごいと思う、、、
信念に支えられた実験量。ハンパないパワーです。
あと実験量だけでなくてセンスもいいんでしょうね。
流石に取り組んだ事が全部上手くいくわけではないでしょうけど、毎年何個も当ててきますからね~
私みたいな凡人には見えてない世界が見えてるんでしょうね。。。
センスと実験量と信念、いずれもハイレベルすぎて私にとって参考にならないんですが、今後もYu先生の動向から目を離す事はできないです。(^_^;)
参考文献
(1) Moritani, I.; Fujiwara, Y. Tetrahedron Lett. 1967, 8, 1119.
(2) Murai, S.; Kakiuchi, F.; Sekine, S.; Tanaka, Y.; Kamatani, A.; Sonoda, M.; Chatani, N. Nature 1993, 366, 529.
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