David W. C. MacMillan, 第六回:2015~2017 より深い協働触媒系から応用へ

研究者の研究

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可視光レドックス触媒を用いた多触媒系の発展

第五回では可視光レドックス触媒とほかの触媒の協働反応の開発が始まる様子を追いかけた。
水素移動触媒や金属触媒で基質の拡張が行えることを示した。

2015年から2017年にかけても研究の中心は可視光レドックス触媒であるが、より複雑な反応系が探索されている。
また反応開発のみならず応用を志向した研究も展開されてきている。

 

三触媒協働反応

水素移動触媒がラジカル源を拡張でき、金属触媒はカップリングパートナーを拡張することができることを前回紹介した。
ならば可視光レドックス触媒・水素移動触媒・金属触媒の三触媒協働反応の開発を目指すの自然なことだ。

MacMillan groupから初めての三触媒協働反応は2016年の保護アミンのαアリール化(参考文献1)
水素移動触媒としてキヌクリジン、金属触媒としてニッケル触媒を協働させている。

図1. 三触媒協働反応:保護アミンのαアリール化 (参考文献1より引用)

アイデアはシンプルで、水素移動触媒の水素引き抜きで発生したラジカル種を有機金属種でトラップするというもの。その駆動力として可視光レドックス触媒を用いると・・・言うのは簡単ですが実際こんなきれいに回るとは・・・

なかなか信じがたいほど美しい反応ですね(^O^)/
アリール化の次にアルキル化が報告されている(参考文献2)がそれぞれScienceとNature。
んーさすがにやりすぎちゃう!??(^_^;)
もちろん卓越した成果ですが。

当然のように三触媒系を種々の反応へ展開。
2017年にアルデヒドのC-Hアリール化を報告(参考文献3)

図2. アルデヒドとブロマイドのカップリング (参考文献3より引用)

なかなかほかの手法では難しい、ケトン合成のエレガントな解答だろう。(このような分子変換は溝呂木・ヘックではできないと書こうとしたらできた:関連記事)

他の三触媒も報告されていてる。
なんと有機触媒の復活。たまにでてくるのね、久しぶり!(^O^)
可視光レドックス触媒・有機触媒・水素移動触媒の協働反応でアルデヒドのα位にオレフィンを挿入する反応。(参考文献4)

図3. 光・有機・水素移動触媒協働反応 (参考文献4より引用)

非常に複雑な反応機構であるが反応はシンプル、原子効率100%。
当然不斉はばっちりかかる。

なんやこれ・・・芸術やろ(^O^;)

 

還元的脱離促進

ニッケル触媒によるC-O結合形成反応は一般的に難易度が高い。
というのもニッケル(II)アルコキサイド錯体が還元的脱離するのは吸熱的でエネルギー的に不利な反応だからである。
ここでニッケル(II)を酸化してニッケル(III)にするとすみやかな還元的脱離が起きることが知られている。(参考文献5)

MacMillan先生は2015年にこの酸化の駆動力に可視光レドックス触媒を適用。(参考文献6a)
温和な条件でアルコールとアリールハライドのカップリングを実現した。

図4.可視光レドックス触媒アシストによる ニッケル触媒のC-O結合形成

金属触媒反応において、「中間体の一電子酸化」という新しい反応開発指針になるかもしれない興味深い知見。
翌年にはバックワルド先生とコラボして、本原理がアリールハライドのアミノ化にも有用であることも明らかにした。(参考文献6b)

また2017年に、ニッケル触媒・可視光レドックス触媒協働によるアリールハライドのカルボン酸のカップリングを報告。(参考文献6c)

図5. エネルギー移動が絡んだニッケル触媒反応

てっきり前述の二報と同じかと思いきや、この反応はニッケル(II)触媒の酸化が吸熱的であるにも関わらず進行し、前報のような電子移動の機構では説明ができない。
様々な実験を通して、励起状態のイリジウム錯体から有機ニッケル種へエネルギー移動が起きていることが示唆された。

エネルギー移動を金属触媒反応に取り組む指針としてこれまた興味深い知見。

これらの三報は可視光レドックス触媒によって従来のニッケル触媒反応の制限がはずれ、より新奇な反応開発を予感させる。

これからはこういう反応をもっと攻めるんじゃないかな???

 

応用

ついにこれまで開発した反応の応用にも取り組んでいる。

・D化及びT化(参考文献7)

重水素で標識された医薬は創薬において重要であるそうだ。
可視光レドックス触媒と水素引き抜き触媒の協働反応で複雑化合物の水素交換を実現。

図6. 複雑化化合物の重水素および三重水素化 (参考文献7より引用)

複雑な化合物も問題なく標識可能。今後結構使われるかもしれないね。

・ペプチドのbioconjugation(参考文献8)

ペプチドの末端カルボン酸を位置選択的に脱炭酸アルキル化。
水溶性の可視光レドックス触媒としてフラビン誘導体を用いている。

図7. ペプチドの末端カルボン酸選択的脱炭酸アルキル化 (参考文献8より引用)

間にあるカルボン酸は酸化電位が高くなっているため末端のカルボン酸選択的に反応が進行する。
あとフラビンもこういう反応できるんだ!結構重要な知見かもね。

なんかついにここまで来たか可視光レドックス触媒反応って感じだね。。。(^_^;)

 

David W. C. MacMillan, 第六回:2015~2017 より深い協働触媒系から応用へのまとめ

三つの触媒が廻るというかなり凝った原理の反応を開発しているけれど、アウトプットの分子変換は無茶苦茶シンプル。
いやはや、本当にすごいですよね。なんでいちいちこんなに収率いいんだろうね(^_^;)

あとニッケル使った反応だけど、不斉反応にはなかなかもっていかないね。
原理的に難しい部分があるのだろうか。それともそこには突っ込まないようにしているのか気になるところ。
あえて、不斉反応化は力入れてない可能性も結構あると思うんだよね。

また、開発した反応の応用はかなり力入れている感じがしますよね。
実際に使えそうな感じがして、反応の性質をうまく使った素晴らしいアプリケーションだと思います。

さて、六回目で現在に追いつきました。
わたくし凡人にはまったく今後どう展開するかわかりませんが、MacMillan groupはそろそろ次のフィールド行きそうな気がしてます。

おそらく有機金属錯体の電子移動やエネルギー移動に注目した分子変換が増えるんでないかなー
全く勝手な予想であるが。(^_^;)

なんにせよ、今後もMacMillan group の動向から目を離すことは不可能なので見守るともに勉強していこうと思う次第です。

さて長かったMacMillan先生の特集も一端これで終わり

。。。ではないんだ!

次回は全合成を追う。

全合成も卓越!!

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参考文献
1) Science 2016, 352, 1304.
2) Nature 2017, 547, 79.
3) JACS 2017, 139, 11353.
4) Nature Chemistry 2017, 9, 1073.
5) a)Matsunaga, P. T., Hillhouse, G. L. & Rheingold, A. L.  J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 2075. b)Han, R. & Hillhouse, G. L., J. Am. Chem. Soc 1997. 119, 8135.
6) a) Nature 2015, 524, 330. b) Science 2016, 353, 279. c) Science 2017, 355, 380.
7) Science 2017, 358, 1182.
8) Nat. Chem. 2017, doi:10.1038/nchem.2888

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