David W. C. MacMillan, 第七回:有機触媒で加速するエレガントな全合成

研究者の研究

第一回はこちら  第二回はこちら  第三回はこちら  第四回はこちら  第五回はこちら  第六回はこちら  第八回はこちら

全合成についてもMacMillan先生らしさは全開!

前回で反応開発については独立直後から現在までフォローした形になった。
しかしOverman研出身であるMacMillan先生が全合成をやらないはずもない。

全合成においても研究方針は変わらない。初回から何度も書いているようにMacMillan先生は急に突拍子もない事はしない。
全合成に取り組むときも反応開発の時と同じで自分の過去の研究で得られた知見を存分に利用し、新しい要素を足しながら全合成の研究を展開している。

それでは追っていこう!

 

インドールアルカロイド天然物の全合成

独立後初の全合成:flustramine B(2004)

第二回でも紹介したがMacMillan触媒を使った巧妙なflustramine Bの全合成。(参考文献1)
インドールに4対してHOMO activationした不飽和アルデヒドでフリーデルクラフツ、続いて発生したカチオン種5に対して分子内環化が起きてpyrroloindoline7が構築できる。


図1. HOMO activationによるカスケード反応 (参考文献1より引用)

このカスケード反応で得られた生成物を適当に変換して天然物のflustramine Bが合成できた。


図2. flustramine Bの全合成

この合成以降、インドールアルカロイドの合成がマクミラン研の全合成の中心になる。

Minfiensine(2009)

前出のカスケード反応をさらに進化させてさらに縮環度の高いMinfiensineを合成。(参考文献2)
オレフィンを有するインドール8に対しHOMO activationしたプロピナールをフリーデルクラフツでなく、[4+2]環化反応させることで、一気に四つの環が縮環した11が生成。


図3. HOMO activationによるさらなるカスケード反応:一気に複雑に  (参考文献2より引用)

ぎょえーこんなに一気に複雑化するんすか(^_^;)

あとは上の11から誘導した18を用いてMinfiensineを完成させる。
18からスズを用いたラジカル環化でさらに縮環して19が生成。まじか・・・まだ勝負反応あんのね・・・
19のアレンを還元して、さらに脱保護して(+)-Minfiensineの完成!


図4. 有機触媒による短工程Minfiensine全合成  (参考文献2より引用)

かなり複雑な化合物ですが・・・9段階、収率21%!?
工程短すぎぃ!!収率高すぎぃぃ!(゜o゜)!!

ちなみにVincorineも類似の戦略で合成されているゾ☆(参考文献3)

collective synthesis(2011)

先ほどのMinfiensine合成において環を巻く反応(下図A)で用いた基質の硫黄をセレンに変更することで、セレンの脱離が進行し、1が得られた。(下図B)


図5. セレンによる別の環化反応  (参考文献4より引用)

1はいろいろなインドールアルカロイドを合成するちょうどいい中間体で、1から六つの天然物をエナンチオ選択的に合成した。(参考文献4)
一個合成するだけでもしんどいのに、六つの全合成を一報に詰め込んだ豪華すぎる論文・・・なんと天然物全合成のテーブルがある!!


図6. まさかの全合成テーブル・・・狂気  (参考文献4より引用)

ヒェ・・・(^_^;)
こんなの見たことねぇ・・・!!狂ってるよ・・・!

また、続報ではアルデヒドのプロピンでなくケトンをHOMO activationしてMinovincineの合成を達成している。(参考文献5)

polypyrroloindoline天然物(2017)

pyrroloindoline骨格の形成を得意としてきたMacMillan group。上述のように有機触媒のHOMO activationをうまく使った合成を報告してきた。
一方で2012年に有機触媒でなく、銅触媒を用いたインドールの不斉アミノアリール化によるpyrroloindoline骨格合成法を開発している。(参考文献6)


図7. インドールの銅触媒による不斉アミノアリール化  (参考文献6より引用)

2017年にこの反応を用いてpolypyrroloindoline天然物を達成している(参考文献7)。前述の素反応の時からこれらの天然物を合成することは念頭にあったようなので、かなり時間がかかった研究テーマということになる。

合成戦略はシンプルかつ大胆だ。
・モノマー1に対し、インドールのヨウードニウム2を銅触媒で反応させる。2のインドール部位はジケントンで引っ張って求核性をマスクしたあるので2自身や生成物の二量体3はアミノアリール化しない.
・しかし生成物の3を還元して得られる二量体4はマスクがはずれてモノマーと同じ構造を持つようになる。つまり銅触媒によって再びアミノアリール化することができる。巧妙だね~

図8. 銅触媒によるpolypyrroloindoline骨格の合成戦略:すごいアイデアね。 (参考文献7より引用)

これを繰り返して二量体、三量体、四両体を合成し、対応する天然物を合成することができる。


図9. 銅触媒反応の繰り返しによるpolypyrroloindoline天然物の合成  (参考文献7より引用)

まるでデンドリマーの合成法のような巧妙な合成手法!

アイデアのすごさもさることながら実験量もやばそうやね(^_^;)
すげーぜ!!

 

その他の合成

frondosin B (2010)

下図の右下のfrondosin B何ステップで不斉合成できると思う?(参考文献8)


図10. frondosin Bの超短工程合成  (参考文献8より引用)

まー見たらわかるけど、3ステップだって笑(´▽`)なにそれ~うける~
有機合成って簡単ですね!!(怒り)

Callipeltoside C (2008)

2004年に報告した有機触媒による糖の二段階合成(参考文献9)を応用したCallipeltoside Cの全合成。(参考文献10)


図11. 有機触媒に基づくCallipeltoside Cの逆合成:青字が有機触媒で作る部分  (参考文献10より引用)

2008年当時まだまだ新しい有機触媒反応を4つも全合成に詰め込んでいるチャレンジングな合成ルート。
複雑な化合物の合成にも有機触媒が有用であることがわかる。

 

David W. C. MacMillan, 第七回: 反応開発で加速するエレガントな全合成のまとめ

MacMillan groupから報告された全合成を追いかけたが、いずれの合成も自身のバックグラウンドである反応開発に基づいた仕事であることがわかる。
しかも自分の反応を無理やり使っているようなものではなく、開発した反応が効果的に使われているあたり、本当によく練られた全合成だと思う。

もちろんターゲットを選んでいるという側面はあるのだろうけど、複雑な化合物が驚異的に短工程で合成されている。

・・・(^_^;)やべぇ

全合成のひとからすると「まぁうまくやってるな」くらいな可能性もあるが、反応開発の人間からするとまじ驚異!!
新しい領域と有用性を両立した反応を開発することは本当に難しい。
既存反応が優秀すぎて、新しく開発した反応が全合成で実際に有用な例なんてほとんどないからね。。。(^_^;)

このあたりのバランス感覚は才能もさることながらOverman研で身につけた全合成感覚が活きているでしょうねぇ。

 

さて全合成はこのくらいにしておきましょう!

今回で論文の紹介は一通り終わりました。
次回でMacMillan先生の研究の研究はいよいよ最後にしようと思います!

第一回目から第七回目が論文でいうところのresultsならば、次回はdiscussion!
MacMillan group の論文を一通り読んで思ったことやフィードバックできそうな事をつらつら書こうかと思います!!

第八回はこちら

参考文献
(1) PNAS 2004, 5482.
(2) JACS 2009, 131, 13606.
(3) JACS 2013, 135, 6442.
(4) Nature 2011, 475, 183.
(5) Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 11269.
(6) J. Am. Chem. Soc. 2012134, 10815.
(7) Nature Chemistry 2017, 9, 1165.
(8) Chem. Sci. 2010, 1, 37.
(9) Science 2004305, 1752.
(10) Angew. Chem. Int. Ed.2008, 47, 3568.

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました