カルボニル化合物のα位を修飾する基本の反応
勇樹 | 博士課程二年で専門は有機化学。金がなくて家庭教師を始めた。話は脱線しがち |
理香 |
そこそこの進学校に通う女子高校生二年。受験も遠く意識低め。勇樹の授業はできるだけさぼろうと話をそらす。 |
エノラートを学ぼう
勇樹 | 炭素-炭素結合を作る反応の王様、アルドールを説明するつもりだが、 そのためにはまずエノラートを押さえなければならない。 |
えのらーと?? | |
勇樹 | エノラートはこんな形。炭素-炭素二重結合にアルコキサイドがくっついている。
今回はケトンの反応性を復習しつつ、エノラートについておさえよう。 |
ケトンの反応性
求電子剤としての反応性
ケトンは炭素-酸素結合が電気陰性度の差によって大きく分極している
そのためケトンの炭素はδ+としてはたらき、様々なマイナス成分(求核剤)と反応する。
グリニャール試薬の時に習いましたね! | |
勇樹 | よく覚えてた!
しかしケトンは時に炭素マイナス(求核剤)になりえる。。。!! |
ふぁ!?炭素マイナス!?
ありえないじゃん!! |
|
勇樹 | そーだね、これを理解するためには、ケトンのもう一つの大事な反応を説明しなければならない。 |
α炭素のプロトンの脱プロトン化
ケトンのカルボニルの隣の炭素をα位、そのまた隣の炭素をβ位と呼ぶ。
ここで大事になるのはα位の炭素-水素結合。
実はここのプロトンは非常に脱プロトン化しやすい。
脱プロトン化した後のアニオンを普通のアルキルアニオンと比較して考えよう。
普通のアルキルアニオンは特に安定化はない。実際アルキルアニオンは非常に不安定だ。
一方、ケトンのα位のアニオンは上図のような共鳴構造をとれ、非常に安定となる。
電気陰性度の強いOにアニオンが乗る形となるので、普通のアルキルアニオンよりエノラートの方が遥かに安定だ。
で、安定なアニオンの方が発生させやすいので、結果ケトンのα位は脱プロトン化しやすく、酸性度が高い。
勇樹 | エノラートは炭素マイナスとして働くことができるので、様々なプラス成分(求電子剤)と反応することができる。
例えばハロゲン化アルキルを加えると、アルキル化することができる。 |
これは、、、SN2反応ですね、、、!! | |
勇樹 | その通り!!
あと、ケトン以外にも様々な電子求引基を持つ化合物でも同様だ! いずれもα位の酸性度が高くなっているので、塩基によって簡単に炭素アニオン等価体を発生させることができる。 これらはいずれも炭素アニオン等価体として有用だ。 |
なんでもありですね!!! | |
勇樹 | この汎用性の高さがエノラート化学の特徴よ。
まさに炭素-炭素結合形成の申し子。 |
かさ高い塩基
あと面白いポイントとしてエノラートを発生させる塩基はかさ高い塩基がよく用いられる。
かさ高い塩基は置換基が邪魔で求核攻撃できない。
できることといえば小さなプロトンを取ることだけ。
よって余計な求核攻撃しない塩基としてエノラート発生させるときに重宝される。
あと嵩は小さいが、軌道が小さく求核性のないNaHも同様の目的で用いられる。
カルボニルの反応性に多様さ
カルボニル化合物はC=O結合の炭素は炭素プラス(求電子的)で、その隣のα位の炭素は脱プロトン化して炭素マイナス的に反応するってなんか不思議ですね。 | |
勇樹 | その両性的な反応性を利用したのがアルドール反応なわけだが。 |
あ!今回アルドールの説明全然なかったじゃないですか!! | |
勇樹 | アルドールを知るためにはエノラートを理解することが必須。
つまり今回の話は前置きだったわけよ! |
だから長いって・・・ |
次回に続く
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