David W. C. MacMillan, 第五回:2014~2015:新たな二触媒協働反応へ

      2018/01/29

David W. C. MacMillan, 第五回:2014~2015:新たな二触媒協働反応へ

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光触媒から離れて

第四回ではMacMillan触媒から脱却し、可視光レドックス触媒や銅触媒を用いた反応に力を入れつつあることを紹介した。
2014年からは自身のショーケースであるMacMillan触媒から完全に離れ、主に光触媒反応開発を研究の軸に据える。
2014年初頭には一電子移動を利用したカルボン酸の光脱炭酸反応を報告する。

前回紹介した大量スクリーニングで見つけたジシアノベンゼンとの反応を最初に報告し、同年にマイケルアクセプターとビニルスルホンに拡張した。(参考文献1)

(a)

(b)

(c)

図1. 可視光レドックス触媒による光脱炭酸反応:a) アリール化、b) アルキル化、c) ビニル化 (図は参考文献1より引用)

この脱炭酸反応はそこまで新しい化学ではなく、一電子酸化反応ではよく知られている反応。
古くはコルベ電界酸化(organic chemistry portal)から知られている。
また、紫外光であるが光誘起電子移動反応で行う例もすでに知られている(参考文献2)。おんなじ反応だよね。。。(^_^;)

MacMillan groupから報告された可視光レドックス触媒による光脱炭酸のケミストリーは分子変換において正直そこまでの新規性はない。
むしろ明らかな引用の不足であったり、過去文献を悪く書きすぎに思われるのであまり感心しない。(^_^;)
今もそういう節があるけど、電子移動反応になじみのある人は少ないので、新しいことと新しくない事が区別されずパッと見で受け入れられている感じがあるよね。
(もっともMacMillan groupの論文はパッと見もかなり意識されて書かれているから、またスキがないのだけど。)

 

ここまでの開発の流れ

ここまでの歴史の流れを簡単に追うと

MacMillan触媒
→ MacMillan触媒+一電子酸化剤
→ MacMillan触媒+可視光レドックス触媒
→ 可視光レドックス触媒でできることがわかってきた。←イマココ!!

つまりきわどい売り出しがあったにせよ、電子移動反応の知見を蓄積し、可視光レドックス触媒を用いた反応の開発を独立して研究の軸で打つ出すことに成功した。

軸ができたらどうするか?
MacMillan groupの方針は変わらない。初回から一貫した方針である。

基質を振りまくる

 

基質拡大を目指して見切りをつける

次にMacMillan groupは可視光レドックス触媒の基質を拡大を目指す。

ただし可視光レドックス触媒だけではどうがんばっても一電子酸化と一電子還元しかできない。

今まで用いることができた基質は
ラジカル源:アミン、カルボン酸など
カップリングパートナー:シアノアリール、ケトン、マイケルアクセプター、ビニルスルホン、シッフ塩基など
であり、見方によってはワンパターンだ。

可視光レドックス触媒だけでは基質適用範囲はそこまで広がらないと判断したのだろう。
ここでMacMillan先生は驚くべきことに、可視光レドックス触媒単独の反応開発に見切りをつけた。

あまりにも早く、未来を先取りした判断。
普通の化学者ならしばらく可視光レドックス触媒だけで反応開発がんばるだろう。
なんせ今ジャーナルで毎日いろいろ見かけるように、まだまだ探索の余地あるからなー。
この時期にもう次へいきますか?(^_^;)

基質適用範囲の確保は「他の触媒」の力で行うことに路線をシフトしてきた。
他の触媒を利用することで今まで開発してきた反応の基質適用範囲が広がっていく。

これにより難しそうな反応がガンガンできるようになっていく!!

 

水素移動触媒(HAT)とのハイブリット

アミンのα位の炭素-水素結合変換は、基質の一電子酸化を起点にαアミノラジカルを発生させている。この場合アミンの酸化電位が低いため基質を酸化することができる。
そのためこういった一電子酸化反応では酸化電位の低い基質は限られ、エーテルなどの酸化電位の高い基質へ適用することはできない。


図2. 酸化電位による基質の制限

エーテルなどへ気質を拡張するためには一電子酸化でない方法でラジカルを発生させる必要がある。
そこで水素移動触媒(HAT)の化学を取り入れたのが下の反応。(参考文献3)


図3. 水素移動触媒を取り入れた光C-H官能基化 (図は参考文献3より引用)

・チオール触媒6を可視光レドックス触媒で一電子酸化し、チイルラジカル7が発生
・チイルラジカル7が結合の弱いベンジルエーテル8の水素結合を引き抜き、αアルコキシラジカル種9を発生させる。
・発生したαアルコキシラジカル9はベンゾニトリルでトラップされる。

ちなみにこの反応はすぐシッフ塩基に拡張されている。(参考文献3b)

また、非常にかさ高いチオールを用いることでアリル位のC-H結合からアリルラジカルを発生させ、ベンゾニトリル類でトラップできることを報告している。(参考文献4)
アリル位の直接アリール化というかなり難易度の高い分子変換を実現している。


図4. アリル位の光アリール化。(図は参考文献4より引用)

またチオール以外にもキヌクリジンのラジカルカチオンによる水素引き抜きの利用する反応も報告している。(参考文献5)
水素アクセプターを加えることでアルコールのα炭素-水素結合が弱くなることを利用した反応で、アルコールとマイケルアクセプターが反応しラクトンが得られる。


図5. キヌクリジンの水素引き抜きを利用したアルコールのα位の炭素-水素結合の変換 (図は参考文献5より引用)

水素アクセプターが重要な働きをし、ベンジル位やアリル位でなくフリーの水酸基選択的にラジカルを発生させることができる。

可視光レドックス触媒は酸化反応と還元反応の両方が必ず起きる。強力な酸化と還元が共存する点が面白いところだ。
水素移動触媒は酸化で発生できるラジカル種のバリエーションを増やし、修飾できる炭素-水素結合の範囲を拡張することができる。

 

ニッケル触媒とのハイブリット

酸化で発生したラジカル種のカップリングパートナーはどうだろうか?
ジシアノベンゼンやマイケルアクセプター、シッフ塩基などに限られている。
もっとカップリングパートナーを広げる手段はないだろうか?

勘の良い方はお気づきだろう、金属触媒である。

特にMacMillan groupはニッケル触媒を用いたケミストリーを展開している。
これまでは種々のアリール化反応ではジシアノベンゼンを一電子還元した活性種を求電子剤として反応させていたが、このケミストリーは還元電位がある程度低い電子不足の芳香族化合物にしか適用することができない。
電子豊富、電子不足にかかわらず適用できる反応を実現するために、MacMillan先生はアリールハライドがニッケル触媒(0)に酸化的付加して生じるアリールニッケル種(II)をカップリングパートナーに用いることにした。

MacMillan group初の協働反応がこちら、カルボン酸からラジカルを発生させ、カップリングパートナーにアリールニッケル種を用いている。(参考文献6)


図6. 可視光レドックス触媒とニッケル触媒の協働反応:カルボン酸とアリールハライドのカップリング (図は参考文献6より引用)

この反応は以下のような気候が提唱されている。
・可視光レドックス触媒の酸化により、カルボン酸からαアミノラジカル4が生成。
・一方アリールハライドがニッケル(0)6に酸化的付加しアリールニッケル種(II)7が生成。
・アリールニッケル種(II)7はαアミノラジカル4と反応し、ニッケル錯体(III)8が生成。
・還元的脱離で目的カップリング生成物10が得られ、ニッケル錯体(I)9が生じる。
・ニッケル錯体(I)9は光触媒によって還元されニッケル(0)6が再生する。

おおー有機金属触媒を使うことでいろんな芳香族化合物を用いれるのね!!(゜o゜)

この有機金属触媒と可視光レドックス触媒の協働系はブレイクスルーで本当にいろいろな分子変換が可能になる。(参考文献7)

7a) カルボン酸とヨウ化ビニルのカップリング
7b) 酸無水物の脱炭酸によるケトン合成
7c) ケト酸とアリールハライドのカップリング
7d) オキサラートとアリールハライドのカップリング
7e) カルボン酸とアルキルハライドのカップリング


図7. 可視光レドックス触媒と金属触媒の協働反応によって得られる生成物

といった従来の手法では難しそうな反応をいとも簡単に実現している。
とくに参考文献7eのカルボン酸とアルキルハライドのカップリングはカルボン酸とアルキルハライドからsp3-sp3の炭素-炭素結合ができる画期的な反応だ。


図8. カルボン酸とアルキルハライドのカップリング (図は参考文献7eより引用)

金属触媒の力で可視光レドックス触媒の反応の基質適用範囲がどんどん広がっていることがわかる!!

 

David W. C. MacMillan, 第五回:2014~2015:新たな二触媒協働反応へ のまとめ

可視光レドックス触媒の反応開発の軸を確立した後、基質範囲の拡大する様子を追った。
驚くべきことに、基質範囲の拡大のためには他の触媒の力が不可欠であると早々と判断し、水素移動触媒や金属触媒を取り入れた反応の開発に舵を切っている。

特筆すべき点は、電子移動反応のしんどいところと得意なところを正確に判断しているところ。
電子移動は反応の強力な駆動力になることは間違いないが、いかんせんできることが限られる。
電子移動反応だけでは基質適用範囲がそれほど広くないことが多い。

「ほかの触媒で基質の狭さを補う」という戦略は後から見たら合理的で当たり前なんですけどね。(^_^;)
誰よりも素早くその判断をしてしまうとは。。。
この迅速かつ的確な見切りは圧倒的な勉強はもちろん卓越したセンスなくしてはできないですよね。。。

しゅごい・・・(゜o゜)!!

今回もそうだが全てが新しい論文はない、、、だが新しい要素を一つだけ足し続ける。
この歩みの速さが尋常でない。

同じ事いつまでもしたらあかんな、と思わずにはいられない。。。
まぁ、できたら苦労しないところだが。。。(^_^;)

さぁそろそろ現在に追いついてくるか

可視光レドックス触媒から広がった協働触媒の化学

これからさらに放射状に領域は広がる・・・!!

 

ここ何年かの成果やばすぎません??(^_^;)

参考文献
(1) a) J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 5257., b) J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 10886., c) J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 11602.
(2) Yasuharu Yoshimi, Tatsuya Itoua and Minoru Hatanaka, Chem. Commun. 2007, 5244.
(3) a) J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 626., b) J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 16986.
(4) Nature 2015519, 74.
(5) Science 2015, 349, 1532.
(6) Science 2014, 437, 345. 
(7) a) J. Am. Chem. Soc. 2015137, 624. b) J. Am. Chem. Soc. 2015137, 11938. c)  Angew. Chem. Int. Ed. 201554, 7929. d) J. Am. Chem. Soc. 2016138, 13862. e) Nature 2016, 536, 322.

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