光延反応とβ水素脱離 / Mitsunobu reaction & β-hydrogen elimination

      2018/02/02

光延反応の紹介とβ水素脱離の話

アルコールを原料にして組み立てる。

アルコールは非常にありふれた官能基で、この官能基をとっかかりに様々な分子を構築することは、非常に合理的に思える。

しかしながらアルコールは脱離能が非常に弱いので、何らかの手段で活性化してやる必要がある。
主な利用法は以下の二種類だ。

1. 強力なブレンステッド酸もしくはルイス酸を発生させ、カチオンを発生させる方法。(SN1反応)

図1. SN1反応、カチオンが発生するので立体は崩れる

2. 水酸基を修飾し、脱離能の高い官能基に変換した後、強い求核剤を反応させる方法。(SN2反応)


図2. SN2反応。立体反転で置換反応が起こる

どちらも一長一短であり、どちらが好ましいかはケースバイケースであるが、立体反転を伴って反応が進むSN2反応は全合成などの精密合成でパワーを発揮する。

例えばアルコールをトシル化した後に求核剤を入れるのは定跡といっていいだろう。

でも今回の光延反応はアルコールのままいけちゃうのだ!!

 

反応概要

アルコールと求核剤がトリフェニルホスフィンおよびジアゾ化合物存在下、立体反転を伴って置換するというもの。


図3. 光延反応:様々な求核剤が導入できる。

反応機構

1. ジアゾ化合物とトリフェニルホスフィンが反応、付加物Aが生成。
2. Aのアニオンが求核剤のプロトンを引き抜く、Bと求核剤の脱プロトン化体が生成する。
3. Bのホスホニウム部位がアルコールと反応する、アルコールから脱離能の上がった状態のCが生成する。
4. Cと求核剤の脱プロトン化体がSN2反応し、立体反転を伴い生成物とトリフェニルホスフィンオキシドを与える。


図4. 光延反応の反応機構:すごくトリッキー

かっこいい!!めちゃめちゃトリッキーだね!!(^O^)

 

この反応の何がいいか

・アルコールがそのままほかの官能基へ!
一般的なSN2反応のアプローチだとアルコールを脱離基に変換して、その後置換反応というように二段階の反応になる。
ところが光延反応はアルコールの脱離能の向上と置換反応が一気に起こる。迅速な分子変換だ。

反応機構の2の求核剤の脱プロトン化を円滑に進行させなければならないため、pKaが13以下の求核剤という制限があるが、酸素、窒素、炭素官能基など幅広い官能基を導入することができる。

・立体反転で進行する

光延反応はアルコールが基本的に立体反転で反応が進行する。
二級アルコールの立体を反転させる手法として強力であり、シンプルながら難しい分子変換である。
そのため光延反応は精密な有機合成などで猛威を振るう。
例えば(-)-Incarvillateineの合成では終盤にダブル光延反応を行っている。(参考文献1)


図5. 光延反応の全合成への応用例

いかに光延反応が信頼度の高いかがよくわかる。

β水素脱離が起きにくいという考察

光延反応はSN2反応に必要な以下の2ステップが同一フラスコ内で起きる。
1. アルコールの脱離能をあげるステップ
2. 求核剤が脱プロトン化によって活性化され、求核置換反応が起きるステップ。

ステップ1でアルコールの脱離能を上げた際、β水素脱離は起きないのだろうか?
またβ水素脱離の副反応の挙動について、光延反応は普通のSN2反応と同じなのだろうか?

そのことについてHendrickson試薬を用いて調べられている。(参考文献2)

Hendrickson試薬はトリフェニルホスフィンオキシドと無水トリフラートから合成できる試薬で、かさ高い塩基中でアルコールと反応させると光延反応と同一の中間体が発生する。
この中間体にパラニトロ安息香酸を反応させれば光延反応と同じはずだが、、、
実際はβ水素脱離が起きてしまう。(下図A)
一方、光延反応条件ではこのようなβ水素脱離はあまりおきないことが確認されている。(下図B)


図6. 置換反応かβ水素脱離か?A) Hendrickson試薬を用いた場合、B) 光延反応の場合

この差は何か??
調査の結果、塩基から生じるトリフラート塩がβ水素脱離の原因であることが分かった。
光延反応条件では14.3%であったβ水素脱離の副生が、トリフラート塩を加えると劇的に増加した。


図7. 光延反応の塩効果:塩が入るとβ水素脱離が進行する。

Hendrickson試薬を用いると中間体を生成するために必ず、塩が副生するのでこの問題は回避できない。
一方、光延反応は反応機構のように塩が副生しない事からβ水素脱離を軽減できていたのだろう。

あまりにもβ水素脱離起こりやすい基質では光延反応でもβ水素脱離してしまうそうだが、いくらか有利になるケースはあるみたい。

なるほど、このあたりが光延反応の信頼性の高いポイントになっているのかもね。
開発当初からここまで意識されてたわけではないと思うけど、いい反応って思いもよらないところで優れていることがわかるなぁ。(´ー`)

こんなところか。
名前と反応機構がかっこよくて学生時代ずっと気になっていた反応。
どうしても仕込んでみたくて、最後の論文の生成物の変換という比較的どうでもいいセクションにねじ込んだ。
アルコールをアジド基に変換したんだよね。
スケールが小さかったためか言われているような精製の苦労はなく、割ときれいに反応が進行した。

んー(´ー`)いい反応です!

参考文献
(1) Masaya Ichikawa,Masaki Takahashi,Sakae Aoyagi, andChihiro Kibayashi, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 16553.
(2) Kathryn E. Elson, Ian D. Jenkins and Wendy A. Loughlina, Org. Biomol. Chem. 2003, 1, 2958.

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