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学生実験レポートの考察の書き方:有機実験を例に

 
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学生実験のレポートの考察をどう書くか

レポートの鬼門:考察

学生時代、実験レポートって苦手だったなぁ(^_^;)

特に考察は何を書いたらいいのかわからなかった。学生実験は結果決まってるのに考察って何よ?っていつも思ってた。でも月日は流れて、学生実験のレポート見る側になって、私も学部生の時ああやって書けばよかったなぁ、と思う事がある。

要は考察のセクションでは「実験結果が、科学的にどんな意味を持つかをさまざまな角度から検証する」ということになる。

今回は今の俺なら学生実験の考察はこう書くぜ!みたいなことをシェアしたい。今回は定番、グリニャール試薬の実験をしたと仮定して、どんな考察をするべきか考えよう。

と、偉そうにいいつつも、やっぱり僕もまだ自信ないところなので、「こう書くべき!」とか「こうするともっといい」とかあったら是非教えてください!

*あ、あと参考は大いに結構だが、コピぺはやめてね(^_^;)

 

よくある間違い

まずありがちな、考察における間違いを列挙しよう。以下のようになっていたら要注意。

結果で終わる

レポート採点していると、考察に結果しか書いていない人が非常に多いことがわかる。慣れるまで難しいと思うけど、結果と考察は別だ。

・収量は1 gなので収率は83%となった。
・分配係数Kを計算すると2.1となった。

などなど、これらは実験結果であり、考察はここで止まってはならない。考察は「その結果が科学的にどう意味するか」なので、混同しないようにしよう

結論ありき

例えば、「得られた生成物の1H NMRのチャートを解析したところ、かくかくしかじかで、生成物はAと考えられる。」という考察があったとしよう。

それが、「生成物はAなので1H NMRは、かくかくしかじかである。」といきなり結論ありきで考察を書いてしまう人がいる。

論理が逆なので注意。

 

有機実験の目的

そもそも学生実験は学生に有機化学の実験ってこんなもんだよ、と伝えるために行われる。
未知の仮説を検証しようというものではない。

なので、学生実験の目的は「ある有名な実験を再現する」という事になる。よって考察で書くべきは「その実験結果がこの世にまだなかったという体で、行った実験操作からどんな科学的なことを見出せるか?」だ。(そうして行った考察が過去の知見と一致するか比較するのはあり。)

例えば以下の反応式のグリニャール試薬を用いる実験があったとする。

実験操作を簡単に書くと下のようになる。

1.マグネシウム240 mgをフラスコに入れた。
2.溶媒としてジエチルエーテル(10 mL)を入れ、室温で撹拌した。
3.ブロモベンゼン 1.60gを入れた。
4.発熱反応が起きなかったのでジブロモエタンを少量加えた。
5.発熱を伴い、固体マグネシウムがなくなっていった。
6.ベンゾフェノン1.82gのジエチルエーテル溶液を滴下ロートから滴下した。
7.飽和塩酸アンモニウムを5 mL加えた。
8.エーテルで分液して、飽和食塩水で洗浄した。
9.得られた有機層をエバポレータで濃縮した。
10.少量のヘキサンで再結晶すると固体が1.24 g得られた。
11.得られた個体を1H NMRで分析した。

 

どこを考察するか

まず考察してもしょうがない点を省こう。

1, 2, 3, 6は反応させたいものを加えただけなので、そこに化学はなく、考察すべき点はない。
8, 9は精製操作なので、これも多くの場合考察の対象にならない。

それ以外の自明でない点を考察していこう。
上の例で言うと4, 5, 7, 10, 11あたりはどんな意味を持つか自明ではない。

こういったポイントに考察する余地が生じる。

 

どう考察するか?

考察の仕方は大きく二種類。

以下の疑問を実験操作で述べた自明でない点にぶつけよう。

1.解釈、なぜその現象が起きたのか?もしくはなぜその操作が必要なのか?
2.妥当性、本当にその現象が起きているといえそうか?

この二点を気にしつつ、上の実験を考察してみよう。

考察の例

固体マグネシウムと溶媒の入ったフラスコにブロモベンゼンを加えると、次第に固体のマグネシウムがなくなっていき、濁った溶液が得られた。これは固体マグネシウムとブロモベンゼンが反応を起こし、固体マグネシウムが消費され、フェニルグリニャール試薬が発生したことを示唆する。
操作5の固体マグネシウムがなくなる現象の解釈

この時、反応溶液は発熱を伴ったが、過去にフェニルグリニャール試薬の生成が発熱反応と報告されている事と矛盾しない。参考文献@
操作5における発熱の解釈及び妥当性の検証。発熱反応かどうかは調べるポイントだろう。

またブロモベンゼン滴下初期は全く反応が進行しなかったが、ジブロモエタンを少量加えると発熱し、反応が進行した。これは金属マグネシウムに対して反応性が高いジブロモエタンを作用させ、不活性化した金属マグネシウムの表面を活性化する事が出来たものと考えられる。
実験操作4,5の解釈

反応後は塩酸アンモニウムでクエンチしているが、この処理によって以下の式のように、生成物として予想されるマグネシウムアルコキサイドをトリフェニルメタノールに変換する事が目的である。

塩酸アンモニウムの酸性度は(pKa=@)で、アルコールの酸性度(pKa=@)よりも十分に低いので、この酸塩基反応は進行する。
実験操作7の解釈および妥当性を検証。 塩酸アンモニウムやアルコールの酸性度は調べるポイントだろう。

分液操作した後、抽出した有機層を濃縮して得られた個体を1H NMRにより解析したところ、図1のように帰属することができ、トリフェニルメタノールが主成分として存在していることがわかった。

(図1: 1H NMRチャートと帰属)
実験操作11:NMRチャートの解釈となぜ生成物がトリフェニルメタノールといえるのかの解釈。次になぜこの反応が起こったのかをさらに考察する。

グリニャール試薬は、マグネシウムの電気陰性度(1.31)が炭素より小さいため、炭素が求核的であると考えられる(参考文献@)。一方で、ベンゾフェノンのカルボニル基は、炭素の電気陰性度(2.55)と酸素の電気陰性度の差(3.44)により、分極が生じる。それゆえ、カルボニルの炭素は求電子的であると考えられる(参考文献@)。そのため、本実験においては、フェニルグリニャール試薬がベンゾフェノンのカルボニル基の炭素に求核攻撃し、下図のように炭素-炭素結合を形成したと解釈することができる。
なぜ今回の反応が起こったのかの解釈:ここが一番大事

さらに1H NMRをより詳細に見たところ、@ ppmから@ ppmにヘキサンと帰属できるピークが存在していることがわかった。積分値からヘキサンの含有量を式1のように計算したところ、重量にして3%のヘキサンが含まれている事が分かった。よってトリフェニルメタノールは1.20 g得られた事になる。

(式1)
操作10の解釈と妥当性検証:純度をNMRから見積もる

用いたベンソフェノンとブロモベンゼンの量から得られるトリフェニルメタノールの理論量は@ gであり、収率は@%である。文献値の@%より10%程度低い収率であるが、分液操作時、反応溶液の一部をこぼしてしまった事が原因と考えられる。
操作10の妥当性検証:過去の報告との比較

 

といった具合に、当たり前でない操作や現象に、解釈や妥当性検証をおこなえばレポートの考察としてまとまっていくだろう。

 

まとめ

考察を書くためにすべきことは意外にシンプル。

・自明でない操作、現象を整理する
・自明でない点を解釈したり妥当性を検証する。必要に応じて調べる。

まぁ慣れないと大変だと思うけど(^_^;)

がんば!\(^o^)/

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