酸化還元電位の注意点
またまた質問箱の投書より:酸化還元電位について
酸化還元電位の見方についての質問をいただいた。
【可視光レドックス触媒の酸化還元電位チャート】
このサイト内の数字の意味がよく分からないのですが、もし宜しかったら教えて頂けませんか。たとえばDDQの0.53Vというのは、0.53V分の酸化力があると解釈すればいいのでしょうか。そうするとベンゼンの2.3Vはどういう意味かよく分からないのです…つまらない質問で申し訳ありません…
全然つまらなくないよ!質問ありがとうございます。
まず、酸化還元電位高いほど酸化力が強く、低いほど還元力が高いと思っていいと思います。だからDDQの酸化力の強さは+0.53 V分の酸化力って感覚は悪くないと思う。問題は「じゃあ表のベンゼンはなんなの?」ってことよね。
上のサイトの図から問題の部分を抜きだそう。
図1. ベンゼンと光触媒の励起状態の酸化還元電位チャート。
確かに可視光レドックス触媒の励起後活性種のRu(II)*の酸化還元電位よりベンゼンが高いところに書いてある。
ベンゼンの酸化力が強いの?ありえないよね?という質問だ。
なるほどなぁ~私は今までノリで捉えてたので、あんまり違和感を抱いたことがなかった。
全然気にした事なかったなぁ。(^_^;)
質問者の方はなかなか論理的に物事を考えられるタイプなんでしょうね。
素晴らしい(^o^)!
ベンゼンが酸化剤?なわけないが表はどう理解する?
ベンゼンが酸化剤として働くなんて聞い事ない。ましてや可視光レドックス触媒の励起後活性種より酸化力が強いなんて信じられない。
でも表によるとベンゼンは確かに+2.3 Vと例えば可視光レドックスの励起状態のRu(II)*より遥かに高い位置にある。。。
どう理解すればいいのだろう??
結論から言うとこの表は「可視光レドックス触媒をもってしてもベンゼンを酸化するにはパワーが足りませんよ」ということを示している。
そういう風にのりでとらえられた人も多いかもしれないが、なんでこんな事になるか説明できるだろうか??
二つの状態を考える。
この表はまとめなので大事な事が実は省かれている。
酸化還元は必ず二つの状態を考慮しなければならない。
なので「ベンゼンの酸化還元電位」という言葉はベンゼン一つの状態しか書いてないので不十分な表現。(普通に使っちゃうけど(^_^;))
より表の意味を正しく理解するためには「ベンゼンのラジカルカチオンが電子を奪ってベンゼンになる時の酸化還元電位」というように、ベンゼンとベンゼンのラジカルカチオンの二つの状態を想定しなければならない。
ベンゼンのラジカルカチオンという書いてない前提のせいで誤解が生じたんだね。ベンゼンとRuの酸化還元反応をスキームにすると、下図の通り。
図2. ベンゼンのラジカルカチオンとRu(II)*の電子受け取り。
ベンゼンのラジカルカチオンが電子を奪ってベンゼンになるときの酸化還元電位が+2.3 Vということになる。
Ruについては、励起状態Ru(II)*が電子をうばってRu(I)になるときの酸化還元電位が+0.77 Vになる。
質問の表をなんとなく見るとベンゼンとRu(II)*の比較に思えるが、酸化力の強さは電子を受け取るベンゼンのラジカルカチオンとRu(II)*を比較しなければ意味がない。
図3. 比較対象のミスリード
この比較対象のミスリードで混乱があったんだね。確かに一瞬よくわからんくなるよな(^_^;)
よって、質問の表は「Ru(II)*をはじめとした励起後活性種によりベンゼンのラジカルカチオンの方が圧倒的に酸化力が高い」という事を示している。
この事を抑えれば、可視光レドックス触媒の励起後活性種でベンゼンを酸化するのは不利という事が理解できるだろう。
また還元側は同様に有機物のラジカルアニオンが書いてないけど仮定されている。
この表でベンジルブロミドについて言うと、ベンジルブロミドが電子を奪って、ベンジルブロミドのラジカルアニオンになる電位が-1.71Vという事。
図4. ベンジルブロミドの酸化還元電位:ラジカルアニオンが仮定されている。
この辺の書いてない過程をちゃんと意識しないと混乱する。
ちなみに言葉の使われ方も少しややこしい。酸化還元電位と酸化電位、還元電位で微妙に使われ方が異なる。
ある有機物の酸化電位というと、ベンゼンの例のように対応するラジカルカチオンを想定した酸化還元電位を指す事が多い。
一方ある有機物の還元電位というと、ベンジルブロミドの例のように対応するラジカルアニオンを想定した酸化還元電位を指す事が多い。
酸化還元電位って慣れたらなんとなくその場の文脈でわかるけど、慣れないと混乱するよね(^_^;)
でも電子移動考えるなら避けては通れないから頑張って慣れよう(^o^)!!
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コメント
酸化還元の理解で、てこずっていたところでした。この記事を読んで理解できました。ありがとうございます。