芳香族性と開殻性を示すスーパーベンゼン!!
グローバル芳香族性を持つスーパーベンゼン
[6]Cyclo-para-phenylmethine: An Analog of Benzene Showing Global Aromaticity and Open-Shell Diradical Character
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 16266−16270
Zhengtao Li, Tullimilli Y. Gopalakrishna, Yi Han, Yanwei Gu, Liu Yuan, Wangdong Zeng, David Casanova, and Jishan Wu
どうも!更新さぼってますが、書きたいことはたくさんたまっているもろぴーです。自分でプレッシャーかける意味でも宣言しますが、年末から年始にかけては気合入れて更新します!!
さて今回の記事は現代化学コラボ企画!第四回目は、「芳香族性と開殻性を示す“スーパーベンゼン”なる分子を作った」という内容の論文を紹介します!
みんな大好きベンゼン
ベンゼンは有機化学者の心をつかんでやまない。
調和のとれた六角形をしており、しかもシンプルな形でありながら、芳香族性という有機化学を語るには欠かすことのできない特徴を持っている
図1. ベンゼン
そして、きっとベンゼンが好きすぎたのだろう、ベンゼンをトリビュートしたオリジナルの化合物を合成する研究者たちがいる。
1978年Staabらはベンゼン環を繋げて六角形を作りスーパーベンゼンAとして報告した1。ちなみにこの分子は、ベンゼンの構造を提唱したケクレにちなんでKekuleneと名付けられている
1998年植田らはベンゼンの各炭素-炭素結合に二炭素挟み込んだような分子Bを合成し、そのマクロサイクルが芳香族性を示すことを明らかにした2。さらにこの分子を発展させ、2006年Chauvinらは四炭素挟み込んだ分子Cを合成した3。
図2. 過去に報告されたスーパーベンゼン
キノイド構造
少し話は変わって、キノイドの話をしよう。
図3aに示すようにキノイドと呼ばれる構造は、芳香族性を得るために共鳴構造にジラジカルの寄与がある。その特異な電子構造から非常に興味がもたれる一方で、ジラジカルは大変不安定なことが知られ、安定に単離できるジラジカル化合物は久保らが報告した分子4をはじめ、ごくごく限られている(図3b)。
図3. キノイド構造とジラジカル性
今回の分子
今回紹介する論文の著者であるCasanova, Wuらの合成した分子は、これらの要素を掛け合わせたスーパーベンゼンDである。
共鳴構造を代表してD-1, D-2, D-3を図4に示した。ケクレ構造の二重結合をキノイドに見立て、単結合をパラフェニレン基に見立てている。
この分子はどんな特性を持っているのだろう?そしてベンゼンとはどう異なるのだろう?
図4. キノイド構造が導入されたスーパーベンゼン
環全体で芳香族性を持つ。
Dのマクロサイクルのπ電子数を数えると30個で共役していることがわかる。このことからDは芳香族性を有することが予測されるが、計算化学やNMRの測定から、確かにDが環全体で芳香族性を持つことが明らかになった(図5)。
ちゃんとベンゼンっぽさ出してくるねぇ~(=゚ω゚)ノ
図5. Dの芳香族性
開殻性(ジラジカル性)を有する
ベンゼンではジラジカル性はまったくないと考えていいが、Dについてはキノイド構造が導入されているため、D-3の共鳴寄与が示すように、開殻性を示すと考えられる。計算化学により、Dは開殻多重ジラジカル性を持つことが確かめられた。その値もy0 = 0.49, y1 = 0.47, y2= 0.29とかなりの割合でジラジカルの寄与があることがわかる。(y = 0, 完全に閉殻、y = 1, 完全に開殻)
開殻性にも関らず安定
この論文を読んでいて、かなり驚いた点は、Dの精製方法だ。
なんとトリエチルアミンで不活性化したシリカゲルでカラムクロマトグラフィーができるらしい。
そんな安定なん!!?(゜O゜)
一般的に開殻有機分子は不安定な化合物が多く、カラムクロマトどころか空気にさらすだけで壊れてしまうものが多い。上述のように大きな開殻性があるにもかかわらず、カラムクロマトにも耐え、大気中で一か月以上も安定で壊れないことは驚異的である。
所感
前回に引き続き、芳香族性にまつわる論文を紹介した。
前回はケイ素の化学であったが、今回の分子は炭素と水素しか含まれない芳香族化合物である。二種類の元素しか用いていないにもかかわらず、現代でもなお新しい構造・特性をもった分子が報告されていることは、有機化学の多様性を如実に表しているように思える。これからもまだまだ、ベンゼンをリスペクトした新しい分子が報告され続けるだろう。
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参考文献
1. Francois Diederich and Heinz A. Staab, Benzenoid versus Annulenoid Aromaticity : Synthesis and Properties of Kekulene Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 27 ( I 978) 372-374
2. Suzuki, R.; Tsukuda, H.; Watanabe, N.; Kuwatani, Y.; Ueda, I. Synthesis, Structure and Properties of 3,9,15-Tri- and 3,6,9,12,15,18-Hexasubstituted Dodecadehydro[18]annulenes (C18H3R3 and C18R6) with D6h-Symmetry. Tetrahedron 1998, 54, 2477−2496.
3. Zou, C.; Lepetit, C.; Coppel, Y.; Chauvin, R. Ring Carbo-mers: From Questionable Homoaromaticity to Bench Aromaticity. Pure Appl. Chem. 2006, 78, 791−811.
4. Takashi Kubo, Akihiro Shimizu, Maki Sakamoto, Mikio Uruichi, Kyuya Yakushi, Masayoshi Nakano, Daisuke Shiomi, Kazunobu Sato, Takeji Takui, Yasushi Morita, Kazuhiro Nakasuji Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 6564.