炭素-炭素結合形成反応の原点かつ頂点
勇樹 | 博士課程二年で専門は有機化学。金がなくて家庭教師を始めた。話は脱線しがち |
理香 |
そこそこの進学校に通う女子高校生二年。受験も遠く意識低め。勇樹の授業はできるだけさぼろうと話をそらす。 |
アルドール反応を学ぼう
勇樹 | 前回まででエノラートを説明した。 |
いろんなカルボニル化合物のα位のプロトンを塩基で引き抜くことで、炭素マイナス(求核剤)のエノラートになるんですよね。 | |
勇樹 | その通り!
つまり、カルボニル化合物の反応性は、大きく二つにわけることができる。 ①酸素の電気陰性度が高いため、C=O結合の炭素が炭素プラス(求電子剤)になる |
あるときはプラスで、ある時はマイナスってのがややこしいですね・・・ | |
勇樹 | 確かに慣れるまでややこしいかも。
でもプラスにもマイナスにもなれる性質を活かしたのが、炭素-炭素結合形成の王、アルドール反応だ。 |
アルドール反応の最も基本的な形
まず、もっとも単純なアセトンの塩基性条件でのアルドール反応を例に考える。
アセトンのC=Oの炭素は、酸素が電子を引っ張るためδ+になっている。一方、塩基が存在すると、アセトンの一部がエノラートに変換される。カルボニルのプラスとエノラートのマイナスがくっつくように付加反応し、炭素-炭素結合が形成される。
図1. アセトンのアルドール反応
ちなみに反応条件によっては脱水反応が起き、二重結合が形成される。これをアルドール縮合という。
図2. アセトンのアルドール縮合
また、酸性条件でも似たようなことが起きる。この場合はオキソニウムとエノールが反応することになる。
図3. 酸性条件でのアルドール反応
こんな単純な反応条件でくっつくんですね! | |
勇樹 | ずいぶん簡単にくっつくよね。
さらに応用で、同一分子の二量化でなく、異なる分子をくっつけることができる。 |
クロスアルドール
ベンズアルデヒドとアセトフェノンの塩基性条件下でのアルドール反応を考える。
ベンズアルデヒドはα位にプロトンがないので、エノラートになることはできない。つまり炭素プラスとしての反応性しかない。
一方でアセトフェノンはα位にプロトンがあり、エノラートになることができる。つまり炭素プラスと炭素マイナスいずれの反応性も示す。
図4. ベンズアルデヒドとアセトフェノンはエノラートになれるのか?
アセトフェノンから発生したエノラートは、ベンズアルデヒドのC=OとアセトフェノンのC=Oのどちらとも反応する可能性がある。
図5. ベンズアルデヒドとアセトフェノン、エノラートはどちらと反応するか?
あれ?どっちと反応するんですか? | |
勇樹 | 結論から言うとベンズアルデヒドなんだ。
ここで重要なのはベンズアルデヒドのC=OとアセトフェノンのC=O”どちらがより炭素プラス性が高いか”ということ。 実はアルデヒドとケトンを比較した場合、アルデヒドのほうが求電子性に富んでおり、炭素プラス性が高い。 |
そうなんですか!? | |
勇樹 | うむ。立体的要因と電子的要因で説明される。 |
アルデヒド | ケトン | |
立体 | カルボニルの炭素周りがすいている
比較的、反応性高い。 |
カルボニルの炭素周りが混んでいる。
比較的、反応性低い。 |
電子 | 水素はδ+を安定化しない
比較的、不安定で反応性が高い。 |
C-H結合が超共役でδ+を安定化する
比較的、安定で反応性が低い。 |
この2点の理由で、一般的にアルデヒドはケトンより求電子性が高い。
*あくまで相対的なもので、比較すればアルデヒドのほうが求電子性が高いことになるが、ケトンも十分に求電子性を持っていることに注意しておこう。
この反応性の差によって、ベンズアルデヒドとアセトフェノンを塩基性条件にさらすと、アセトフェノンから発生したエノラートがベンズアルデヒドと優先して反応することがわかるだろう。
図6. ベンズアルデヒドとアセトフェノンのクロスアルドール反応
こういうアルドールが異分子間で起こるものをクロスアルドールという。
ここがすごいよアルドール反応
まぁ、くっつくのはわかったんですけど、そんなにアルドール反応ってすごいんですか?? | |
勇樹 | めちゃくちゃすごいよ!!
反応式をみよ。気づくことはないか?? |
ん~・・・炭素-炭素結合ができてます・・・ | |
勇樹 | それは当たり前。
重要なのは、炭素-炭素結合ができるにもかかわらず、ゴミが出ないのだ! |
な・・・!確かに!! | |
勇樹 | グリニャールだったらマグネシウム塩が、アルキルハライドを使えばハロゲンのゴミが出る。
しかしアルドール反応はどこにでもあるカルボニル化合物を用いて、ゴミもなく分子を組み立てることができる。 |
勇樹 | この特徴は工業的にも重要だ。
例えば、ベンズアルデヒドとオクタナールをアルドール縮合することでヘキシルシンナムアルデヒド(HCA)が工業的に合成されている。副生成物はなんと脱水で生じる水だけ。 |
勇樹 | HCAはシャンプーや化粧品など、だいたい何にでも入っている重要な香料の素材。
もちろんHCAだけでなく、身の回りのさまざまなモノがアルドール反応によって作られている。 めちゃくちゃ重要な反応であることがわかるだろう。 |
すごい・・・アルドール最強じゃないですか!! | |
勇樹 | そう最強なんだよ!!まさに有機反応の王!!
あと、アルドール反応は同じような形式の派生反応が多い。 次はそれをまとめて押さえよう! |
まだ続くの・・・? |
次回に続く
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イラスト
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