いい研究について大真面目に議論する
研究者のしゃべり場というイベントを企画しました。(イベントレポはこちら。)
お題は「いい研究って何?」というシンプルかつ難しい問題。
この一見答えのない問題に対し、修士過程、博士課程、ポスドク、アカデミア、企業の研究者といった様々な背景の研究者が8人集まって、4時間近く大真面目に議論しました。
いい研究の条件を3つにまとめるという無理難題に挑戦したわけですが、知性あふれる参加者のみなさんのおかげで、一つの結論を出すことができました。
その結論は、決して奇をてらわず、参加者の意見を包括しつつ、ふわっとしていない、かなり興味深いものだと思います。
今回の記事ではその結論をシェアしたいと思います。
この結論に対し、みなさんはどう感じるでしょう?意見聞かせてくれるとうれしいです。
いい研究の3つの条件
1. 伸びしろの大きい研究
いい研究は発表段階で完成しません。むしろ長い時間をかけて進歩し、発展し、やがてその分野を超えた波及をしていきます。
有機化学の例でいえば、クロスカップリング反応であったり、ヒュスゲン環化付加によるクリックケミストリーが挙げられます。
いずれも元々は二つの分子をつなげる一つの有機合成手法として報告されましたが、優れた性質が後になっても次々と明らかになり、現在では生化学や高分子化学など幅広い応用がされています。
またアカデミアの研究に限らず、企業の研究において既知工程最適化についての研究も、そのコストカットによって商品の流通や供給のあり方などを変えることがあります。
こうした単純でありながらも、奥深く、幅広く波及し、長く続く研究を我々は「伸びしろの大きい研究」と捉え、いい研究の第一の条件としました。
2. 倫理観を伴い、利用価値を産む研究
いい研究は利用価値があります。
ここでいう、利用価値にはさまざまな形が含まれています。
お金を生み出すことも価値ですし、知的好奇心を満たすのも価値です。また、当然生活を豊かにするなど周りに良い影響を与える研究も非常に価値の高い研究です。
しかし、ここで忘れてはならないのは、いい研究は倫理に基づかなければなりません。
例えば、ナチスの人体実験はある側面では医療を前進させ、原子爆弾は物理学者の知的好奇心を大いに満たすものであったかもしれません。しかし、我々はこれらをいい研究として認めることに否定的です。
いい研究は常に倫理的であり、科学的に基づいた新たな知見で、明日をよりよく、楽しくすべきと考えます。
我々は「倫理観を伴った利用価値」こそが、いい研究の産むべきアウトプットであると結論づけました。
3.他者または自分が納得できる魅力をもつ研究
我々はいい研究を志すうえで、目的と手段は広く考えていいと考えました。
企業で利益を追求するために研究しても、大学で自分の興味の信じるままに研究しても、いい研究になりえます。
ただ、我々はいい研究の共通点として、「他者か自分(素晴らしければ両方)を必ず魅了する」ことに気づきました。
例えば製薬企業のジェネリック医薬開発は、外から新規性が比較的乏しい研究に見えても、救われる患者がいるかぎりそれは素晴らしい研究です。
逆に誰も価値を信じてくれなかろうと、実際に研究している本人が信じるに値するものであるならば、それはいい研究であると考えます。
なぜなら、少なくともその研究は研究している本人を魅了しているわけで、他人の評価が発表当初に得られなくても独自の知見を産み、思いもよらない形で再評価される可能性を常に秘めているからです。
誰かを魅了する、それがいい研究の必須条件と我々は考えました。
どうすればいい研究ができるのか?
次に、こうした研究をするために我々はどのようなことを心掛け、行動するべきか議論しました。
様々な意見が交わされましたが、その中で私が特に重要と思った意見について紹介します。
1人で研究しない事
先人たちの膨大な研究の成果により確立された領域の中で、何がどう転んでも新しい結果の出る研究はどんどん少なくなっています。すでにできたフィールドにとどまる限り当然です。
今後、上述の定義に従った「いい研究」をするためには、先人たちが確立してくれた領域から一歩飛び出し、より複合的な領域にも積極的に進まなければなりません。
しかし、一人でカバーできる範囲には限りがあります。
そのため、我々は今後より広い視野を持ち、新しい領域を切り開くために、「1人で研究しない事」が重要になるでしょう。
これは巷でいわれているような分野横断型の共同研究を進めようというほど固い意味でなく、周りの人と良い関係を築き、研究者として孤立しないようにするということになります。
他の研究者と良好な関係を築くことで、困った時に助け合い、わからない事は教えあうことができるはずです。
人間関係は昔から大事ではありましたが、今後はますます重要性が増すでしょう。
新しいものを受け入れる事
時代は変化していきます。
近年における人工知能の爆発的進歩によって、我々の生活は日々変わっています。
先日取り上げたgoogle翻訳はいい例で、数年前まったく実用的でなかった技術も、実際の使用に耐えるレベルになり、論文の読み方・書き方が変わってしまいました。
おそらくこの時代の変化速度は増してく一方で、どんどん新しいツールが出現するでしょう。これらのツールを取り入れない者は一瞬で時代遅れになってしまう、恐ろしい世の中といえます。
しかしポジティブにとらえるのなら、我々はこれらの新しいツールを積極的に取り入れることで、昔は研究することが困難だった領域に飛び込めるチャンスが増えるはずです。
これからの研究者は「いい研究」をするために、新しいものを取り入れていかなければなりません。
自分の研究に自信を持てるようにすること
研究は苦しい時期がつきものです。仮説という名の願望を胸に、出るかどうかわからない結果を追いまわし、その多くは失敗に終わります。
しかも新しい「いい研究」をしようとすると、なおさら失敗に出くわすことになるでしょう。
それでも研究を続けるためには、金銭や名誉などの外から与えられるものというより、好奇心や達成欲といった内側からわいてくるものが必要になるでしょう。そして好奇心や達成欲を持つためには、自分の研究に自信を持たなければなりません。
その研究の価値は?背景は?おもしろいの?
こういったことを誰よりも考え抜き、思いを馳せ、自分の研究に対し自信を深められたのなら、自ずと「絶対やったる」といった気持ちを抱くことができるはず。
以上のようなアプローチで研究していけば、今自分がいる場所から少しずつ「いい研究」に近づいていくはずです。
今回の結論についての所感
ずいぶん格好いい、なかなかハードルの高い定義になった。(^_^;)
「俺の研究はばっちりこの結論定義通りで、いい研究だぜぇ~」といえる人は多くはないかもしれない。
私自身こういう研究できているかというと、まだまだ至らぬ部分が多い。
しかし、それでも「研究するからには、こうありたい」と思えるような、広さと明確さを持った1つのいい結論に思える。
注意しておきたいのが「今回の定義にうまくフィットしない部分があるからダメな研究だ!」って考えるのはあまり賢い考えでないということ。
いうなれば今回の結論はコンパスみたいなもので、常に意識しすることで、自身の研究を「いい研究」に少しずつ近づけるための指針にすればいいんだろう。
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コメント
楽しく読ませていただいてます。
更新 楽しみにしていますね。