ムーンショット型研究開発制度にかかわるビジョナリー会議:議事要旨 感想文

コラム

ムーンショットって何をしようとしているのか??

今話題のムーンショット

国家プロジェクトとして、「破壊的イノベーションの創出」を目指すという、今話題のムーンショット型研究開発。

予算は1000億円ということで、様々な研究者の度肝を抜いた。

普段数百万の研究費について争っているところで、そんな話を聞くと、「1000億を使って何するんよ!?」と研究者なら誰もが思うはず。

私が今年度いただいている科研費「若手研究」二万件分である。あまりに大きすぎて正直規模感がよくわからない。とはいえ、そこまで大型の予算でどういったことをしようというのかは、非常に興味のあるところ。

今回は首相官邸にて公開されている「ムーンショット型研究開発制度にかかわるビジョナリー会議の議事要旨(第一回・第二回)」を読んでみたので、私が気になった点と感想を書いてみたい。

気になった方は、原文もどうぞ→こちら

 

ムーンショットのイメージ

ムーンショットって何したいの?ってことだが、それはこのプロジェクトの名前が一番きれいに表している。

つまりムーンショット型の研究とは「現代版アポロ計画」と捉えればよさそうである。実際に会議資料にも何度もアポロ計画が引き合いに出されている。勘違いしてはならないのは、アポロ計画といっても、宇宙開発の話が主なわけではない。

アポロ計画が果たしたような、

・一般人をも熱狂させ、社会的ムーブメントを起こる。
・これまで成しえなかった、歴史的偉業を成し遂げる。
・世界を巻き込み、世界を先導する。
・結果として直接的・副産物的に科学技術の発展、および政治的優位性が得られる。

といった効果が見込める研究プロジェクトをムーンショット型の研究として想定していることが伝わってきた。

私はこの関連は相当調べました。例えば、このページにありますように、アポロ計画の目的というのは月に行くだけではなくて、アメリカの航空宇宙産業での優位性であるとか宇宙における軍事的な優位性の確立であるとか、大規模プロジェクトのノウハウの獲得、システムサイエンスを堅固なものにするとか、そういう色々なアメリカの国益及び産業を推進するためのことを考えてアポロ計画にかなりのお金を投入するというような意思決定をしているわけですね。

ムーンショット型研究開発制度に係るビジョナリー会議(第一回)議事要旨週より引用

 

どんな研究がムーンショット型の研究になりえるのか

アポロ計画のイメージをもつと、どんな研究がムーンショット型になりえるのか、なんとなく掴めそうだ。

・目標が誰にもわかりやすい
・解決すべき課題が山済みで、困難が多い。
・しかし、マンパワーと物量で解決が望めることが、ある程度わかっている。
・法整備といった、政治の力も利用し、社会実装に間に合わせる。

特に、法整備については、あまり考えたことのない私はびっくりしたが、落合陽一先生は次のようなコメントをしている。

そうなったときに、僕は国がムーンショットプロジェクトをやる意味は大いにあると思っていて、それは何かといったら、既得権益が持つ法律の壁を壊すことです。それはポリティクスとテクノロジーが合わさった時に、既得権益層を守る法律の壁を壊せるのは恐らく国主導のテクノロジー研究しかなくて、それは民間から始めても多分始まらないし時間がかかる。そのためには、ポリティクスとテクノロジーの両輪から物事を始めないといけない。

ムーンショット型研究開発制度に係るビジョナリー会議(第二回)議事要旨週より引用

確かに、本当に革命的なイノベーションが生まれるならば、世の中の法律はそのイノベーションに対応しているはずはない。法律は今の世の中を前提にして作られているもんね。

実は科学のテーマだけで社会を動かすことはできない。本当に社会に革命的イノベーションをもたらすためには、政治の力で、革命的な科学を社会に実装できるように、素早く法律を変えていかなければならない。

そして、それができるのは国家主導のプロジェクトだけだと。なるほど~

 

ムーンショットは単なる基礎研究で終わるものに眼中はない

逆に言うと、ムーンショット型の研究は、「興味深いけど、いつ役に立つかなんてわかりません」「こうすれば有用かもしれません」で終わってしまう研究は、初めから眼中にない。ムーンショットはそういうプロジェクトでないと、強い意思表示を感じる。

ムーンショットプロジェクトの基本は、大規模テクノロジー・プロジェクトになると思います。資源集中でやりきるというところになります。サイエンスが重要ではないかというとそんなことはなくて、目標を実現するところで、今のこの技術だとこのくらいいけるけど、サイエンスにブレークスルーがあるともっといけるというような組み方になります。ただし、サイエンスというのは、本質的にいつブレークスルーがあるか分からないので、このブレークスルーが起きないと目標達成できない危険が出てきます。ですので、ムーンショット・プロジェクトでのサイエンスの置き方というのはすごく気を付ける必要があると思います。

ムーンショット型研究開発制度に係るビジョナリー会議(第一回)議事要旨週より引用

この内容からもわかるように、学術的な基礎研究を軽視しているわけではないが、決して、主においているわけではないことが見て取れる。ムーンショットを批判するときはこの点を抑えていなければならない。

そしてくどいくらいに「一番重要なのは目標設定」と会議資料中で繰り返される。

つまり、金とマンパワーと政治力さえあれば、原理的に解決を見込め、だれもが魅力を感じる目標を選ぶ、ということである。

たしかに言われてみればアポロ計画はそうだったのかもな~(・ω・)

 

感想

1000億の使い道を議論しているとは思えない、会議の絵(グラフィックレコーディングというらしい)が公開されたり、会議の構成員が超斬新だったり、何かと下々の研究者の神経を逆なでするムーンショット。

僕の観測する範囲において、twitterでは批判的な人が多い。

ただ、議事録を読んでみると、議論されている内容は、かなりまじめで、日本の未来を考えてのプロジェクトであることが伝わってきた。特に批判するときは、「学術的な興味のみから取り組む基礎研究を対象としていない」ことを把握する必要そうだ。そこを取り違えると、見当違いな批判になる。

で、読んだうえで私は、現時点ではあんまりムーンショットに賛成できない。

アポロ計画がよく引き合いに出されていたが、そもそもアポロ計画がもたらしたものが、巨額の投資に見合った成果であったかは議論のあるところだ。(アポロ計画の予算はさらにけた違いで、当時の相場で10兆円以上らしいけど・・・(^_^;)

確かにムーンショット型の研究は意義がありそうだ。国家プロジェクトにしかできないことはあるのだろう。ただ、本当に1000億かける価値のある研究になるんだろうか?

1000億を今、数百万円の単位で困っている多数の研究者にばらまくのと、どちらが効果あるんだろうか?

基盤Cが2万件分だよ?

それ以上の成果が出るのかな?出るなら全然いいと思うんですけど。下っ端研究者としてはなかなかそこまでの劇的成果を想像することはできない。

とか私が言っても、もうムーンショットはやるんだろう。ならば1000億のプロジェクトがどうなるかその行く末を見守りたい。

私の想像を超えた大成功になるかもしれないし!ちょっと他人事として注目し続けようと思います。

 

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