有機化学のブログ:面白い最新論文解説したり、有名反応をまとめたり、入門向け記事書いたり。

撹拌子が金属触媒反応のコンタミを引き起こす話

2019/04/10
 
この記事を書いている人 - WRITER -

使い込んだ撹拌子が結果を惑わす??

Phantom Reactivity in Organic and Catalytic Reactions as a Consequence of Microscale Destruction and Contamination-Trapping Effects of Magnetic Stir Bars

ACS Catal. 2019, 9, 3070.
Evgeniy O. Pentsak, Dmitry B. Eremin, Evgeniy G. Gordeev, and Valentine P. Ananikov

微量金属が反応を左右する

金属触媒は反応系によっては、ppm, ppbオーダーの低濃度の金属で反応が進行することが知られている。これはしばしば、科学的な誤解を生んできた。例えば、BuckwaldとBolmらは鉄触媒で進行するとされていた反応について、実際には鉄触媒に含まれるごく微量の銅が真の触媒であることを明らかにした。(Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 5586)


図1. 鉄で進行する?C-Nカップリング

また、”金属触媒を用いない鈴木宮浦カップリング”なる反応も報告されたこともあったが、実際には用いた炭酸ナトリウムに含まれる、超極微量のPdが触媒となっていたことが明らかになった。(J. Org. Chem200570, 161-168)


図2. メタルフリー?鈴木宮浦カップリング

このような案件からもわかるように、金属触媒反応の本質的な理解のためには、微量の金属の混入の可能性を排除する必要がある。しかしながら、細心の注意を払っても、思いもしないところから金属が混入してしまうものだ。

本論文では、使い込んだマグネチックスターラーバー(以下、撹拌子)から微量の金属が混入し、触媒反応に影響を与えうることを報告している。

 

撹拌子は繰り返し使っていいのか?

撹拌子は小さな磁石をフッ素系樹脂(PTFE)で包んだものである。多くの有機化学者は、フラスコ内で反応溶液を攪拌するために、日常的に撹拌子を用いているが、PTFEは化学的に安定であるため、撹拌子が反応に関与する可能性はほとんど考慮されてこなかった。

確かに普段、何にも考えずアセトンと水で洗って、撹拌子使いまわしちゃいますけどね(^_^;)。。。

これに対し著者らは、撹拌子は一般的に何度も繰り返し用いられるため、十分に金属の混入源になりえると考え、その可能性について検証することとした。

著者らは鈴木・宮浦カップリングをモデル実験として行うこととした。

通常の方法で洗浄された使用済み撹拌子と新品の撹拌子をそれぞれ加えたフラスコ内で、アリールハライドとアリールボロン酸をメタノール中50 ℃で2時間加熱した。その結果、新品の撹拌子を用いた場合まったく反応が進行しなかったにもかかわらず、触媒反応に使用したことのある攪拌子を用いた場合は、反応がいくらか進行することが分かった。


図3. 撹拌子に付着した微量金属で鈴木宮浦カップリングが進行する

まじか!!使いまわしちゃダメじゃん!!(゜O゜)

本結果から、使用済みの撹拌子は十分に触媒反応に影響を与えうることが明らかとなった。そのため、著者らは低触媒量で進行する反応や金属触媒を使わない反応、反応機構解析については、特に使用済みの撹拌子由来の金属混入に対し注意する必要があり、「絶対に新品の撹拌子で対照実験やっとけよ!!」と締めくくっている。

 

所感

金属触媒反応を正しく議論するために考慮されるべき重要な知見。

使い込んだ撹拌子の表面の顕微鏡による表面観察や解析も行っており、この論文を読むと使いまわされた撹拌子は相当注意必要なことがわかる。

これまでに報告されているいくつかの”メタルフリー”な反応はこれが原因かもしれないね・・・

注意深く議論していかないとですね・・・!!(´-ω-`)

他のおすすめ記事はこちら

関連記事
(1) 鈴木-宮浦カップリング / Suzuki-Miyaura coupling

外部サイト
(1) Chem Station: パラジウムが要らない鈴木カップリング反応!?
(2) 有機化学美術館分館: 鉄の仮面の下に
(3) たゆたえども沈まず: 原料の不純物で反応が行ったり行かなかったりした話

 

Related Post

sponsored link
この記事を書いている人 - WRITER -

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。

Copyright© 有機化学論文研究所 , 2019 All Rights Reserved.