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クロスウルマンカップリングの驚異的進展 :Ni/Pd協働触媒

2019/11/18
 
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LiCl-Accelerated Multimetallic Cross-Coupling of Aryl Chlorides with Aryl Triflates

J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 10978−10983
Liangbin Huang, Laura K. G. Ackerman, Kai Kang, Astrid M. Parsons, and Daniel J. Weix

パラジウムとニッケルの協働触媒で芳香環をくっつけろ

現代化学コラボ企画第二回

ひと月前、突然始まりました現代化学さんとのコラボ・・・その名も「有機化学論文研究所特別出張所

一回だけの打ち切りにならず、なんとか二回目を迎えることができました!三回目の原稿もすでに納品しているので、三回までは確定しています。

つまり、この方針でいいということなんでしょう。ジュンク堂においてあるような、一般向けの雑誌だろうが気にせず、ゴリゴリの有機化学の論文を紹介します!

現代化学さんでの記事は現代化学2019年11月号で読むことができます。あわせて読んでね!!ヽ(^o^)丿

 

ビアリール化合物

二つの芳香環が連結したビアリール化合物は光学材料、医薬、配位子など多様な分野で需要があるにもかかわらず、その効率的な合成法の確立は1900年代初頭大変難しい課題であった。最も古典的な方法の一つはウルマン反応とよばれる反応で、ハロゲン化アリールを銅存在下200℃以上に加熱するというものであった1


図1. ウルマンカップリング

同一の芳香環が連結した対称なビアリール化合物(ホモカップリング体)しか得られないうえ、条件が過酷すぎて、お世辞にも効率的な方法とは言えない。しかし当時は他に良い手法もなく、仕方なくこの反応が利用されてきた。

1972年に熊田・玉尾・コリューカップリングが報告されると2,3、アリールハライドと有機金属試薬を遷移金属触媒存在下反応させる手法が、ビアリール合成法のメインストリームになった。非対称なビアリール化合物(クロスカップリング体)がニッケルをちょっと入れるだけで簡単に合成できるのだ。


図2. 熊田・玉尾・コリューカップリング

こうした現代に続くクロスカップリング反応は、のちにノーベル賞の対象になることからもうかがえるように、革命的に優れていた。一方で、クロスカップリング反応の隆盛と同時に、ウルマンカップリングによるビアリール合成は過去のものになりつつあった。

 

似た者同士を見分けろ!

その流れに待ったをかけているのがD. J. Weixである。ウルマンカップリングはクロスカップリング反応に比べ、不安定であったり、調整に工程数を要する有機金属試薬を用いなくてよいという大きな利点がある。二つの芳香族求電子剤を、もし温和な条件で、選択的に反応させてクロスカップリング体を得ることができれば、合成上非常に有用になるに違いない。

Weixらは実際にこの問題に取り組み、2015年にNi/Pd 協働触媒によるアリールブロマイドとアリールトリフラートの選択的な還元的クロスカップリング、すなわちクロスウルマンカップリングを報告している(図4)4


図3. クロスウルマンカップリング

反応機構

アリールブロマイドとアリールトリフラートは脱離基を有する芳香環という意味では非常に似た基質であるが、以下に示す過去の知見をうまく組み合わせ、選択的なクロスウルマンカップリングを実現している。

①トリフラート切断選択的なPd触媒
1997年、林らはdppp配位子を有するPd触媒が、臭素より優先してトリフラートを変換できることを報告した(図4a)5
②臭素切断選択的なNi触媒
2012年、Weixらはビピリジン系の配位子を有するNi触媒が、トリフラートより優先して臭素を変換できることを報告した(図4b)6


図4. 過去の知見

以上の知見を組み合わせ、本反応においては、アリールトリフラートはPd触媒へ選択的に酸化的付加し、アリールブロマイドはNi触媒へ選択的に酸化的付加する。あとは図5に示すように選択的にトランスメタル化が起こればクロスカップリング体が得られるだろう。


図5. クロスウルマンカップリングの反応機構

実際には完璧な選択性を実現するのは難しいようで、ホモカップリング体が微量混ざってしまうが、クロスウルマンカップリングにおける大きな進歩である。

 

臭素から塩素へ

この反応のポイントはPdがトリフラートを、Niが臭素を選択的に切断することだろう。すなわち、芳香環に置換したトリフラート、および臭素のどちらが切断しやすいかはかなり微妙で、それを金属の種類や配位子でうまく見分けられたということになる。

ふむふむ、なるほどね(^O^)

Q:では問題。アリールブロマイドの代わりに、アリールクロライドを用いてこの反応が達成できるか?

そんなん無理やろ!都合よくトリフラートは切断せずに、塩素だけ切断する触媒なんてあるかいな!(^O^)

A: いやいや、できます

え?(゜-゜)

個人的にはアリールクロライドとアリールトリフラートでクロスウルマンカップリングなんて、無理だと思ってた。しかしながら、以上の考えは先入観に過ぎないことが示された。

Weixらは今回の論文で、Ni/Pd 協働触媒によるアリールクロライドとアリールトリフラートの選択的な還元的クロスカップリングを報告した。この反応を実現するにあたって、新たに塩化リチウムを加えることで、反応が劇的に加速されることを見出し、高収率で目的生成物が得られることを明らかにした。


図6. アリールクロライドを用いたクロスウルマンカップリング

所感

アリールクロライドとアリールトリフラートを選択的にクロスカップリングするという、にわかに信じがたい反応。Ni触媒がトリフラートより塩素を選択的に切断することは、なかなかびっくりだ。この点に関しては、酸化的付加の速度論や、計算化学などによる活性化エネルギーの導出など、より詳細な議論が必要だろう。

いずれにせよ、ウルマン反応の進展において、大きな成果といえる。

有機反応のほとんどは求核剤と求電子剤を反応させるものだが、触媒や反応系の制御によって、電子的に似た者同士をつなぐ新しい反応の開発するための、重要な知見になるものと思われる。

関連記事
(1) 第一回:有機触媒でホウ素化:ホウ素が芳香環から芳香環へ移動する!
(2) 第三回:芳香族性を持つケイ素シクロブタジエンジカチオン
(3) 熊田・玉尾・コリューカップリング / Kumada-Tamao-Corriu coupling
(4) 鈴木-宮浦カップリング / Suzuki-Miyaura coupling

参考文献
(1) Ullmann, F.; Bielecki, J. Chem. Ber. 1901, 34, 2174.
(2) Tamao, K.; Sumitani, K.; Kumada, M. J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 4374.
(3) Corriu, K. J. P.; Masse, J. P. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1972, 144.
(4) Ackerman, L. K. G.; Lovell, M. M.; Weix, D. J. Multimetallic Catalysis Enabled Cross-Coupling of Aryl Bromides with Aryl Triflates. Nature 2015, 524, 454−457.
(5) Kamikawa, T. Hayashi, T. Tetrahedr. Lett. 38, 7087–7090 (1997).
(6) Everson,D.A., Jones, B. A.&Weix, D. J.Replacingconventional carbon nucleophiles with electrophiles: nickel-catalyzed reductive alkylation of aryl bromides and chlorides. J. Am. Chem. Soc. 134, 6146–6159 (2012).

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Comment

  1. 匿名 より:

    LiClなんかいろいろなのを加速してて有能過ぎませんかね・・・

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