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酸化還元電位の制限を乗り越えた光触媒的C–Hアミノ化反応 ~photoredox触媒の限界を突破しろ!~

2020/04/04
 
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Photocatalytic C–H amination of aromatics overcoming redox potential limitations

Org. Lett. 2020, 22, 2822-2827 . (doi.org/10.1021/acs.orglett.0c00822)
Tatsuya Morofuji,* Gun Ikarashi and Naokazu Kano*

This paper is one of the most read articles of Org. Lett. in April.

photoredox触媒の限界を超えろ!

反応の概要

普通の光触媒による酸化反応は、一般的に光触媒の酸化力と原料の酸化されやすさで反応が進行するかどうかが決まる。

つまり酸化しにくい原料を酸化したい場合は、強力な酸化力を持つ光触媒を用いなければならない・・・というのがこの分野のなんとなくの常識だったのではなかろうか?論文でもよくそういう議論を見かける。

「でも必ずしも、そうでもないんじゃないかな~」と私は昔から思っていた。

うまく反応を設計すれば、弱い酸化力の光触媒でも、酸化しにくい基質を十分に酸化できるはず。そんなアイデアを体現したのが、本論文である。

結果を言うとそれはできた。

Ru光触媒[Ered(RuII/RuIII) = +1.37 V]を用いて、芳香族化合物の原料1[Eox = +1.65 Vから+2.27 V]を酸化することにより、ピリジニウムが生成し、対応するアニリン類へ変換することができた。

つまり、最大で2.27–1.37 = +0.9 Vも酸化力が足りていなくても反応が進行する。

反応設計のポイントは、系中で発生するRu(III)が遅いながらも芳香族化合物を酸化できたことと考えている。細かい議論は論文見てね。

わざわざ弱い触媒使う意味があるの?と思う人もいるだろう。正直、この成果だけでは実用的に意味があるところまでは持っていけていない。ただ僕たちは、光触媒の反応設計の新たな指針として、後に続く反応開発にインスピレーションを与えると信じている。

 

玉虫色の化学

ついに助教着任後2報目の論文を発表できました・・・!!私の名前の入った論文のなかでは最高傑作だと自負しています。

ただ、この研究は本当に見る人によって、評価や意見が全く違ったんですよね。

・すげぇー!photoredoxの常識ぶちやぶってるよ!
・はぁ?何が新しいん?
・これは大事な仕事だね。
・これの何が大事なの?
・意味がよくわからない。

などなど・・・。(五十嵐君が)発表するたびに、これまで頂いたことないような好意的な意見をくれる人も、逆になんか怒っちゃう人もいたりで大変でした。ちゃんと説明できていなかったこちらの落ち度もあると思うんですが、本当に誤解なくわかってもらうことを困難に感じた研究テーマでした。というのも、

・一見、合成の論文に見えて、そこに重心は置いてない。
・主張はめっちゃ攻めているようで、過去の知見からは自然、むしろ当たり前。
・でも、光触媒反応の設計における一般的な常識に反していて、実際これまで報告がほとんどなかった。
・それを、特別新しい工夫もなく、反応設計のみで解決案を提示している。

そんなだから、査読もなかなか通らなくて、大変でした。

でも僕は、こんなにも見る人によって受け取り方が変わる玉虫色の研究ができたことを、すごく誇りにしています。なかなかないと思うし、研究って本来そうあるべきじゃん?

ちょっと読むのは大変だと思うけど、photoredox触媒いじっている人は是非読んでみてほしいです。後悔させません。まじめに読めば読むほど疑問が出てくるでしょうが、メールくれたら答えます!

 

学生インタビュー


五十嵐 郡 (いからし ぐん) *い[が]らしではないぞ!
2020年3月現在:M2
受賞歴:第43回有機電子移動化学討論会ポスター賞受賞

あなたの思う、この研究の一番のポイントは?

酸化力の低い光触媒を使って、酸化しにくい基質を酸化できる点です。今後、光触媒を用いた反応の設計を広げる可能性のある知見だと考えています。

この研究をするにあたって、苦労した点は?

伝えることが難しかったです。

研究発表では、限られた時間で、用語>背景>コンセプト、のほとんどがそれぞれ知られていない中で伝えなければならないので、聞く人に合わせてまったく別の発表のスライドを作り直しました。就活・修論・専門的な学会・広い範囲の学会、すべてのバージョンでストーリーが違います。

大変でしたね。笑

この研究をするうえで、うれしかった時は?

色々あるのですが・・・TOP3でいうと

3位:30%くらいの収率が突然80%以上になった時。

収率が伸び悩んでいた時、自分なりに考えた反応条件を試したところ、急に収率が伸びて、NMR見た瞬間まじテンション上がりました!!ここから研究の進捗が加速しました。

2位:予想以上のデータが出たとき。

どのくらいの酸化電位の化合物まで、本研究の手法が適用できるか調べていくと、予想を次々に超えていき、驚くほど広い範囲に適用できました。このあたりは化学の醍醐味で、やってみないとわからないことが自分の予想を大きく超えてうまくいくのは、本当に楽しかったです。

1位:学会で評価してもらえた時。

論文で名前を見た高名な先生からもすごく評価してもらえました。

自分の研究に価値があるんだ、と確信できましたし、そういう価値あることを自分の手でできたと思えて、すごくうれしかったです。

この研究を通して学んだことはありますか?

実験のテクニックや知識はもちろんですが、”伝え方”の重要性を痛感しました。

同じ内容でも伝え方によって、受け取られ方が全く違ってくることが心の底から理解できました。企業に入っても大事になると思うので、肝に銘じようと思います。

卒業ですがこれからどうしていきたい?

四月から化学メーカーの研究職に就きます。今後、価値あるものを作って社会に貢献していきたいです。月並みですけど笑

>>博士は?笑(100回目)

考えてないわけではないですけど笑。会社に行ってからの状況次第ですよね。ただ、この三年間の研究生活で、自分が化学好きってことは実感できたので、一生化学に携わっていきたいと思っています!

 

インタビューした所感

彼が言うように、この研究は他の人の理解を得ることが大変な仕事でした。

本当に大変な研究だったわけですが、論文になったのは五十嵐君の超人的努力と冴えわたる頭脳の賜物。

ちょいちょいインタビューからにじみ出ていると思いますが、相当なハードワーカー。研究室立ち上げメンバー(修士)として「光反応って、光源何使うのかな?」から研究を始め、卒業までの2年という短い期間、ほとんど一人で仕事を完成させちゃいました。ちなみに彼は、この成果だけでなく、別の研究でも成果出していて、もう一報論文を出す予定です。なので卒業近いこの時期でも、実験・論文執筆やってます。いやぁ~すごい。

そして何よりすごいと思ったのは、「化学好きってことを実感できた」という言葉です。

結構、研究生活でつらいことがあったことを僕は知っています。全然成果でなかった時も、発表でボコボコにされたことも、永遠に発表資料作り直しているときも、魂込めた論文がリジェクトくらいまくったことも・・・。人によっては何度か折れるポイントがあったと思いみます。そんな状況でも、彼の中で「自分が好きだから、やりたいから」という内側からモチベーションが湧いてきて、歩みを止めません。

すごいなぁ、と思ってました。彼からは逆に教えられることがたくさんありました。

そして、私にとって、一緒に研究した初めての修士の学生で、初めて卒業を見送る修士の学生でもあります。

寂しい気持ちがないわけではないのですが、彼がより活躍できる場所へ行くのは本当にうれしいです。五十嵐君の研究成果が、製品として世に出ることを楽しみにしています。

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(2) 芳香族化合物の電気化学的アミノ化:カチオン性中間体を経る試み
お気づきの人もいるかもしれませんが、この研究は私が学生時代(吉田潤一先生の研究室)に開発した電気化学的アミノ化反応を基にしている。というか分子変換自体は同じ。
吉田研究室で学んだことを活かしながらも、新しい分野で新しい主張をすることができたと僕は思っていて、吉田先生がこの研究をどう思うのか、聞かせていただくことをすごく楽しみにしていました。しかしながら、それは叶わず、吉田先生は2019年9月に急逝されてしまいました。一番読んでほしい人に読んでもらえなかったことは残念です。ただただ、ご冥福をお祈りします。
(3) 可視光レドックス光触媒 / visible light photoredox catalysts :Ru錯体とIr錯体

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