有機化学のブログ:面白い最新論文解説したり、有名反応をまとめたり、入門向け記事書いたり。

(5+1)環化反応でベンゼン環を作って分子をつなげるby木下英恵

2022/01/06
 
この記事を書いている人 - WRITER -

木下英恵論文#1

Connecting a carbonyl and a π-conjugated group through a p-phenylene linker by (5+1) benzene ring formation

Chem. Commun. 2019, doi:10.1039/C9CC04012A
Open access!
Tatsuya Morofuji, Hanae Kinoshita, Naokazu Kano

本研究の概要

リンカーを介して、異なる2つの分子をつなぐことは分子設計の基本だ。

リンカーは用途に応じて多様な種類が存在するが、特にp-フェニレン基はπ共役の伸長や剛直な骨格を与える性質から、広く用いられるリンカーの一つである。そのp-フェニレン基の特徴をうまく使って、幅広い応用がされている骨格として、カルボニル-p-フェニレン-π分子が挙げられる。生理活性物質、光重合開始剤、光触媒などなど用途は様々だ。

図1. カルボニル-p-フェニレン-π分子

そのため、カルボニル-p-フェニレン-π分子を効率よく合成する手法の開発は重要である。従来の合成法は、(a) カップリング反応で中心の芳香環にπ共役置換基を導入する手法、(b) 中心の芳香環にカルボニル基を導入する手法、の片方もしくは両方を用いるというものである。

図2. 従来のカルボニル-p-フェニレン-π分子合成法

今回、我々は従来の合成法とは全く異なる、“5+1で真ん中のベンゼン環を作りつつ”合成するアプローチを新たに提案したいと考えた。


図3. 本研究:(5+1)ベンゼン環形成によるカルボニル-p-フェニレン-π分子の合成

細かい検討の結果は論文に譲ろう。
まとめると、入手容易なアセトフェノン類と、簡単に合成できるπ共役置換基を有するストレプトシアニンをTHF中、塩基性条件であたためるだけ。それだけで一発でカルボニル基とπ共役置換基を、p-フェニレン基を介してつなぐことができる。ちなみに下の例の生成物は光重合開始剤として働く分子である。


図4. (5+1)ベンゼン環形成によるカルボニル-p-フェニレン-p分子の合成の具体例

アセチル基を複数持つ化合物だとマルチで反応させることも可能!


図5. マルチ(5+1)ベンゼン環形成によるC3対称ドナーアクセプター分子の合成

でかい!!きもちいい!!ヽ(^o^)丿

 

やっと論文出ました

助教になって初めての論文でございます。うれぴ~ヾ(@⌒ー⌒@)ノ

この仕事の特徴であるストレプトシアニンは、学生時代に取り組んだ電解アミノ化の副生成物になります。面白い構造だし、わりと安定なことも知っていたので、これを使った反応開発できたらなぁ、と思っていたんですね。


図6. 学生時代の仕事:ストレプトシアニンが廃棄物だった。

実際にやってみると紆余曲折ありましたが、木下さんのおかげで、すこぶるシンプルかつきれいな反応が実現しました。論文として、自分らしい感じもありますし、それだけでなく木下さんらしい部分もあって、すごく満足しています。

 

学生インタビュー

本研究に取り組んだ木下英恵さんにインタビューしました。

あなたが思う、この研究の一番気に入っている点はなんでしょ??

私がこの反応で一番気に入っている点は、反応容器に全部を入れたら、パッと目的物ができる点です。

卒論発表で他の有機系の研究室の発表を聞いた時に思ったのですが、他の人がやっている反応と比べると、私の反応は入れているものが少なくいんですよね。アセトフェノンとストレプトシアニンと塩基を混ぜて、温めるだけです。このシンプルさがいいところかなと思っています。

四年生で卒研生として、研究をするにあたって、一番苦労した点ってなんでしょ?

13C NMRの数が多くて大変でした・・・。ストレプトシアニンを作るために、ピリジン、ピリジニウム塩、ストレプトシアニン自体のNMR、目的生成物のNMRと化合物の数が多くて大変でした。

研究自体は大体うまくいったかも。なにか苦労したかなぁ?

>>最初やってたテーマ全然うまくいかなかったじゃん。

あぁ、でもすぐにテーマ変えましたし、途中から今のテーマになって、3か月くらいで、ある程度は目途がついていたので、あんまり苦労したように思ってないです。

悪いことは忘れちゃうので。笑

この研究を通して何か学んだこと、自分が成長したなぁと思う点はありますか?

研究自体初めてだし、やるべきことがあって、それをこなしていくというのは仕事に近い部分があるなと感じていました。考えてみれば、そういう環境は人生で初めてで、自分がこれから仕事するときに、「どうふるまうか・どう考えるか」がちょっとわかった気がします。

そして、限られた時間の中で、しっかりやりきることが少しできるようになったと思います。なんというか、自分のゆとりの持てる範囲で、やるべきことをやるのが少し上手になったのかな、と思います。

これから卒業して社会人になるわけですが、今後どうしていきたい?

今後は~、ん~。わからないですよね。どんな人と一緒に働くかも、どんな仕事するかも、まだわからないことが多いので、正直どうなってるかわからないです。

でも、なにかしら頑張りたいと思っていますし、頑張れるんじゃないかなぁ、って思っています。

 

インタビューをした所感

悪いことは忘れちゃうので。
木下英恵さんを体現した言葉である。

木下さんは研究室に配属された当初、実は今回紹介した研究と全然違う研究テーマに取り組んでいた(ストレプトシアニンのスの字もないテーマ)。木下さんが最初の数ヵ月の間に仕込んだ反応は、ほぼほぼすべてノーリアクション。就職活動と並行しつつ、研究テーマを変えてはノーリアクションの毎日に、苦労がなかったとは思えない。

でも、今となっては大した苦労という風には思っていないらしい。

悪いことは忘れちゃうから。

そして、限られた時間の中で試行錯誤を繰り返し、ついにうまくいく反応を見出した。

「ラッキーでした~」とふわふわ言うが、これはラッキーとは言わない。サイコロを100回投げて、何度か6がでたことをラッキーとは言わないのと同じだ。

悪いことに引きずられず、やるべきことをやり、成果を積み重ねる。論文を見ていただくとわかると思うが、四年生が前任者なく取り組んだ研究テーマとしてはかなりデータ量が多いのではないかと思う。

これからどうなるかわからないと言いつつも、自分ができる範囲で最善を尽くすことには微塵の迷いもないようだ。どんな形であろうと、これから社会で活躍されるのだろう。

他の論文はこちら

参考文献
(1)本反応は、1975年にJutzらが報告したアセチル基から無置換ベンゾイル基への変換を、2つのセグメントをp-フェニレン基を介してつなげる手法に拡張したものである。 C. Jutz, R.-W. Wargner, A. Kraatz, H.-G. Löbering, Liebigs Ann. Chem., 1975, 874–900

sponsored link
この記事を書いている人 - WRITER -

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

Copyright© 有機化学論文研究所 , 2019 All Rights Reserved.