芳香族化合物の電気化学的アミノ化:カチオン性中間体を経る試み

自分の論文紹介

カチオンを経由した電解アミノ化反応

Electrochemical C–H Amination: Synthesis of Aromatic Primary Amines via N-Arylpyridinium Ions

J. Am. Chem. Soc. 2013135, 5000-5003. 
Morofuji, T.; Shimizu, A.; Yoshida, J.

電解酸化でアミノ化は結構難しい

芳香族化合物をアンモニア存在下、電解酸化してくっつけば、電解アミノ化が実現できそうである。


図1. 電解アミノ化の青写真

しかし、この電解アミノ化は、電解反応開発している人なら第一感で無理と感じる反応形式である。

というのも生成物の芳香族アミンは、原料の芳香族化合物より酸化されやすいので、仮に芳香族アミンが生成したとしても、できたそばから酸化されて壊れてしまう。


図2. 電解アミノ化の問題点

これは過剰酸化といって、有機電解酸化を利用した反応開発をする人は常に気にするポイントである。つまり、芳香族化合物の電解アミノ化は”過剰酸化のせいで”実現が難しそうということである。

普通にやってダメなら抜け道でも探そうか。修士の私はそう思った。

 

カチオン性の中間体に寄り道する

窒素官能基を芳香環に導入すると、通常は芳香環の電子が豊富になって、酸化されやすくなってしまう。

この問題を回避するために、私は生成物が N+ になっていればいいと考えた。N+ ならば誘起効果でむしろ電子を引っ張るので過剰酸化には侵されないに違いない。

そんな理由で、窒素源にピリジン選択し、芳香族化合物を電解酸化したところN-アリールピリジニウムイオンが生成した。カチオン性の中間体であるN-アリールピリジニウムイオンは、正電荷によって電子を引っ張っているので、原料よりも酸化されにくく、過剰酸化は起きない。通電後、N-アリールピリジニウムイオンは、芳香族第一級アミンに変換できる。


図3. カチオン性中間体を経る電解アミノ化

これで形式的に芳香族化合物の電解アミノ化が達成できた!!

本手法の応用として、ニトロ化/還元では困難な合成ルートが可能になることを示すために、下図のように、ニトロ基を残したままアミノ化することで、生理活性物質の合成ステップ数を減らすことに成功した。


図4. 電解アミノ化の応用:生理活性物質の合成ステップ短縮

After Thought

修士の頃のアイデア。あの頃は、芳香族化合物を電気でうまいこと変換できないかと、いろいろ模索してたんですよねぇ。

電解によるN-アリールピリジニウムイオンの生成も、続くアミンによるアニリンへの変換も、古くから知られていた反応ですが、組み合わせて「カチオン性の中間体を経て、芳香族化合物の電解アミノ化を実現」というコンセプトとして提案できた点はよかったと思います。実際に続く反応もいくつか開発できたし!ヽ(^o^)丿

当時、電気化学やってない人には「ふーん」という反応しか得られなかったが、電解反応開発している人にはかなりウケが良かった不思議なテーマ。反応自体に主眼はなく、過剰酸化の回避がキモだからねぇ、他の化学やってる人になかなかそこまで伝えられなかったんですよね。

もっとも、それは発表する前からわかっていたので、アプリケーションの合成的応用はかなりがんばりました!!適切なターゲット探すのにずっとreaxysで検索しまくっていたよ。

その辺のがんばりも、今ではなつかしくもある。私のお気に入りの論文です(^O^)/

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(1) 有機電解反応によるC-Hイミダゾール導入:カチオン性中間体を経るようにデザインする

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