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シリカートを使った光触媒的ラジカル反応:Giese反応への適用

2022/01/06
 
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松井優論文#1

Photocatalytic Giese-type reaction with alkylsilicates bearing C,O-bidentate ligands

Chem. Eur. J. 2021, accepted. (doi.org/10.1002/chem.202005300)
Tatsuya Morofuj, Yu Matsui, Misa Ohno, Gun Ikarashi, and Naokazu Kano

反応の概要

我々が注目しているC,O-二座配位子を有するシリカートをラジカル源に用いて、アルキルラジカルと電子不足オレフィンを反応させる光触媒的ギース反応を開発した。ちなみに、酸化的な発生例の少ないメチルラジカルもでるよ

第三世代?

有機ケイ素化合物をラジカル源として用いる場合、シンプルな中性ケイ素化物からは、ヘテロアトムのα位やベンジル位でしかラジカルを発生させることはできない。これを第一世代としよう。

より幅広いラジカル発生法として、ビスカテコールシリカートを用いる手法が開発されている1。これは第二世代に位置付けることができるだろう。しかしながら、工程数と副生成物の増加、酸性条件に対する不安定性など、第一世代の中性有機ケイ素化合物の利点が損なわれているという面も持つ。

我々は前報C,O-二座配位子を有するシリカートをラジカル源に用いたMinisci反応に続き、今回、発生させたアルキルラジカルを電子不足オレフィンと反応させるGiese型反応を開発した。このシリカートは一段階で合成可能、幅広いラジカルが発生可能で、酸にも安定であることは以前にも報告した通りであるが、今回の研究でケイ素部位の簡便な回収法を確立することができた。

また、本研究を進める過程で、C,O-二座配位子を有するシリカートを用いるとメチルラジカルが発生できることを見出した。ビスカテコールシリカートを用いた場合、メチルラジカルの発生は困難であることが報告されていることから、本メチルラジカル発生はC,O-二座配位子を有するシリカート特異的な反応性といえる。メチルラジカルが発生できる理由については、計算化学により綺麗に説明することができた。この辺はぜひ原著論文読んでくれると嬉しいです!

以上、C,O-二座配位子を有するシリカートを、合成的魅力の詰まった、『第三世代のケイ素ラジカル前駆体』として提案できたのではないだろうか??(なんて個人的には思っている。)

 

はじめてのFull Paper

なんかfull paperって縁がなくて、出したことなかったんですが、今回の仕事は明確に前報の続きということで、full paperとして論文を出すことができました。是非、前報のMinisci反応と併せて読んでいただきたいものです。

内容については、無茶苦茶納得していて、非常に気持ちのいい仕事になりました。広い範囲の興味を引く仕事ではないかもしれないですが、光触媒によるラジカル反応をやっている人には、一読の価値のある論文になったと思います。

私の研究の中では、最も波及していきそうな内容です。実際に最近、他の研究者が一例ながらC,O-二座配位子を有するシリカートをラジカル源とした反応を報告しました2。こんな感じで広まっていってくれると、うれしいですねぇ。使ってみたいけど、合成むずそう、って人は是非共同研究しましょう!笑

また、この仕事も前報に引き続き、クラウドファンディングの支援を受けて行った研究になります。支援者の皆様、本当にありがとうございました!!

学生インタビュー

この研究に取り組んだ松井さんにインタビューしました!

松井 優 (まつい ゆう)
2021年1月現在 修士課程1年

あなたが思う、この研究の一番のポイント(大事なところ)ってなんでしょ??

古くから知られているマーチン配位子を有するアルキルシリカートの明らかになっていなかった ポテンシャルの一部を見出せたところです 。

この研究をするにあたって、一番苦労した点ってなんでしょ?それはなんで?

学部の授業の基礎実験とは違い、研究活動は明確なゴールが予め設定されている訳ではないという点です。 実際に自分のテーマも、最初に掲げていた大まかなゴールと、最終的に掲げていたゴールは違います。今までの実験でどのようなデータが得られていて、それを踏まえてこれから何をやるべきか、 その都度考え直すのが大変でした。 (研究の醍醐味はそこにあると思いますが…)

この研究をするうえで、個人的に一番うれしかった瞬間は?

メチルラジカルを発生させる事が出来る という性質を明らかにできた点です。 メチルラジカル付加体の粗生成物を初めて精製していた時は、反応が進行しているのかという ソワソワ感と、 出来ていたらやばいな、というワクワク感が混在していました。NMRを一刻も早く測定したくてたまらなかったのを今でもよく覚えていますし、目的物だと分かった瞬間は嬉しくて思わずガッツポーズしました。

また、メチル ラジカル前駆体であるメチルシリカートは、毎回収率がとても良く合成ができるので、気分転換にもなる 大好きな原料合成の一つです (笑)。大きいスケールで仕込むと気持ち良いです。

この研究を通して何か学んだこと、自分のためになったことはありますか?

拙いアイデアでも、一度相談してみる事の大切さです。実際に、教授や助教授、先輩と自分よりも遥かに知識がある人たちに研究を始めたばかりの朧気なアイデアを伝えるのは勇気が要りました。ですが、それと同時に、言わずに自分の中で消化してしまうよりも、当たって砕ける(笑)ほうが学ぶ事が多いということも実感する事が出来ました 。

今後の意気込みをどうぞ!

新しく始めたテーマをまずは形にする事です! 何かと前途多難そうですが、出来たら面白そうなテーマなので、頑張ります!

 

インタビューした所感

ついに出ました松井優さんのデビュー論文です。

この仕事はなかなか道中大変でした。前任者の卒業生・大野さんが光反応自体は進行しそうなことを明らかにしていてくれていたのですが、
・原料合成の再現性がなんかとれない
・光反応の再現性がなんかとれない
・生成物の単離がむずい
・ケイ素の回収法どうすればいいかわからん

などなど、骨のある問題が山積みでした。「ちょっと、四年生にいきなりやってもらうにはハードだったかなぁ」なんて後で思ったり。。。

ですが、松井さんは『やると決めたら絶対やる』人なので、気が付けば上記の問題をすべて解決し、本当にやり切ってしまいました。いや、それどころか「このシリカートでなきゃ出せないラジカルを発生させよう!」という無茶ぶりに応えるべく、松井さん自ら文献調査して、メチルラジカルの発生を提案&検討しました。上述の通り、これがビンゴ!本当にメチルラジカル出ちゃいました。結果、論文のレベルもめちゃ上がったと思います。

この論文が、この形で出版されているのは間違いなく松井さんの努力と信念の賜物でしょう。

また、松井さんは研究以外の場面でも、気が付けばみんなを支えてくれる、研究室に欠かせない存在です。いつも頼りまくってごめんね。でもたぶん、これからも、めちゃ頼ってしまうことは、どうか許してほしい。(^_^;)

 

参考文献
(1) V. Corcé, L.-M. Chamoreau, E. Derat, J.-P. Goddard, C. Ollivier, L. Fensterbank, Angew. Chem. Int. Ed201554, 11414.
(2) Emilien Le Saux Dengke Ma Pablo Bonilla Catherine Holden Danilo Lustosa Paolo Melchiorre, Angew. Chem. Int. Ed2021, asap (doi.org/10.1002/ange.202014876)

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(1) シリカートをラジカル前駆体にした光触媒的Minisci反応

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