“硫黄”が可能にするボロン酸と有機リチウム種のクロスカップリング

自分の論文紹介

吉田起大#2 本田雄暉#1

N-Methylphenothiazine S-Oxide Enabled Oxidative C(sp2)–C(sp2) Coupling of Boronic Acids with Organolithiums via Phenothiaziniums

Yoshida, T.; Honda, Y.; Morofuji, T.; Kano, N. Org. Lett202123, 9664-9668. (doi.org/10.1021/acs.orglett.1c03986)
This paper is one of the most read articles of Org. Lett.

硫黄化合物の未知のポテンシャルを引き出そう!

有機ホウ素試薬を用いた炭素-炭素結合形成法の代表格である鈴木宮浦カップリングは、その社会的重要性から2010年ノーベル賞にも輝いた。この反応のカギはパラジウム触媒などの遷移金属触媒を用いることであり、当然パラジウムなしにこの反応は進行しない。しかし、そんなことを言われると、パラジウムがなくてもカップリングできるのかな?という天邪鬼な気持ちが湧いてくる。


図1. 鈴木宮浦カップリング。パラジウム触媒などの稀少金属を用いるのが欠点といえば欠点

今回は以前の研究を発展させ、簡単に有機ボロン酸からフェノチアジニウムを合成する手法を新たに開発し、汎用性の高い遷移金属フリーカップリングを開発しました。特に非対称ビフェニル誘導体を、遷移金属なしにここまで幅広く綺麗に作る手法はなかったと思います。きもてぃいいい!


図2. 今回の研究。硫黄試薬で遷移金属フリーカップリングを実現!

なお、一段階目のボロン酸をスルホニウムに変換する反応はフェノチアジン-S-オキシド(PTZSO)にしか働きません。


図3. 対照実験。フェノチアジンの骨格を持っていないと全然反応しない。不気味だね。

さらに、以前の論文で二段階目のアリールリチウムとの反応でも選択性の制御のために窒素が必須であることが分かっています。つまり、一段階目と二段階目、いずれもフェノチアジンである必然性があります。フェノチアジンの特殊な反応性をフルに引き出せたのではないでしょうか。


図4. 本反応の特異性。窒素原子は一段階目と二段階目いずれも必須。

いやぁ~この唯一性がきもてぃいいい!

これらの特異的な性質は計算化学により説明しているので、興味ある人はぜひ論文を読んでみてね!

 

学生インタビュー


本田雄暉 (左、M1: 2022年1月現在)
吉田起大 (右、M2: 2022年1月現在)

あなたが思うこの研究のポイントは何でしょ?

本田:Nが効いてて、フェノチアジニウムが綺麗につくれるところですかね。
吉田:僕はフェノチアジニウムの合成にも、続くカップリングにもNが必要なところですね。なんかこの化学は学会でもリッターの二番煎じ的な扱いを受けやすいんですが、ちゃんと説明すると全然違うことをわかってもらえます。
本田:最近流行りのチアントレンじゃ、そもそもカップリングできないですもんね。

この研究をする上で苦労した点は何でしょ?

本田:ビニルボロン酸の合成が実は結構大変でした。入手容易とみんないいつつ、なんか難しくないですか?あれ。
吉田:僕はデータ集めることに尽きますね・・・ 自分の分だけでなく、先輩として本田の分のデータも確認していたのでめちゃ大変でした。*SIは197ページ!

個人的に一番うれしかった点は?

吉田:はじめての first author で初稿を自分で書ききった瞬間ですかね。めちゃくちゃ達成感がありました!
本田:ジエンが作れたことですね。sp2-sp2カップリングという以上、ビニルービニルのカップリングは絶対欲しいところでしたが、スタンダードな反応条件ではうまくいきませんでした。ところが、自分なりに考えて反応条件を変えたらうまくいったんですね!
吉田:11時くらいに「できました!」って本田からメール送ってきたよな(笑)
本田:クルードのNMR見てできてそうだったんで、速攻カラムしたんですよね。あの日は忘れられないですね。

この研究を通して学んだことはありますか?

吉田:コツコツやる大事さです。論文出すとか研究室に入ったときは思いもしなかったですけど、最初できなくてもコツコツやり続けていたらできちゃった(笑)。コツコツやり続けて挑戦するのが大事なんだな、と。
本田:僕も吉田さんに近いですが、好奇心を持って挑戦するのが大事なんだなと思いました。最初はただタスクをこなすだけでしたが、基質振り始めたあたりから「これも反応するのかな?」と自分で考えるようになって、楽しさが分かるようになってきました。それからどんどん進捗も進みましたし、好奇心は大事ですね。

今後の抱負をどうぞ!

吉田:今回の論文はfirstでしたが、完全に主導権を握っていたとは言えませんでした。しかし、3報目は完全に握っているので(笑)、絶対卒業するまでに論文出してリベンジします!
本田:今回は吉田さんについていったって感じが強くて、金魚のフン的でしたが、

今度は金魚になりたいな、と思います。

インタビューの所感

人って成長するんだなぁ、って言うと偉そうですが。それでも思わずにはいられません。

吉田は気が付けばfirst authorとして立派に論文を書くし、それに飽き足らず卒業までにもう一報出す予定です。新規テーマから始めて修士で3報って冷静に考えてすごい。もう僕が言うことがなくなってきましたが、次の四月から企業という新しい舞台に移るので、これから更に躍進し続けてくれると確信しています。別の新規テーマを後輩に残しておいてくれたら、なおヨシ!頼んだで!

そして、本田は研究室に入ったときと別人のようになってしまいました。「金魚になる」という本田の言葉がそれを表しています。ありふれた表現なら『主体性』という言葉になるんでしょうけど、その中身はなかなか教えて伝えることができるものではありません。研究室に入ったときには本田が持っていなかったモノだと思いますが、研究を通して見つけることができたんでしょう。それはすごく大切な感覚だと思います。今後はその感覚を後輩に伝えてほしいなぁ、と思います。言葉にしてもなかなか伝わらないことですが、吉田さんにやられたように何度も何度も何度も何度も後輩にアツく語り掛けてほしいですね(笑)。

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