有機電解反応によるC-Hイミダゾール導入:カチオン性中間体を経るようにデザインする
保護基でカチオンを経由する
Direct C–N Coupling of Imidazoles with Aromatic and Benzylic Compounds via Electrooxidative C–H Functionalization
J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 4496-4499.
Morofuji, T.; Shimizu, A.; Yoshida, J.
前回の仕事が終わったころの状況
前回紹介した電解アミノ化(芳香族化合物の電気化学的アミノ化:カチオン性中間体を経る試み)のポイントはカチオン性の中間体をあえて経由することで、過剰酸化を回避するということであった。
図1. カチオン性中間体を経る電解アミノ化
前回も述べたが、この反応自体は既知反応の組み合わせである。修士であった私も、この部分は少しバツが悪いという感じで、なんとか新しい反応に結びつけなくては、と思っていた。
あと学会で「ピリジンの炭素五個もすてちゃうの??」とか言われるのも、なんか嫌だった。
そのたびに「TsOとかTIPS捨ててるやつがうるせぇ~!」みたいな反論を心の中でしていたが、まぁ、そう言いたくなる気持ちは正直わかる。
次の仕事ではそれらの注文にできるだけ応えたいなぁ、なんて思っていた。
電解C-Hイミダゾール導入
で、めでたくピリジニウムを経由したアミノ化が論文になったし、次の仕事をデザインするにあたって以下の三点を意識した。
① 原理というかコンセプトは素敵な気がするので、活かしたい。
② 新しい分子変換を開発したい。
③ ある程度大きなフラグメントを芳香環に導入したい。
こうなると、電解酸化で発生したラジカルカチオンに対し、ピリジン以外の窒素系ヘテロ環をさして、カチオン性中間体を経て、そのあとちょいといじって、ヘテロ環由来の骨格が残ればいい!という方針が立った。
図2. 次のテーマへのアイデア
そう思って窒素系のヘテロ環の表を眺めていると、イミダゾールが目に留まった。しかし、こいつはピリジンと違って脱離するプロトンがあるので、カチオン性にならない。だから過剰酸化するのでダメだろうな。。。
図3. イミダゾールを求核剤とした反応。だめそう。
そういう思いで、イミダゾールは没にしようとしたが、うまい手を思いついた。
「イミダゾール上のHを保護基に変えておけば、生成物がカチオン性になって、そのあと外せばよくね?」
実際、イミダゾールに保護基としてMs基をもったものと、芳香族化合物を共存下、電解酸化するとカチオン性中間体が観測され、その後脱保護することで目的生成物が得られた。ちなみに普通のイミダゾールを用いると、まったく目的生成物は得られない。
図4. カチオン性中間体を経る電解イミダゾール導入
その後は思ったより基質適用範囲が狭かったり、本筋でないベンジル位へのイミダゾール導入が進行したり、苦労があったけれども、合成的なアプリケーションも頑張った。特に一電子酸化の性質をうまく使って、二つのベンジル位を見分けて抗真菌剤を作れたのは、ちょっと自慢。
図5. 電解イミダゾール導入のアプリケーション
After Thought
化学と工業のコメントで、「面白い結果は誰でも面白い論文にできる。大事なのは微妙な結果な時で、微妙な結果から面白い化学的進歩を切り取れるか、これがプロの化学者としての腕の見せ所である」といった内容のことを書いている先生がいらした。
もっとも、その先生は面白い成果を連発する先生なので、あまり真に受けても仕方ないが、この仕事しているときの気分はまさにそれであった。
反応を開発する上で、思ったようにいかない事も多かったが、「どうすればこの反応が素晴らしく見えるだろう?」と、ずっと考えていた。できない事も多い反応であるが、それでも反応のいい点を切り取るためには、反応の性質を他の手法と比べて、よく見つめなおす必要があった。考えに考えた結果、幸運にも本反応の性質を利用することで、他の手法では簡単でなさそうな合成的アプリケーションに結びつけることができた。
考えることって大事だなぁ~、って本当に痛感した。学生のころの仕事の中で、この仕事が一番勉強になったと思う。
そういった観点ではかなり満足している仕事だ。
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