女子高生と学ぶHSAB則(硬い/柔らかい酸塩基):ハードやソフトな反応性とは?

女子高生と学ぶ有機化学

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HSAB理論を浅~~く捉えよう

勇樹 博士課程二年で専門は有機化学。金がなくて家庭教師を始めた。話は脱線しがち

理香
そこそこの進学校に通う女子高校生二年。受験も遠く意識低め。勇樹の授業はできるだけさぼろうと話をそらす。

反応する場所が変わる!?

有機反応のほとんどはプラスの成分(酸)とマイナスの成分(塩基)の反応である。いろいろな反応を見ていると、単純に酸や塩基の強い弱いだけでは説明することが難しい場面が出てくる。

どうやら、酸や塩基には相性のようなものが存在し、反応しやすい組み合わせがあるようだ。それを説明するときによく使われるのが酸と塩基のハードとソフトという概念だ。

その説明によく用いられる例が、有機金属試薬と不飽和カルボニルの反応だ。

勇樹

シクロへキセノンとブチルリチウムの反応を考えよう。どこと反応するだろう?

有機リチウムは炭素マイナスだから、、、カルボニルと反応するんじゃないですか??

勇樹

その通り!!
しかしだ!ブチルリチウムをブチル銅に変えて、反応させると、なんと全く異なる位置で反応する。

!!!??

イミフ!!何で!?

勇樹 これを説明するのがHSAB(Hard, Soft, Acid Base)則だ!!

 

HSAB則:何が硬くて、何が軟らかい?

格好よく言ったものの、実はHSAB則は明確な理論に基づいた法則というより、うまく反応を説明するための経験則と考えた方がよい。当然、例外は出てくるし、そもそも後付けともいえる。

しかし、便利であることは間違いなのでぜひおさえよう。

まず何が硬くて、何が軟らかいのかは大雑把にとらえると以下のようになる。

・周期表の上の方の小さい元素は硬い。
・周期表の下の方の大きい元素は軟らかい。

例えば、アルコキシドとチオラートを比較すると、周期表の上のアルコキシドは硬い塩基、周期表の下のチオラートは軟らかい塩基として働く。同様に考えると、アンモニアやフッ化物イオンは硬い塩基で、ホスフィンやヨウ化物イオンは軟らかい塩基ととらえることができる。また酸についても同様で、周期表の上の方のプロトンやホウ素は硬い酸で、下のほうの遷移金族は柔らかい酸に分類される。


図1. 硬い酸塩基と軟らかい酸塩基

ただ、厳密な定義は難しく、割と経験的に議論していることも多い。

 

HSAB則で予見できる反応性

反応性の大原則は1つ。

・硬い酸と硬い塩基が反応しやすく、軟らかい酸と軟らかい塩基が反応しやすい。

この原則で様々な反応性を説明される。

なんで、軟らかいのと、硬いので反応性が違うんですか??

勇樹

それに厳密に答えるのはなかなか難しい。ただいろいろな研究によって
・硬い酸と硬い塩基は静電相互作用支配で反応する。
・軟らかい酸と軟らかい塩基は軌道相互作用支配で反応する。

ということがわかっている。

???静電相互作用?・・・??軌道相互作用??

勇樹

ここはかなり鬼門。ふわっととらえよう。
静電相互作用:正電荷と負電荷に働く力。サイズの小さい原子で重要になる。
軌道相互作用:HOMOとLUMOの相互作用する力。サイズの大きい原子で重要になる。
ちょっと難しいので、ここでは「原子のサイズによって、反応で重要になる要素がかわるんだ」という風に覚えておこう。

HSAB則で理解できる反応の例を挙げていこう。

塩基性と求核性

アルコールとチオールの酸性度を比べるとチオールのほうが酸性度が高い。これは一見、共役塩基であるアルコキシドよりチオラートが安定であることを意味しそうだ。


図2. アルコールとチオールの酸性度

一方で、アルコキシドとチオラートのアルキルハライドへの反応性を比較すると、チオラートの反応性の方が圧倒的に高い。


図3. アルコキシドとチオラートの求核性の違い

この一見矛盾にみえる反応性は、HSAB理論で理解することができる。つまりサイズの小さな酸素は硬く、同じく小さく硬い水素と親和性が高く強固な結合を作るため、酸性度が低い。一方でサイズの大きな硫黄は軟らかく、炭素ーヨウ素結合の軌道相互作用しやすくSN2反応しやすい。

不飽和カルボニルへの1,2付加と1,4付加の選択性

不飽和カルボニルと有機金属試薬の反応は、金属の違いによって反応位置が異なることを最初に述べた。これもHSAB則で説明される。シクロへキセノンに対して有機リチウム試薬を反応させると、有機リチウムは硬い求核剤なので、一番正電荷ののったカルボニルの根本へ1,2付加する。一方で、有機銅試薬を反応させると、銅はサイズが大きく軟らかいので、軌道相互作用支配となり、LUMOの寄与の大きい不飽和カルボニルの4位に付加する。


図4. 有機金属試薬による不飽和カルボニルへの反応性の違い

リンが良い配位子になる

遷移金属触媒の配位子といえば、トリフェニルホスフィンなどのリン化合物が代表的だ。遷移金属は周期表の下の方にあるので、柔らかい酸となる。それゆえ軟らかいリン化合物は遷移金属触媒と親和性が高く、よい配位子になるのだ。


図5. リン化合物は遷移金属の良い配位子になる

 

便利なHSAB則

へぇ~!有機物が硬いとか軟らかいとか最初は意味わからなかったですけど、いろんなことが硬い・軟らかいで説明できるんですね。

勇樹

逆に硬い・軟らかいを把握していないと、有機反応の多くを暗記に頼らざる得なくなって非常に大変だ。何が硬くて、何が軟らかいかをだいたい把握しておくことは、有機反応を学んでいくうえで非常に重要だ。

そういえば・・・大学で習う有機化学もいいんですが・・・そろそろ今度の試験対策したいんですけど。。。

勇樹

そうか!そういえば、そろそろ院試の季節だもんな!今まで教えたことはもちろん、カバーしてないことも身につけるために、そろそろ問題演習に移ろう!

・・・はぁ?

次回へ続く

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