吉田起大論文#1
Arylation of aryllithiums with S-arylphenothiazinium ions for biaryl synthesis
Chem. Commun. 2020, 56, 13995-13998. (https://doi.org/10.1039/D0CC05830K)
Tatsuya Morofuji,* Tatsuki Yoshida, Ryosuke Tsutsumi, Masahiro Yamanaka, Naokazu Kano*
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反応の概要
ビアリールを合成する最も確実な方法はPd触媒などの遷移金属触媒を使ったクロスカップリング反応だ。クロスカップリング反応は数多ある有機反応の中でもピカイチの有用性を誇り、2010年ノーベル賞の対象にもなった。「ビアリールを合成するには遷移金属触媒」というのは今や常識となっている。
図1. 遷移金属触媒によるクロスカップリング
これはアリール金属とアリールハライドを反応させようとしても、SN1反応・SN2反応いずれも進行せず、遷移金属触媒なしには反応しないためである。そんな背景の中、僕らは、アリールリチウムに対する新規求電子的アリール化試薬を開発し、汎用性の高い遷移金属フリービアリール合成法を実現したいと考えた。
そして今回、僕らは、このシンプルでありながら難しいパズルが『S-アリールフェノチアジニウム』を使うと解けることを明らかにした。アリールリチウムのTHF溶液にS-アリールフェノチアジニウム塩の粉を加えるだけ、それで非対称ビアリールが得られる。まるで、アリールリチウムをヨウ化メチルでメチル化するような実験操作だ。
図2. S-アリールフェノチアジニウムを用いたアリールリチウムのアリール化, BrやIを残せるぞ!!
フェノチアジンの骨格は大事なのか気になる人も多いだろう。結論を言うと、めちゃ大事。他の類似のスルホニウムを用いるとことごとく失敗する。
図3. S-アリールフェノチアジニウムの特異性
「なぜフェノチアジンだけ特異的なのか??」その原因も立教大学の山中先生と堤先生と共同研究することで、計算化学により明らかにすることができた。Open Access なのでぜひ原著論文を読んでほしいところ。
My dream reaction
これは僕の”夢の反応”というと大げさになるだろうか。M1の頃、電気によるビアリール合成法を開発していたんだけど、その手法は汎用性が低すぎて、金属触媒のクロスカップリングにかなわないなぁ、なんてずっと悔しく思っていた。もはや金属触媒コンプレックスといってもいい。あいつらすごすぎるんよなぁ。
そんなコンプレックスをこじらせて、僕は「いかにも金属触媒使ってそうな反応を、金属触媒でない全く別の化学から再現しちゃる」という歪んだ願いを持っていた。そして今回、念願の”アリールリチウムに対する求電子的アリール化試薬”を開発することができた。
パズルが綺麗に解けた満足感!(^O^)/
また、実際に研究した吉田君のアイデアもあり、ヨウ素や臭素を持ったビアリール化合物を合成することができた。遷移金属触媒を使わない“から”できた反応といえると思う。
インタビュー
この研究に取り組んだ吉田君にインタビューをしました!
吉田 起大(よしだ たつき)
M1 (2020年10月現在)
あなたが思うこの研究のポイントは??
古くからある硫黄の化学をうまく工夫して、遷移金属触媒を用いずにビアリール化合物を合成できる点です。
四年生から初めて研究をするにあたって苦労したことは
研究しはじめは、全く勝手がわかりませんでした。何を作っているのか、何が面白いのか、何に使うのか、全てわからないまま、作業のように実験していました。
最近は変わってきていて、研究の意義やゴールを見通せるようになって、楽しく研究できています。”やらされててること”から”やりたいこと”に変わった感じです。
一番うれしかったことは何でしょ?
ヨウ素や臭素の置換したビアリール化合物を合成することができたことです。この反応の長所を示すデータがなかなか得られなかったのですが、最後の最後で、うまくヨウ素や臭素の置換したビアリール化合物を合成することができ、そのNMRを見たときはうれしすぎて叫びました。
シンプルながら難しいことをやり遂げたんだな、と少し誇らしい感じです。
この研究を通して学んだことはありますか??
ものを完成させる難しさを学びました。ある程度頑張れば、一定のペースを保ったまま研究が進むと思っていたのですが、研究が終盤になるほど、データ集めなど細かいことが要求され、自分の頑張りに対し進捗があまり得られないという経験をしました。何か完成させるには予想以上の時間と労力が必要であることを実感しました。
今後の抱負を一言どうぞ!
もう一報、論文出します!!
インタビューした所感
吉田君のデビュー論文になります。
原料合成がなかなか大変なうえ、検討量も必要な研究で、同じテーマの先輩もいません。はじめての研究テーマとしてはなかなか大変だったと思いますが、1年ちょっとでやり切ったのは、吉田君の卓越したアクティビティと根性の賜物です。
そんな吉田君の根性に甘えて、自分が四年生の時はどうだったかを完全に棚上げし、僕は彼にかなり高い水準を要求してきました。僕が言ったことをちゃんと活かしてくれるんだもん。つい「もっともっと」と要求がエスカレートしちゃうんですよね(^_^;)あ、でも、卒論発表前日の練習会で「なめた質疑応答すんなや」みたいにキレたことはごめんね。さすがに言いすぎちゃった☆1
去年はB4で一番後輩だった彼も、今はM1で我々の研究室の学生では最年長。後輩を導きつつ、まだまだ論文出すようだ。
次の論文も、乞うご期待!
1) その夜、彼は発表の質疑応答をすごい勢いで練り直し、卒論発表本番では完璧な質疑応答を見せ、優秀発表賞に輝いた。めちゃくちゃいい発表でした。いやぁ~そんな風に糧にするから、つい言っちゃうんだよね笑
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