アートオブプロセスケミストリーという化学本がございまして

   

有機合成の極北

というと、超複雑な天然化合物の全合成をイメージする人が多いと思います。
大学でなされている全合成のほとんどは、卓越した合成力や合成戦略の斬新さ、または活性の評価に重きが置かれていることが多い印象です。

では、工業的供給を目的にした合成はどんなものになるでしょう?

ちまちました条件検討?既存知見の組み合わせ?新しい化学がない?

私はそう思っていました、、、

「アートオブプロセスケミストリー」を読むまでは!

この本は原書名 the art of process chemistry の和訳でありまして、メルクの創薬におけるプロセス化学の伝説的成果がまとめられたものです。
著者は安田修祥 さんでなんと北海道出身の方らしい!
なるほど日本語版がでるわけです。本当にありがたい。

製薬現場では良い効果を持つ化合物が見つかったとしても、それを大量に(少なくてトンスケール)かつ極力安価で供給する必要があります。

そのため、合成に求められる完成度がアカデミックの比ではありません。。。

・原料供給量確保
普通にtciとかで買える試薬もトンスケールになると話は別!トンスケールで手に入る原料のみで合成しなければねらない。

・原料コスト
確保できる原料から全ての工程を含めて原料の価格を極力抑えねばならない。

・製造効率及びコスト
収率や製造コストは利益に直結。この本では複雑化合物が、保護基もあまり使わず90%以上の収率を連発しながら合成されていくぞ~
気持ち~~

・精製効率及びコスト
精製とかカラムしたらええやん、ってわけにはいかないのがプロセス化学。トンスケールのカラムとかあんまり考えたくないよね。(あるにはあるらしいが)
ほとんど蒸留と固体を落とす方法で回収されていきます。

なんか有機合成が簡単に見えてきた、、、(^_^;)

などなどアカデミアの研究では考えた事もないような項目を、どの段階においても全て高いレベルで満たさなければなりません。

圧倒的に完成された有機合成がここにはあります。

でも、ここで終わらないのがメルク社の伝説。

とある化合物を合成している時にこんな事を言い出します。

「ここに不斉付加させたいな~!でもそんな反応がないよ~~、、、
じゃあ!反応開発しよ!」

えぇ~~、、、まじ?
そっからプロセス開発するの?(^_^;)

しかも彼らはNMRなどを用いて反応機構を深く考察。見事実用に耐える新規不斉反応の開発に成功した。

うげ~~すごすぎ~~
( `ω´)でも、きれいな合成だけどさ~うまくいかなかったら大失敗じゃん!!

あ、その時はこっちのバックアップルートで合成するから大丈夫

(°_°)、、、こっちの合成ルートも完成度高すぎなんですけど、、、?

こんな話ばっかり。
参りました。凄すぎです。

成功した結果だけでなく、紆余曲折やバックアップなどが満載で単純に読んでいて面白い本です。ちょっと読むのに体力がいるけど。

この本に書いてある成果が薬として多くの人の命を救っている事を考えると、この本は合成化学の輝かしい勝利の宝石箱と言えるでしょう。

あなたの有機化学観を変えうる一冊、おすすめです!!

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