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シリル保護基 / Silyl protecting groups

2021/11/18
 
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シリル保護基 / Silyl protecting groups

四回生で有機系の研究室に配属されると、多くの人は全合成の論文を渡されて勉強する事になる

そこでまず面を食らうのが略称の嵐。
で、序盤に調べることになるのがシリル保護基だ。

代表的なものを挙げてみよう。

分子サイズが小さい順に並べてみた。
TMS: trimethylsilyl
TES: triethysilyl
TBS(TBDMS): tert-butyldimethylsilyl
TIPS: triisopropylsilyl
TBDPS: tert-butyldiphenylsilyl


図1. シリル保護基。大きさによって外れやすさが異なる。

 

なにがちがうの?どう使い分けてるの?と、誰もが一度は思っただろう。

これらは分子の大きさが異なることで外れやすさが異なる。小さいほどはずれやすく、大きいほどはずれにくい。

イメージとしてはTMSは気をつけないと(意図せずに)外れてしまう。TBDPSはちょっとやそっとじゃ全然外れない。

また勝手に外れなくて、はずしたい時はずせて丁度いいのであろう、TBSはかなりよく見る保護基だ。

こんな感じで各合成化学者がうまく使い分けている。

 

他に知っておくべき点

1. 求核触媒機構

シリル保護する時、触媒としてよくDMAPを用いるが、DMAPによる求核触媒機構をシリル保護で学んだ人は多いはず。
DMAPが求核攻撃してできるカチオン性中間体にアルコールが求核攻撃するというもの。

図2. DMAPによる求核触媒機構

このような求核触媒機構はシリル保護に限らず、エステル化など様々な場面で見るので非常に重要だ。

 

2. 酸や塩基によるケイ素上置換基の置換メカニズム

酸性と塩基性で微妙にメカニズムが異なるが、ケイ素の置換反応は常に五配位中間体を考えよう。この反応性が炭素との大きな違い。


図3. ケイ素の置換反応:五配位中間体を経由する。

炭素の時にあったような三配位のシリルカチオンは相当がんばらないと発生しない。よく見る間違いなので気を付けよう。

3. フッ素による脱保護

フッ素アニオンを塩基としてシリル保護基を脱保護している例がよく見られる。

これはフッ素とケイ素の特異的に強い親和性を利用しているものだ
フッ素の塩基性自体はそんなに高くないので他の官能基を壊すことなく選択的にシリル保護基を脱保護てきる。


図4. フッ素によるシリル保護基の脱保護。選択的に行える。

 

有機ケイ素化合物はさほど反応性が高くないことが多く、シリルエーテルは保護基として用いられる。
保護基の基本である「つけやすく外しやすい」という性質を持っている。
しかも、はずしやすさの反応性は置換基によって調整が可能だ。

まさに保護基の中の保護基だ!

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