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ひずみのない炭素-炭素結合の触媒的切断:ビアリールをロジウム触媒でぶった切る話

2020/01/19
 
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ビアリールをロジウム触媒で切断する!?

Catalytic activation of unstrained C(aryl)–C(aryl) bonds in 2,2′-biphenols

Nat. Chem. 2019, 11, 45.
Jun Zhu, Jianchun Wang and Guangbin Dong *

もっとも切れにくそうな炭素-炭素結合

炭素-炭素結合は一般的に非常に頑丈な結合で、普通特殊な場合でしか切れない。

ひずみがかかった結合であったり、炭素-シアノ結合や炭素-カルボニルなどのような分極した結合の切断がほとんどだ。


図1. 比較的切りやすい炭素-炭素結合

ひずみを活かした変わり種として、最近シクロパラフェニレンの炭素-炭素結合への白金の挿入が山子先生らにより報告された。(参考文献1)


図2. シクロパラフェニレンへのPt挿入(図は参考文献1より引用)

一方で、ひずみがかかってなく、分極していない炭素炭素結合はなかなか切れない。

数少ない例として、Milstein先生らが以前、以下のようなCsp2-Csp3結合の切断を報告している(参考文献2)。


図3. Milsteinの炭素炭素結合切断

有機金属化学随一のびっくり反応で、この報告から四半世紀経つが、このレベルで切れなそうな炭素-炭素結合の切断反応は報告されていなかった。

それがごく最近、最強の炭素-炭素結合といっても過言でない「ひずみのないビアリール化合物の炭素-炭素結合」を切断する反応が最近報告された。

 

反応概要

リン系の配向基を持つビフェノールに対し、水素雰囲気化ロジウム触媒と反応させると、Csp2-Csp2結合が切断され、フェノール類が得られた。


図4. ロジウム触媒によるビアリール炭素炭素結合の切断

ぎょえぇーー!!まじ!??(゜o゜)

最強の結合をあっさり切断。なかなか信じられないレベルの驚愕反応。

こんなのできるんだ・・・!!

 

驚異の価値提案

反応だけでもかなり面白くていいんだけど、それで終わらないのがDong先生。

並の化学者なら反応だけで終わるところを、しっかり価値提案まで持っていく。

配向基、水酸基、メチル基を持つ基質に対し、C-H官能基化でメチル基の隣に置換基を導入しようとしても、より立体的にすいている方()で反応が進行してしまう。

そこで基質をタイマー化し、先ほどの反応点()を立体的にブロックし、目的の位置()でC-H官能基化した。そしてその後、今回開発した炭素-炭素結合切断反応を行うことで2,3,4-置換フェノールを合成した。


図5. 炭素炭素結合切断の応用:2,3,4-置換フェノールを作る。

おお~?そんな応用があるのか!??(^_^;)

このアピールの仕方はすごいね・・・!!

他にもリグニンの部分構造を持ったモデル基質に適用し、リグニン分解への応用も提案している。

ん~アイデアの秀逸さだけでなく、有機化学筋力を感じる剛腕さ。見習わないとね(^O^)。

 

所感

Dong先生、半端ないって!

炭素-炭素結合めっちゃ切るもん。そんなんできひんやん、普通。

言っといてや、ビアリールも切れるんやったら。

またまたまたまたNature chemやし。

<<監督>>

あれは凄かった

俺は講演を直接聞いたぞ。

Dong先生の論文をこれからもチェックしよう、な!

 

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参考文献
(1) Eiichi Kayahara,  Toshiki Hayashi, Katsuhiko Takeuchi, Fumiyuki Ozawa, Keita Ashida, Sensuke Ogoshi, and Shigeru Yamago,  ACIE, 2018, 57, 11418.
(2) (a) Gozin, M., Weisman, A., Ben-David, Y. & Milstein, D. Nature 364, 699–701 (1993). (b) Gozin, M. et al. Nature 370, 42–44 (1994).

 

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Comment

  1. 匿名 より:

    最近のC(Ar)-C(Ar)の切断なら、京都大の山子先生も報告されていました。 (ACIE,2018,57,11418.)
    発展先が合成反応にしろ物性・材料にしろ、続報をかなり楽しみにしています。

    • moroP より:

      御情報ありがとうございます!!記事をアップデートしてみました。

      続報楽しみですねぇ~

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