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熊田・玉尾・コリューカップリング / Kumada-Tamao-Corriu coupling

2019/10/18
 
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熊田・玉尾・コリューカップリング / Kumada-Tamao-Corriu coupling


カップリング反応

ざっくり言うと金属触媒を用いた、二つのフラグメントをくっつける方法。

数多くあるカップリング反応の元祖を決めることは難しいが、必ずその候補に挙がるのが熊田・玉尾・コリューカップリングだ。

カップリング黎明期の反応とあなどるなかれ、現在でもかなり広く使われている反応だ。


反応概要

グリニャール試薬と有機ハロゲン化物がニッケル触媒(またはパラジウム触媒)存在下くっつくよ、というもの。


図1. 熊田・玉尾・コリューカップリングの典型例


反応機構

1. 有機ハロゲン化合物のニッケル触媒に対する酸化的付加、有機ニッケル種(II)が生成。
2. グリニャール試薬とのトランスメタル化。
3. 還元的脱離、カップリング生成物の生成とニッケル触媒(0)の再生。


図2. 反応機構


この反応の利点

グリニャール試薬と有機ハロゲン化物をくっつけるだけなら触媒とか使わなくてもできそう、と思うかもしれない。
確かに、フェニルグリニャールとヨウ化メチルは反応してトルエンを与える

図3. SN2反応:フェニルグリニャールとヨウ化メチルの反応

これはSN2反応と呼ばれる求核置換反応で、フェニルグリニャールがヨウ素の裏から攻撃することで反応が起きる。

当然この反応に触媒は不要。


ならば熊田玉尾コリューカップリングのどこがすごいんだろう?

1. アリールハライドやアルケニルハライドを反応させる事ができる。

アリールハライドとグリニャール試薬でSN2反応するか?
結論はしない。
理由はSN2反応の機構からあきらかで、アリールハライドのハロゲンの裏はちょうど芳香環があるので反応する余地がないアルケニルハライドも同様。

この問題は深刻で、カップリング反応がない時代は二つの芳香環を繋げてビアリール化合物を得るのにかなり苦労していた。

その問題を打破できるのが熊田・玉尾・コリューカップリングで、図2のようにSN2反応とはまったく異なるメカニズムで簡単にビアリール化合物が合成できる。

熊田・玉尾・コリューカップリング反応によって、合成できる化合物の幅が飛躍的に広がった。

2. 古典反応との違いは触媒の有無だけ

SN2反応より合成できる化合物が増えても面倒さが増したり、副生成物が増えたらちょっと残念だ。

心配ご無用。
ここがカップリング反応の神がかってるところで、SN2反応との反応条件の大きな違いは触媒の有無だけだ。
グリニャール試薬、有機ハロゲン化合物、触媒、溶媒を混ぜてあっためるだけ。

つまりSN2反応から特に新しいゴミはでないし、実験の手間もひと匙入れる試薬が増えるだけ。
このわずかな手間で今まで作れなかったものが作れる。
触媒の力、おそるべし。

 

こんなもんかなー

触媒の力で有機合成の可能性を広げてきたカップリング反応。

今となっては鈴木-宮浦カップリング根岸カップリングなど様々なカップリング反応が知られている。
カップリング反応黎明期に開発された熊田・玉尾・コリューカップリングだが、試薬の調製容易性から現在でもしばしば用いられている。

ボロン酸が売ってなくて、特に壊れやすい官能基がなければ熊田玉尾コリューカップリングの出番だ。

大した加熱も必要なく、簡単に反応が進行する。

こうした反応を日本人が見つけたのですからすごいですよね~(^_^

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