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JACS誌:光でトリフロオロメチル基をアルキル化する

 
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Catalytic Defluoroalkylation of Trifluoromethylaromatics with
Unactivated Alkenes

J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 163.
Hengbin Wang and Nathan T. Jui

トリフルオロメチル基をたたき切る

メチレン( -CH2- )をジフルオロメチル( -CF2- )に変えることは、創薬において分子の性質をチューニングする重要な戦略として知られている。


図1. メチレンとジフルオロメチレン:活性とか物性がかわるかも?

もしトリフルオロメチル基のフッ素を一つ飛ばして、炭素をはやすことができたら効率の良い合成ルートになりそうだ。しかしフッ素が取れるにしたがってC-F結合の強さが弱くなるので、トリフルオロメチル基のフッ素を一つだけ変換することは難しく思える。

一方でトリフルオロメチルアレーンを電解還元し、フッ素が一つ脱離して発生したアニオンをケトンでトラップするという反応が報告されている。(参考文献1)


図2. 電解を用いたトリフルオロメチル基の変換

フッ素が取れると電子求引性が下がって還元電位が下がって、一電子還元活性が低下しているためモノ脱フッ素化で制御できると思われる。

今回はこの原理を可視光レドックス触媒の反応に応用した!!

 

今回の反応:トリフルオロメチルアレーンの脱フルオロアルキル化

トリフルオロメチルアレーンとオレフィンを、N-フェニルフェノチアジン触媒(PTH)と水素移動触媒(CySH)さらに還元剤のギ酸ナトリウム存在下、光を照射すると脱フッ素アルキル化が進行するというもの。


図3. 可視光レドックス触媒によるトリフルオロメチル基の変換

ジフルオロメチレン基がリンカーとなった化合物の効率の良い合成法になるだろう。

反応機構

反応機構は以下のような機構が提唱されている。

1. トリフルオロメチルアレーンが励起されたPTHにより一電子還元される。
2. 発生したラジカルアニオンはフッ素アニオンの脱離によりジフルオロベンジルラジカルが発生する。
3. ジフルオロベンジルラジカルは電子不足ラジカルなので電子豊富なオレフィンと反応し、アルキルラジカルが生成する。
4. アルキルラジカルはチオールCySHから水素を引き抜き目的生成物が得られる。
5. チイルラジカルはギ酸ナトリウムの水素を引き抜きCySHが再生する。


図4. 提唱されている反応機構

おお~本当かどうかはともかくかなりきれいに回る反応だね。(゜o゜)

 

なんや!?この触媒は!?

この論文で目を引くのはPHTが可視光レドックス触媒として用いられているところ。
こんな化合物が可視光吸って、レドックス触媒なるんだね。(゜o゜)!!
といってもPHTが還元力の強い可視光レドックス触媒であることは過去に報告されているようだが(参考文献2)。ハロゲン化合物の脱ハロゲン化に用いられている。

励起状態の還元電位が -2.10 Vとかなり強力。Ir錯体に匹敵。

今回の新規性としてはPHTを用いて炭素炭素結合形成反応に応用したところも評価されたんだろうね。今回の論文で相当注目を集めただろうし、今後PHTを触媒に用いた反応が増えてくるかもね・・・!でもIr錯体とどの程度差別化できるかはすごく気になっている。

あと光触媒でトリフルオロメチルアレーンのフッ素を一つとばして変換する別の反応が同時期に報告されてるのでそちらもぜひ見てみよう。(参考文献2)(^O^)

 

参考文献
(1) Saboureau, C.; Troupel, M.; Sibille, S.; Périchon, J., J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1989, 1138.
(2) Emre H. Discekici, Nicolas J. Treat, Saemi O. Poelma, Kaila M. Mattson, Zachary M. Hudson, Yingdong Luo, Craig J. Hawker and Javier Read de Alaniz, Chem. Commun. 2015, 51, 11705.
(3) Kang Chen, Nele Berg, Ruth Gschwind , and Burkhard König, J. Am. Chem. Soc., 2017, 139, 18444.

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