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ACIE誌: メタセシスを越えるか!?大環状化合物を形成するC-H/C-Hクロスカップリング

2017/12/27
 
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Macrolide Synthesis trough Intramolecular Oxidative Cross-Coupling of Alkenes

Angew. Chem. Int. Ed. 2017, ASAP.
Bing Jiang, Meng Zhao, Shu-Sen Li, Yun-He Xu, and Teck-Peng Loh

 

マクロライドを合成する

マクロライドのような大環状化合物を合成するならば、メタセシス反応がパッと思いつく。

2つのオレフィンを持つ化合物に高希釈条件でグラブス触媒などの金属カルベノイド触媒を作用させると大環状化合物が得られる。
反応式に注目すると、メタセシス反応はオレフィンの組み替え反応なので、エチレンが放出される。
よって閉環メタセシスは二炭素減炭反応という事になる。


図1. メタセシス反応による大環状化合物合成。二炭素減る。

もしここで炭素を失わず、水素が脱離するようにくっついたら炭素が減らないし、生成物はジエンとなって合成的価値が高そうだ。
言うなれば「大員環形成分子内C-H/C-Hクロスカップリング」、でもそんな事できるのか?


図2. 大員環形成分子内C-H/C-Hクロスカップリング。炭素は減らないし、生成物はジエン。

 

2つのオレフィンをくっつける酸化的カップリング

今回紹介する論文の著者であるLoh先生は2009年に2つのオレフィンのC-H/C-Hクロスカップリングを報告している(参考文献1)。以来、オレフィンの酸化的カップリングを様々な基質へ拡張しており、長く研究している。
今回元になっているのは2012年に報告されたアクリルアミドとアクリレートのロジウム触媒によるカップリング反応。(参考文献2)


図3.オレフィンの酸化的クロスカップリング。二つのオレフィンがくっつくええ反応やね。(参考文献2より引用)

入手容易な原料が一発でくっつく良い反応!生成物がジエンってのも素敵!!

その反応開発の知見を活かし、今回は2つのオレフィンを持つ基質の分子内C-H/C-Hクロスカップリングによる大環状化合物合成法を報告している。


図4. 今回の反応。ロジウム触媒による大員環形成分子内C-H/C-Hクロスカップリング。

ジエンを含む大環状化合物の極めて効率的なアプローチだ!!

 

大環状化合物合成へ展開できたという事

大環状化合物合成は”極めて高い効率で”反応が進まなければならない。
・分子間反応を抑えるために高希釈条件で反応させねばならない。
・分子内反応なので2つの反応部位は必ず一対一で、どちらかを過剰に用いる事ができない。
といった制約があるからだ。

なので大環状化合物の合成法はメタセシス、マクロラクトン化、アルドール、など非常に信頼性の高い反応である必要がある。

今回の反応はC-H/C-Hクロスカップリングがそういった反応の仲間入りをする程信頼性が高くなってきた事を示している。

反応が新しいわけではないけど、反応の持つ意味は非常に大きい。

ん~有機化学は日進月歩ね!\(^o^)

私も学生時代、C-H/C-Hクロスカップリングの開発に取り組んでいたんですが、ここまで展開できるような汎用性を持たせられなかったんですよね~
汎用性が低すぎて、一報だしてすぐにそのテーマやめたし(^_^;)
その点Loh先生の化学は色々展開できててすごいなぁ。(´ー`)

さらに汎用性が広がればメタセシスをある部分では凌駕するかもしれない。
いや、さすがにきついかな?(^_^;)

兎にも角にもチャレンジなC-H/C-Hクロスカップリング反応。
大環状化合物合成に限らず、更に汎用性と実用性が広がっていけばいいなぁ

参考文献
(1)  Y.-H. Xu, J. Lu, T.-P. Loh, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 1372.
(2)  J. Zhang, T.-P. Loh, Chem. Commun. 2012, 48,11232.

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