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David W. C. MacMillan, 第四回:2011~2013:MacMillan触媒から脱却した化学へ

2018/01/29
 
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David W. C. MacMillan, 第四回:2011~2013:MacMillan触媒から脱却した化学へ

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新しい化学へ舵を切る

MacMillan触媒を用いた反応開発初期はアルデヒドと触媒からイミニウムを発生させ、求核剤と反応させることがメインであった。
そこから触媒とアルデヒドから発生するエナミンに一電子酸化剤を作用させるSOMO activationを提案し、化学の幅が一気に広がった。
さらに可視光レドックス触媒をMacMillan触媒に絡めて、有機合成化学に革命を起こした。

もちろんMacMillan触媒を用いた反応開発は続いていくが、2010年以降そこから離れた反応が増えてくる。
この頃から長年続けてきたMacMillan触媒から離れようとしているように見える。
でも基本はやっぱり変わらない。
MacMillan先生は突然全く新しいことはしない。いつも一つだけ新しいことを取り入れる。

今回は2011年から2013年に報告されたMacMillan触媒を用いない反応を中心に紹介したい。

 

超原子価ヨウ素と銅触媒の化学

2010年にMacMillan触媒を用いたアルデヒドのα位の不斉トリフルオロメチル化が報告した。(参考文献1)
MacMillan触媒から発生するエナミンに対し、強力な求電子剤である超原子価ヨウ素(Togni試薬)と銅触媒を作用させることで実現している。この年代辺りは超原子価ヨウ素がかなり注目されていて、それをMacMillan触媒に絡めてみたのだろう。

この反応をジアリールヨードニウムに展開し不斉アリール化も達成している。(参考文献2)

図1. McaMillan触媒と銅触媒による超原子価ヨウ素でのアリール化。(参考文献2より引用)

ここまではいつも通りの展開の仕方で極めて自然だ。

で、次の展開がいつもと異なる。
続いて報告したのがエノラートとジアリールヨードニウムをキラル銅触媒で反応させるカルボニル化合物の不斉アリール化。(参考文献3)


図2. エノラートの銅触媒による不斉アリール化(参考文献3より引用)

おおー、ついにMacMillan触媒を用いない反応へと発展しましたね!
当然ほかの化学者と被りやすくなっている。
実際、銅触媒と超原子価ヨウ素のコンビネーションが得意なGaunt先生とほぼ同時期にほぼ同じ反応を報告している。(この辺はケムステさんの記事が面白い)

さらに銅触媒と超原子価ヨウ素のコンビネーションを後に全合成で猛威を振るうインドールの不斉アミノアリール化へ展開。(参考文献4)

確実に一つの研究軸に仕上げている。

この一連の流れを見ても、いかにMacMillan触媒から脱却した化学へ展開しようとしているかがわかる。

 

可視光レドックス触媒を用いた反応開発

第三回で述べたように、MacMillan先生は2008年から可視光レドックス触媒とMacMillan触媒の協働系を中心に報告していた。
大変興味深い反応であるが、MacMillan先生は可視光レドックス触媒をもっとポテンシャル秘めたものであると判断したようだ。
こちらもMacMillan触媒から足を離し、可視光レドックス触媒のみに立脚した反応開発をはじめる。

その走りがNatureに報告された芳香族化合物のトリフルオロメチル化。(参考文献5)
トリフルオロメチル源をとしてCF3SO2Clを用いることで、励起状態のRu触媒でトリフルオロメチルラジカルを発生させることが可能になり、芳香族化合物を直接トリフルオロメチル化できるようになった。


図3. 光触媒による芳香族化合物のトリフルオロメチル化

反応も画期的で素晴らしいが、MacMillan groupの論文の流れを見たときにMacMillan触媒から脱却した可視光レドックス触媒反応として重要である。

MacMillan先生はますます可視光レドックス触媒に力を注いでいく。
さて、とはいっても新しい分野の可視光レドックス触媒、ここからどう展開すればいいのか、、、参考になる知見も当時は少なかっただろう。

ここでMacMillan先生がとった作戦まさには悪魔的・・・!

適当に基質と光触媒を混ぜて、光当てたらええんや!!
みんなやっとらん化学やから、なんかええ反応見つかるやろ!

ということで様々な基質を自動合成装置で反応させてスクリーニング。(参考文献6)
論文によると「毎日1000種のランダムな反応をスクリーニングできるぜ!」
とのこと。(^_^;)まじか・・・

テキトーにスクリーニングするのさえ「自動合成による圧倒的実験量」という勝つ理由を確保して、新しい着眼を拾ってくる、、、(^_^;)
ほんと戦略的ですよね。。。

そんなこんなで見つけたのがこの反応。
アミンとベンゾニトリル類のカップリング。


図4. 自動合成装置による膨大なスクリーニングで見出された反応。(参考文献6より引用)

可視光レドックス触媒の記事でも紹介したが可視光レドックス触媒の酸化と還元を利用した見慣れないカップリング反応。
また単にこの反応を見つけただけでなく、ベンゾニトリル類をカップリングパートナーにするという新たな視点を獲得した。

で、このベンゾニトリル類の反応という新しい着眼を元の有機触媒の知見と組み合わせてまた新しい発見を見出す。
それがScience誌に報告されたカルボニル化合物のβ位のアリール化。(参考文献7)
SOMO activation から発生したラジカルカチオンが脱プロトン化し、β位にラジカルができる。このラジカルをベンゾニトリルでトラップする。


図5. 有機触媒と光触媒によるβ位のラジカル発生。おもろいね。(参考文献7より引用)

新たな知見をこれまでの化学と組み合わせて、また新しい活性化様式を発見した。すごいなぁ・・・(^_^;)
新しい軸をみつけてからすぐに基質を振るのがMacMillan先生の流儀。
すぐにβ位のラジカル種の反応をケトンやマイケルアクセプターとの反応に拡張させた。(参考文献8)

もはや重要な点は有機触媒でなくMacMillan触媒は用いられていないし不斉反応でもない。
まさしくMacMillan触媒から脱却したところで反応開発していることがわかる。

 

David W. C. MacMillan, 第四回:MacMillan触媒から脱却した化学へ、のまとめ

今回は長く取り組んできたMacMillan触媒の化学から脱却を図ろうとしている過渡期を見てきた。
ここで興味深いのは、チャレンジングさと実現性を両立するためにMacMillan触媒を用いて反応開発をするうえで培った化学から出発していることだ。

・MacMillan触媒と超原子価ヨウ素+銅触媒
・MacMillan触媒と可視光レドックス触媒

であった前回から続く方針が

・超原子価ヨウ素+銅触媒
・可視光レドックス触媒

に変化してきている。
常に今あるものに新しいことを一つだけ足して、気が付けば元の研究から離れた新しい化学を確立してしまっている。

これってすごいことではないだろうか?
MacMillan触媒レベルの発見をして、いつまでもしがみつくわけでもなく、新し取り組みを模索し続ける。
凡人の器では無理・・・(^_^;)

あとはMacMillan group の仕事を追っていると勝つべくして勝とうとしていることがよくわかる。

可視光レドックス触媒反応を自動合成でスクリーニングすることを黎明期にやってしまうなど、天才的としか言いようがない。
確かにそういうアプローチは黎明期にするのが一番効果的だよね。
でも黎明期にそういったアプローチはあんまりされたことないんでないかな?
普通にやっててもある程度新しいこと見つかるわけだし。
後で見たらそれが一番いいかもなと思えるけど、、、思いついたとして実行できるだろうか?(-_-;)

あと、ここらへんで蓄えた知見の量が違うんだろうね。
やっぱりMacMillan groupの可視光レドックス触媒反応は今もレベルがすっごく高い!!
流行ってみんなこぞってやっているのになかなか追いつかれない。

このあたりの研究戦略の練りっぷりはほんとうにすごいなと思う。
改めて考えて研究に取り組まないと駄目だなと、調べながら痛感しました。(-_-)

ついに新しい領域に両足突っ込みはじめたMacMillan先生、

これからどんな展開が待っているのか。。。!!

第五回はこちら

参考文献
(1) J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 4986.
(2) J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 4260.
(3) J. Am. Chem. Soc.201113313782.
(4) J. Am. Chem. Soc. 2012134, 10815.
(5) Nature 2011480, 224.
(6) Science 2011, 334, 1114.
(7) Science 2013, 339, 1593.
(8) a) J. Am. Chem. Soc. 2013135, 18323., b) J. Am. Chem. Soc. 2014136, 6858

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