有機化学のブログ:面白い最新論文解説したり、有名反応をまとめたり、入門向け記事書いたり。

スワーン酸化 / Swern oxidation

2018/06/10
 
この記事を書いている人 - WRITER -

スワーン酸化 / Swern oxidation

アルコールを酸化してカルボニルへ変換する方法は星の数ほど報告されている。

どれも大事な反応だが、お気に入りの反応を一つ挙げるとすれば私はスワーン酸化にするだろう。
スワーン酸化のどの辺が気にいっているかというと、反応機構と反応がしたい事が噛み合った絶妙な「巧妙さ」だ!

 

反応概要

活性化したDMSOとアルコールを反応させたのち後、塩基で処理することでカルボニル化合物が得られるというもの。


図1. スワーン酸化の概略。

反応機構

1. -78度の低温下、DMSOを塩化オキサリルで活性化し、クロロスルフォニウムイオンを発生させる。
2. クロロスルフォニウムと基質のアルコールを反応させ、アルコキシスルフォニウムイオンを得る。
3. 塩基を加えると、アルコキシスルフォニウムイオンのαプロトンは酸性度が上がっているため容易に引き抜かれる。
4. 分子内でプロトン移動が起きると共に酸素-硫黄結合が開裂し酸化反応が完結する。


図2. スワーン酸化の反応機構、ややこしいよね。

反応のポイント

スワーン酸化は一般的に反応条件がマイルドと言われる。
が、マイルドってなんだろう?
大抵の一級または二級アルコールを酸化できるという意味では非常に強烈な酸化だ。

この反応の場合、次のような点を指してマイルドと言われる。

1. アルコールの酸化が一級アルコールがアルデヒドで止まってカルボン酸へ過剰酸化されない

この特徴はスワーン酸化独特の反応機構に由来する。

普通の酸化反応では反応が進むとアルデヒドができてきて、アルデヒドも酸化条件にさらされてしまう。
そして、通常の酸化剤はしばしばアルデヒドからカルボン酸への過剰酸化がつい起こってしまいやすい。

一方、スワーン酸化に用いる酸化剤であるクロロスルホニウムイオンはアルデヒドと反応せず、アルコールのみと求核置換を起こして、塩基で処理して酸化反応が完結する。

よってカルボン酸への過剰酸化は基本的に起きない。

おぉー!!ちょーよくできてるー!

 

2. アルコール選択的で余計な反応が起きにくい

酸化試薬のクロロスルフォニウムイオンは塩基を加えるまでは単なる求核剤として振る舞う。
よってオレフィンなど余計な部分に反応せず、速やかにアルコールと反応してアルコキシスルフォニウムイオンになる。
また塩基を加えて酸化が完結する段は分子内反応になっている!
これらの理由により、余計な事が起きにくくなっているのだろう。

水素原子を二つ取り除くためになんて巧妙な反応なんだろうか!

 

信頼と実績と悪評と

全合成でも頻出であり、抜群の実績と信頼てある。

だがこの反応には「ニオイ」という致命的な欠点がある。
等量のジメチルスルフィドが発生するのだ。

控えめに言って死ぬほどくさい。

やった事のある人はわかると思うが、これはかなり辛い。
洗ってもニオイが消えない。電車に乗る事も躊躇われる、、、
反応溶液をこぼそうものなら、それはまさに悪夢だ。

そんな欠点があるにも関わらず利用されるスワーン酸化。いかに重要かよくわかる。

紙の上での美しさと、実験上の煩雑さ、悪夢のニオイ。
どれもハイインパクトだが、もうやる予定がないから悪い事は忘れた

好きです、スワーン酸化

sponsored link
この記事を書いている人 - WRITER -

Comment

  1. 匿名 より:

    楽しく拝読させていただきました。
    一点、気になったのがSwernの一段階目は酸化条件ではないのではないかということです。
    反応自体は求核付加ですし、いずれの元素も酸化数が変化していないため
    そもそもSwernは「反応系が酸化条件にならない」反応ではないかと思います

    • moroP より:

      ご指摘ありがとうございます。

      形式酸化数的には酸化数変わってないので酸化反応ではないんですか。。。確かに。

      でも酸化条件でないとすれば、基質が明らかに酸化されているのは違和感があるような。。。?
      かといって二段階目は価数が変わっていますが、このステップを酸化というのか。。。

      酸素―水素結合を酸素―脱離基結合に変換しているという意味で酸化ととらえるのは無茶苦茶ですかね。。。

      んー結構考えたんですけどわからないです。
      教えていただけると幸いです。。。

  2. KRRN より:

    酸化数が変わる段階と、酸化剤が関与する段階は必ずしも同一ではないと思います。
    というかアルコールの酸化は全部違いますよね…
    大抵の酸化はアルコールが酸化剤に求核攻撃して活性中間体を形成した後(1段階目)、その中間体が塩基等により分解する段階(2段階目)が酸化数が変わる段階です

    Swernの場合はアルデヒドが酸化剤に晒されないというのはその通りですが
    それがカルボン酸ができない決定的な理由ではないと思います。
    求電子的な酸化剤であるクロロスルホニウムイオンは、求電子的な化学種であるアルデヒドとは反応しないというのが正しい理解では?
    同様メカニズムの Parikh-Doering酸化は最初から全部試薬混ぜますがカルボン酸になったりしませんよね

    • moroP より:

      確かに。ご指摘の通りですね。

      やっといくらか理解できました。
      ありがとうございます!!

      そのあたりのくだりを修正しました。
      ただ急いで明らかな間違いを修正した感じなので、なんかめちゃくちゃに。
      この記事消してしまうかも。。。

      そのうち大幅加筆・修正するか。。。

      • KRRN より:

        修正ありがとうございます。

        注文ばかりで恐縮ですが、
        個人的には「アルコールよりアルデヒドを優先して酸化しやすい」っていうくだりも気になります

        Jones酸化に代表されるようなカルボン酸まで行ってしまう酸化反応はアルデヒドが直接酸化されるのではなく、含水溶液中でアルデヒドと平衡状態にあるgem-diolが酸化されてできるとされています。
        DMSO系酸化は水を必要とせずgem-diolが系中に発生しないのがメリットなのかなと思います

        • moroP より:

          たびたびご指摘ありがとうございます。

          「優先」がまずかったですかね。

          とりあえず応急処置てきに修正しましたが、ご指摘いただいた点を踏まえてこの記事そのうち書き直します。。。(-_-;)

          本当にありがとうございます。
          今後ともよろしくお願いいたします。

moroP へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

Copyright© 有機化学論文研究所 , 2017 All Rights Reserved.