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David W. C. MacMillan, 第八回:フィードバックできそうな事・戦略編

2018/02/04
 
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我々にも活かせることはないだろうか?

ここまで七回に渡ってMacMillan先生の研究を一通り紹介してきました!
ほとんどの成果がNature, Science, JACSに掲載されていて、Angewだと珍しく思えるほどのぶっちぎりっぷり。

ここまですごいと、「MacMillan先生は天才だから」とか「資金力やマンパワーが違いすぎるぅ~!」とか言いたくなりますが、きっと自分にもフィードバックできることってあると思うんです。

MacMillan先生にはなれなくても、今の自分を改善できそうな点を見つけられるはず。

今回は私がMacMillan先生の論文を一通り目を通して思った卓越した戦略や戦術についてつらつら書いていきます!
今までの繰り返しになる部分もありますが、まとめということで。

戦略編

勝つべくして勝つ:今ある分野に新しいことを一つ足す。

MacMillan groupの反応開発研究の流れを非常に簡単にまとめる。
青字はバックグランド赤字は新しい要素 を表す。

独立前
・Evans研の金属触媒による不斉反応

これまでの知見を活かせる新領域
・MacMillan触媒による不斉反応(不斉反応開発+有機触媒)

有機触媒とほかの化学のハイブリット
・MacMillan触媒を用いたSOMO activation(有機触媒+電子移動)
・MacMillan触媒と可視光レドックス触媒の協働(有機触媒+可視光レドックス触媒)
・MacMillan触媒と銅触媒の協働(有機触媒+銅触媒)

MacMillan触媒からの脱却
可視光レドックス触媒のみ

可視光レドックス触媒に何か足す
可視光レドックス触媒+水素移動触媒
可視光レドックス触媒+ニッケル触媒
可視光レドックス触媒+水素移動触媒+ニッケル触媒

MacMillan触媒からの脱却を除いて見事にバックグランドに一つ新しい要素を足す方針を貫いているね。
こういったアプローチをとり続けるのは以下の二点のメリットが考えられる。

・高い実現性と新しさの両立
まったく新しいことを急に初めてもなかなか上手くいくものではない。MacMillan先生レベルの有機化学センスをもってしても恐らくそうなのだろう。過去の知見を存分に活かして、新しいながら勝算の高いところで研究を行っている。

・高いレベルの仕事ができる
元となるバックグランドの化学がレベルが高ければ、新しい要素を足したもののレベルも高いだろうという理屈。普通とってつけたみたいになって、そんなうまくいかないんだけどね~(^_^;)
ポイントは新しい要素を足す際に、バックグランドの化学に最も最適な分野を探してきていることだろう。

MacMillan groupのセミナー資料見ると「こんなの注目してんだ・・・」と思えるものがいっぱい。(MacMillan group presentations)

この辺の幅広い勉強から、最適な新要素を引っ張ってきているのだろう。

まさに勝つべくして勝つケミストリー。いかに勉強が大事かよくわかる。。。

また唯一の例外に思える、可視光レドックス触媒のみの反応開発も、進出する際に自動合成を導入して圧倒的実験量という勝つ理由を確保している。(参考文献1、第四回)

MacMillan先生は100回生まれたら100回一流化学者になれるだろう。

見習わないとなぁ(^_^;)

 

新しい軸を確立したら”立場に応じて”基質を振りまくる

新たな要素を足すことに成功したときは次に基質を振りまくる。当たり前のようだが、この時に立場に応じて成果をどのくらいのまとまりで出すか変えているように見える。

例えば独立直後、MacMillan触媒黎明期はひたすら成果を小出しにしている。
LUMO activationで生じたイミニウムのフリーデルクラフツ反応についてもピロールをはじめに報告して、次にアニリン、インドールと別論文で小出ししている(参考文献2、第二回)。


図1. LUMO activation によるフリーデルクラフツ反応:すべて別論文です。

ちょっとやりすぎかと思う気もするが、これほど同じ化学を「前と違うんだ!」とこれでもかというほど主張している。

インドール:触媒があたらしいぜ!!
アニリン:今まで違って天然物で重要な複雑なベンジル位の不斉点を構築できるぜ!!

といった具合だ。これでJACS通り続けることに関しては議論のあるところかもしれないのだが、論文を量産しなければならない若手時代にはこういったテクニックも必要だろう。
(この辺のテクニックは次回戦術編でまとめたい。)

この時重要なのはほとんど同じ化学は一気に論文にしてしまっている事。上記のフリーデルクラフツの三報は2001年と2002年に出ている。同時並行で検討され、計画的に小出しにされていることがうかがえる。検討段階でこの三報を別論文に分けられると思ってたってことだろうね・・・まじか(^_^;)

一方で同じような化学は何年もしない。時間をおいてから出てくるのは分子変換として別の反応になる。基質検討で同じような反応でいっぱい論文出しているのに、早々に見切って次に進む。

このバランス感覚は異常。
普通はどちらかに偏るよね~
今ある成果を詰め込んで論文ごとに新しいチャレンジをするか、同じような化学ばっかりを量産するか。MacMillan先生は「鉄は熱いうちに打て、冷めたら打つな」と言わんばかりに似たような化学を間を置かず連投。その後はすっぱり別の反応に行く。

これ難しいよなぁ(^_^;)相当練りに練られて計画的に研究が進められているのだろう。

一方で大御所になってくると詰め込んだ論文が増えてくる。

同じような反応はあまり報告しないし、別論文にしてもよさそうな論文もまとめて一報にしている。例えば2011年Nature誌に報告された全合成は6っつの合成を一報にまとめるという驚きの論文(参考文献3, 第七回)。また、2017年Nature chem誌に報告されたアルデヒドのα位のオレフィンによる不斉アルキル化は分子内反応と分子間反応を一報にまとめている(参考文献4、第六回)。


図2. アルデヒドのαアルキル化:分子内反応と分子間反応が一報に詰め込まれている。

2000年代初頭とは明らかに論文の出し方が変わってきている。

研究って学術的なことだけ考えてればいいんじゃないんだね(^_^;)

 

David W. C. MacMillan, 第八回:フィードバックできそうな事・戦略編のまとめ

MacMillan先生の研究を追っていると、かなり戦略的に練られていることがよくわかる。もちろんMacMillan先生は天才的有機化学力を有しているのは疑いないが、我々でも研究を進めるうえで戦略をもって取り組むことは非常に重要になるに違いない。

「自分が今取り組んでいる研究に勝つ必然性があるか?」
これを常に考えて日頃の研究に取り組みたいですね。(^O^)

あとなんだかんだ言って若いうちは論文数大事かもな~
えらくなってから詰め込んだ質の高い論文を出すべきなのかもね・・・

論文の出し方の変遷にもいろいろ考えさせられる。

ちょっと長くなったけどMacMillan先生の研究はこんなところにしておきたい。

数年分たまったらまたまとめようかな。

 

参考文献
1) Science 2011, 334, 1114.
2) (a) J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 4370. (b) J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 1172. (c) J. Am. Chem. Soc. 2002, 124,7894.
3) Nature 2011475, 183.
4) Nature Chemistry 2017, 9, 1073.

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